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第9章 回り道、寄り道、それも目的地へ続く道
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運良く冒険者ギルドに滞在していた薬師のリリを連れて帰ってきたラーハルトは、急いで中庭へと向かった。
説明もそこそこだったのか、いまいち状況を理解していないリリにツバキが詳しく説明をすると、戸惑っていたリリの表情が次第に迷いのない真剣なものへ変わっていく。
「……確かに、状況からみて睡眠薬の類を盛られたのだと思います」
「薬の特定と、中和剤や解毒剤を処方してもらえる?」
「はい、大丈夫だと思います」
「ありがとう、よろしくお願いします」
薬師であるリリの見立てに、ツバキはひとまず胸を撫で下ろす。
そしてさっと仕事に取り掛かったリリを確認すると、今度はラーハルト達へ向き直る。
「さて、それじゃあ私達もやる事をしましょうか」
「やること、ですか?」
「そっ。ラーハルトはこのままリリさんの手伝いと、預かり処をお願い」
「は、はいっ!」
「ククルさん、私達は冒険者ギルドに行きましょう」
「え?」
「盗難被害届の提出と、犯人についての情報がないか聞きに行くわよ」
「あっ、はいっ!」
そうしてツバキとククルは、ラーハルトと入れ替わりに冒険者ギルドへと走り出した。
♦︎
「すみまっせ────んっ!!」
「ははははいっ!?」
バン! と、冒険者ギルドに入るやいなや、ツバキは受付へと直行する。
「あの! 従魔の盗難の被害届を出したいんですが!」
「ぇえっ!? 預かり処さん、また盗難被害に遭われたんですか!?」
「え、また……?」
「ちちち違くて! 私じゃなくって、こっちこっち!」
受付係の発した一言に、ツバキの一歩後ろに居るククルが反応する。
ククルの微妙な視線を察したツバキは、慌てて受付係の注意をククルへと移す。
「彼女の従魔が連れ去られたの! だからその被害届と、何か盗難犯についての情報がないか、この2点をすぐにお願いします!!」
「は、はいっ! ええっと、被害届、被害届……では、従魔の契約者の方にこちらの記入をお願いいたします。盗難された従魔の特徴について、出来るだけ詳しくお願いいたします」
「はい、分かりました」
「その間に、盗難犯についての情報がないか調べてまいりますので、少々お待ちください」
「よろしくね」
ツバキはカウンターから離れて奥へと入っていった受付係を見送ると、わたわたと被害届を書いているククルへここはこう書く、そこはそう書く、と口を出す。
すると当然、ククルはちょっとだけ眉間に皺を寄せ。
「……ツバキさん、従魔の盗難被害に遭ったこと、あるんすね?」
「……」
ピリッとした空気が、ツバキとククルの間で流れる。
何か言おうとして、けれどククルの真剣な顔を見たツバキは一言、是と答える。
「……はい。あります」
「ウルを預ける時、そんなこと一言も言ってませんでしたよね? それってちょっと誠意がないんじゃないっすか? 1度盗難被害に遭っているのに、安全対策の確認とかしてなかったんすか!?」
「ご、ごめんなさい! その通り! 防犯意識が甘かったです……! サザンカ、うちの従魔がいれば大丈夫だと思ってました……!」
ククルの指摘に、ツバキは改めて背筋を正して頭を下げる。
「預かっていた貴女の従魔を連れ去られたこと、私達の非です。本当にごめんなさい」
「……」
「でも、絶対にうちが責任を持ってウルちゃんを取り戻します」
「……信じますと、ここでは言えないっす。でも、これからの行動で、信じさせてください」
ツバキはククルの不安に揺れる瞳を真っ直ぐに見つめて答えた。
「勿論、応えてみせる」
説明もそこそこだったのか、いまいち状況を理解していないリリにツバキが詳しく説明をすると、戸惑っていたリリの表情が次第に迷いのない真剣なものへ変わっていく。
「……確かに、状況からみて睡眠薬の類を盛られたのだと思います」
「薬の特定と、中和剤や解毒剤を処方してもらえる?」
「はい、大丈夫だと思います」
「ありがとう、よろしくお願いします」
薬師であるリリの見立てに、ツバキはひとまず胸を撫で下ろす。
そしてさっと仕事に取り掛かったリリを確認すると、今度はラーハルト達へ向き直る。
「さて、それじゃあ私達もやる事をしましょうか」
「やること、ですか?」
「そっ。ラーハルトはこのままリリさんの手伝いと、預かり処をお願い」
「は、はいっ!」
「ククルさん、私達は冒険者ギルドに行きましょう」
「え?」
「盗難被害届の提出と、犯人についての情報がないか聞きに行くわよ」
「あっ、はいっ!」
そうしてツバキとククルは、ラーハルトと入れ替わりに冒険者ギルドへと走り出した。
♦︎
「すみまっせ────んっ!!」
「ははははいっ!?」
バン! と、冒険者ギルドに入るやいなや、ツバキは受付へと直行する。
「あの! 従魔の盗難の被害届を出したいんですが!」
「ぇえっ!? 預かり処さん、また盗難被害に遭われたんですか!?」
「え、また……?」
「ちちち違くて! 私じゃなくって、こっちこっち!」
受付係の発した一言に、ツバキの一歩後ろに居るククルが反応する。
ククルの微妙な視線を察したツバキは、慌てて受付係の注意をククルへと移す。
「彼女の従魔が連れ去られたの! だからその被害届と、何か盗難犯についての情報がないか、この2点をすぐにお願いします!!」
「は、はいっ! ええっと、被害届、被害届……では、従魔の契約者の方にこちらの記入をお願いいたします。盗難された従魔の特徴について、出来るだけ詳しくお願いいたします」
「はい、分かりました」
「その間に、盗難犯についての情報がないか調べてまいりますので、少々お待ちください」
「よろしくね」
ツバキはカウンターから離れて奥へと入っていった受付係を見送ると、わたわたと被害届を書いているククルへここはこう書く、そこはそう書く、と口を出す。
すると当然、ククルはちょっとだけ眉間に皺を寄せ。
「……ツバキさん、従魔の盗難被害に遭ったこと、あるんすね?」
「……」
ピリッとした空気が、ツバキとククルの間で流れる。
何か言おうとして、けれどククルの真剣な顔を見たツバキは一言、是と答える。
「……はい。あります」
「ウルを預ける時、そんなこと一言も言ってませんでしたよね? それってちょっと誠意がないんじゃないっすか? 1度盗難被害に遭っているのに、安全対策の確認とかしてなかったんすか!?」
「ご、ごめんなさい! その通り! 防犯意識が甘かったです……! サザンカ、うちの従魔がいれば大丈夫だと思ってました……!」
ククルの指摘に、ツバキは改めて背筋を正して頭を下げる。
「預かっていた貴女の従魔を連れ去られたこと、私達の非です。本当にごめんなさい」
「……」
「でも、絶対にうちが責任を持ってウルちゃんを取り戻します」
「……信じますと、ここでは言えないっす。でも、これからの行動で、信じさせてください」
ツバキはククルの不安に揺れる瞳を真っ直ぐに見つめて答えた。
「勿論、応えてみせる」
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