69 / 91
第9章 回り道、寄り道、それも目的地へ続く道
15
しおりを挟む
「ラーハルト! 次はどっち!?」
「つ、次は……ゔっ! も、もうちょっと進むと、川があるので、そこを左で……ゔっぷ!」
『ぐるるぅ……』
『おい、ラーハルト。グレートウルフが自分の上で吐くなっつってるぞ』
「だ、だっで、ゔっ……従魔との感覚共有がこん、こんなに気持ち悪いなんて……っゔゔ!」
まるで突風のような速さで険しい山の中を駆け抜けるサザンカとグレートウルフ。
その背の上に紐で括り付けられたラーハルトは、真っ青な顔で必死に吐き気と闘っていた。
「ラーハルト、あんた感覚共有の従魔術って初めてだっけ?」
「そ、そうで……ぉえっ、おええええ!」
『キャンッ!?』
遂にキラキラと輝くあれを口から溢れさせたラーハルトに、哀れにもラーハルトを背に括り付けられていたグレートウルフが悲痛な鳴き声をあげる。
その光景を無視、もといそっとしておいて、ツバキはサザンカの背の上で自身の後ろに跨るククルへ声をかける。
「……とにかく、川に当たるまで直進して、そこから左よ! ククルさん、もっと飛ばすから、しっかり掴まっててね!」
「大丈夫っす! ウルのとんでも飛行に比べればこれくらい!」
「上等。サザンカ! 飛ばして!!」
『おう! 振り落とされんなよ!!』
「おろろろろろろ……」
吐き気を耐えたり耐えられなかったりしつつ、ラーハルトはシシーが見ているものをそのまま伝え続ける。
言っていた通り川へ出て、左へ曲がり、そのまま川に沿って走り続ける。
しばらく走り続けそして、「あっ!!」とラーハルトは大きな声をあげた。
「み、見えましたぁっ! シシーが追ってる不審な馬車の中に、青い何かが光ってる!!」
「ウル……! それはきっとウルの鱗っす!!」
「よし、ラーハルト! シシーには相手に見つからないようにそのまま追跡するように指示して!」
「は、はいっ!」
「私達は相手に気づかれないぎりぎりまで接近するわよ!」
サザンカ達の脚が徐々に速度を落としていく。
そして完全に止まったところで、真上からシシーが小さな羽ばたきと共に降りてきた。
『あやつら、ずっと無茶な速度で走っておったが、車輪がはまったらしくてこの少し先で止まっておるのじゃ。ラーハルト、おぬしも見えとるじゃろ?』
「見えおろろろろろ」
「誘拐犯が何人いるか分かる?」
青白い顔で地面に倒れ込むラーハルトに変わり、ツバキがシシーに訊ねる。
『男が3人おったのじゃ』
「それだけ ? 髪の長いうざったいむかつく女はいなかった?」
『男3人だけじゃ』
シシーの返答に、ツバキは眉を寄せる。
「……あの女が関わってると思ったのは早合点だったかな」
「はぁ、はぁ……女盗賊が関わってるかどうかはともかく……ゔぅ……誘拐犯が足止めをくってる内に、はぁ、ゔっ! ……ウルちゃんを取り戻すべきじゃ?」
横になったまま意見を述べるラーハルトへ視線を寄越したツバキは、少し考えてからそうねと頷く。
「ウルちゃんを取り戻すことが第一ね。ラーハルト……は、ここで待機。その目眩と吐き気が治ったら手助けして」
「ふぁい……」
「サザンカは誘拐犯の前方に回り込んで、なるべく大袈裟に暴れて。あんたが誘拐犯の気を引いてる間に、私とククルさんが後ろから馬車に近づく」
『俺が一気に誘拐犯を叩いた方が早くねえか?』
「万一のための保険よ。まだ睡眠薬を持ってるとも限らないし、女盗賊が関わってるなら、癪だけど油断しないほうがいい。でしょ?」
『まぁ、お前がそう言うなら』
そう言うとサザンカはグッ、と四肢に力を込めて跳躍する。
サザンカがツバキ達の前から一瞬で姿を消したそのすぐ後、少し遠くから男達の悲鳴があがった。
「つ、次は……ゔっ! も、もうちょっと進むと、川があるので、そこを左で……ゔっぷ!」
『ぐるるぅ……』
『おい、ラーハルト。グレートウルフが自分の上で吐くなっつってるぞ』
「だ、だっで、ゔっ……従魔との感覚共有がこん、こんなに気持ち悪いなんて……っゔゔ!」
まるで突風のような速さで険しい山の中を駆け抜けるサザンカとグレートウルフ。
その背の上に紐で括り付けられたラーハルトは、真っ青な顔で必死に吐き気と闘っていた。
「ラーハルト、あんた感覚共有の従魔術って初めてだっけ?」
「そ、そうで……ぉえっ、おええええ!」
『キャンッ!?』
遂にキラキラと輝くあれを口から溢れさせたラーハルトに、哀れにもラーハルトを背に括り付けられていたグレートウルフが悲痛な鳴き声をあげる。
その光景を無視、もといそっとしておいて、ツバキはサザンカの背の上で自身の後ろに跨るククルへ声をかける。
「……とにかく、川に当たるまで直進して、そこから左よ! ククルさん、もっと飛ばすから、しっかり掴まっててね!」
「大丈夫っす! ウルのとんでも飛行に比べればこれくらい!」
「上等。サザンカ! 飛ばして!!」
『おう! 振り落とされんなよ!!』
「おろろろろろろ……」
吐き気を耐えたり耐えられなかったりしつつ、ラーハルトはシシーが見ているものをそのまま伝え続ける。
言っていた通り川へ出て、左へ曲がり、そのまま川に沿って走り続ける。
しばらく走り続けそして、「あっ!!」とラーハルトは大きな声をあげた。
「み、見えましたぁっ! シシーが追ってる不審な馬車の中に、青い何かが光ってる!!」
「ウル……! それはきっとウルの鱗っす!!」
「よし、ラーハルト! シシーには相手に見つからないようにそのまま追跡するように指示して!」
「は、はいっ!」
「私達は相手に気づかれないぎりぎりまで接近するわよ!」
サザンカ達の脚が徐々に速度を落としていく。
そして完全に止まったところで、真上からシシーが小さな羽ばたきと共に降りてきた。
『あやつら、ずっと無茶な速度で走っておったが、車輪がはまったらしくてこの少し先で止まっておるのじゃ。ラーハルト、おぬしも見えとるじゃろ?』
「見えおろろろろろ」
「誘拐犯が何人いるか分かる?」
青白い顔で地面に倒れ込むラーハルトに変わり、ツバキがシシーに訊ねる。
『男が3人おったのじゃ』
「それだけ ? 髪の長いうざったいむかつく女はいなかった?」
『男3人だけじゃ』
シシーの返答に、ツバキは眉を寄せる。
「……あの女が関わってると思ったのは早合点だったかな」
「はぁ、はぁ……女盗賊が関わってるかどうかはともかく……ゔぅ……誘拐犯が足止めをくってる内に、はぁ、ゔっ! ……ウルちゃんを取り戻すべきじゃ?」
横になったまま意見を述べるラーハルトへ視線を寄越したツバキは、少し考えてからそうねと頷く。
「ウルちゃんを取り戻すことが第一ね。ラーハルト……は、ここで待機。その目眩と吐き気が治ったら手助けして」
「ふぁい……」
「サザンカは誘拐犯の前方に回り込んで、なるべく大袈裟に暴れて。あんたが誘拐犯の気を引いてる間に、私とククルさんが後ろから馬車に近づく」
『俺が一気に誘拐犯を叩いた方が早くねえか?』
「万一のための保険よ。まだ睡眠薬を持ってるとも限らないし、女盗賊が関わってるなら、癪だけど油断しないほうがいい。でしょ?」
『まぁ、お前がそう言うなら』
そう言うとサザンカはグッ、と四肢に力を込めて跳躍する。
サザンカがツバキ達の前から一瞬で姿を消したそのすぐ後、少し遠くから男達の悲鳴があがった。
136
お気に入りに追加
2,734
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています
今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。
それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。
そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。
当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。
一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?
江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】
ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる!
※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。
カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過!
※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪
※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
【完結】ごめんなさい?もうしません?はあ?許すわけないでしょう?
kana
恋愛
17歳までにある人物によって何度も殺されては、人生を繰り返しているフィオナ・フォーライト公爵令嬢に憑依した私。
心が壊れてしまったフィオナの魂を自称神様が連れて行くことに。
その代わりに私が自由に動けることになると言われたけれどこのままでは今度は私が殺されるんじゃないの?
そんなのイ~ヤ~!
じゃあ殺されない為に何をする?
そんなの自分が強くなるしかないじゃん!
ある人物に出会う学院に入学するまでに強くなって返り討ちにしてやる!
☆設定ゆるゆるのご都合主義です。
☆誤字脱字の多い作者です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。