捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第9章 回り道、寄り道、それも目的地へ続く道

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 「ラーハルト! 次はどっち!?」
 「つ、次は……ゔっ! も、もうちょっと進むと、川があるので、そこを左で……ゔっぷ!」
 『ぐるるぅ……』
 『おい、ラーハルト。グレートウルフそいつが自分の上で吐くなっつってるぞ』
 「だ、だっで、ゔっ……従魔との感覚共有がこん、こんなに気持ち悪いなんて……っゔゔ!」
 まるで突風のような速さで険しい山の中を駆け抜けるサザンカとグレートウルフ。
 その背の上に紐で括り付けられたラーハルトは、真っ青な顔で必死に吐き気と闘っていた。
 「ラーハルト、あんた感覚共有の従魔術って初めてだっけ?」
 「そ、そうで……ぉえっ、おええええ!」
 『キャンッ!?』
 遂にキラキラと輝くあれを口から溢れさせたラーハルトに、哀れにもラーハルトを背に括り付けられていたグレートウルフが悲痛な鳴き声をあげる。
 その光景を無視、もといそっとしておいて、ツバキはサザンカの背の上で自身の後ろに跨るククルへ声をかける。
 「……とにかく、川に当たるまで直進して、そこから左よ! ククルさん、もっと飛ばすから、しっかり掴まっててね!」
 「大丈夫っす! ウルのとんでも飛行に比べればこれくらい!」
 「上等。サザンカ! 飛ばして!!」
 『おう! 振り落とされんなよ!!』
 「おろろろろろろ……」
 吐き気を耐えたり耐えられなかったりしつつ、ラーハルトはシシーが見ているものをそのまま伝え続ける。
 言っていた通り川へ出て、左へ曲がり、そのまま川に沿って走り続ける。
 しばらく走り続けそして、「あっ!!」とラーハルトは大きな声をあげた。
 「み、見えましたぁっ! シシーが追ってる不審な馬車の中に、青い何かが光ってる!!」
 「ウル……! それはきっとウルの鱗っす!!」
 「よし、ラーハルト! シシーには相手に見つからないようにそのまま追跡するように指示して!」
 「は、はいっ!」
 「私達は相手に気づかれないぎりぎりまで接近するわよ!」

 サザンカ達の脚が徐々に速度を落としていく。
 そして完全に止まったところで、真上からシシーが小さな羽ばたきと共に降りてきた。
 『あやつら、ずっと無茶な速度で走っておったが、車輪がはまったらしくてこの少し先で止まっておるのじゃ。ラーハルト、おぬしも見えとるじゃろ?』
 「見えおろろろろろ」
 「誘拐犯が何人いるか分かる?」
 青白い顔で地面に倒れ込むラーハルトに変わり、ツバキがシシーに訊ねる。
 『男が3人おったのじゃ』
 「それだけ ? 髪の長いうざったいむかつく女はいなかった?」
 『男3人だけじゃ』
 シシーの返答に、ツバキは眉を寄せる。
 「……あの女が関わってると思ったのは早合点だったかな」
 「はぁ、はぁ……女盗賊シルビアが関わってるかどうかはともかく……ゔぅ……誘拐犯が足止めをくってる内に、はぁ、ゔっ! ……ウルちゃんを取り戻すべきじゃ?」
 横になったまま意見を述べるラーハルトへ視線を寄越したツバキは、少し考えてからそうねと頷く。
 「ウルちゃんを取り戻すことが第一ね。ラーハルト……は、ここで待機。その目眩と吐き気が治ったら手助けして」
 「ふぁい……」
 「サザンカは誘拐犯の前方に回り込んで、なるべく大袈裟に暴れて。あんたが誘拐犯の気を引いてる間に、私とククルさんが後ろから馬車に近づく」
 『俺が一気に誘拐犯を叩いた方が早くねえか?』
 「万一のための保険よ。まだ睡眠薬を持ってるとも限らないし、女盗賊が関わってるなら、癪だけど油断しないほうがいい。でしょ?」
 『まぁ、お前がそう言うなら』
 そう言うとサザンカはグッ、と四肢に力を込めて跳躍する。
 サザンカがツバキ達の前から一瞬で姿を消したそのすぐ後、少し遠くから男達の悲鳴があがった。
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