捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第9章 回り道、寄り道、それも目的地へ続く道

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 あれから数日──ではなく、その日の夜。
 ラーハルトの固く崇高な決意は、すぐに砕けることとなった。
 卵の殻でできていたのか? と言いたくなるほどに、それはもう、粉々に、呆気なく。
 『ギュアーッ!! ギュアッギュアアッ!! ンンンンンギュグググウウウウウウウッ!!』
 「……」
 終わらない遊び。餌の拒否。突然の大暴れに、激しい夜泣き。
 いくら幼体といえど、身体のサイズは既にサザンカよりも大きいウルの制御は容易ではなく、既に庭もラーハルトもボロボロだった。
 「……疲れたという言葉しか出てこない」
 座り込むラーハルトの肩が横から伸びてきて手にぽん、と叩かれる。
 流石に疲労の色はあれど、まだ余裕のありそうな表情のツバキが意味ありげに笑う。
 「まだまだ、夜はこれからよ」
 「あえ、あ……?」
 時計は日付を跨いでいるのに? と、ラーハルトの顔がまざまざとそう語っていた。

 ♦︎

 日付が今日から明日へと変わり、深夜というよりももはや早朝の方が近いのでは? という薄暗い空の下。
 ラーハルトは庭で過ごしている従魔達の為の寝床小屋の一角に居た。
 右手には、スヤスヤと眠る青い竜。
 左手には、グウグウと眠る赤い鳥。
 結局あの後、なぜ自分をかまわないのか!! と臍を曲げて大暴れしたシシーが加わり、その騒ぎを遊びだと勘違いしたウルが更にハイテンションで暴れ出し、それを宥めようとラーハルトがウルにかかりきりになり、だからどうしてその鱗ばかりをかまって妾を放置するのか!! とシシーが激怒し──
 と、終わらない悪夢のループから解放されたのは、突然電池が切れたようにウルが寝落ちてからだった。
 「これは確かに、こっちがおかしくなりそうだ……」
 疲れて寝たとはいえ、時折起きてはぐずるウルをその度に宥めて寝かしつけて、を繰り返している内に、もうそろそろ夜も明けそうになってきている。
 『……キュア~』
 「ん? お、起きちゃったか? まだ寝てていいぞ~っ」
 『……キュアアッ』
 昼間はあれだけ楽しそうにきらきらと輝いていたウルの瞳が揺れている。
 そのことに気づいたラーハルトは、シシーの枕になっていた左手をそっとその頭の下から引き抜いて、黙ってじっとラーハルトを見つめているウルの頭を優しく撫でてやる。
 すると、少しだけ細められるウルの瞳に、ラーハルトは昼間にククルとした短い会話を思い出した。

 ♦︎

 「……頭」
 「え?」
 「頭を撫でると、眠るんです」
 「はぁ……」
 「正直、ずっと撫でてるのは疲れるし、あたしも寝たいしって思うんすけど。でも、そんな……癖というか、あの子のことが1つ分かる度に、いとおしくて……」

 ♦︎

 硬くて冷たい鱗の感触は、決して撫でて心地良いものではなかったけれど、ラーハルトは手を止めずに撫で続ける。
 『……キュァ』
 「大丈夫だよ。ククルさんの代わりに、今夜は俺がずっといるから」
 『……キュァァ』
 ふんっ、と。まるでため息のように少し大きく鼻息を吐いたウルが渋々といったように目を閉じる。
 そのまま寝息をたて始めたウルの寝顔に、ラーハルトは起きてる時はまるで手に負えない怪獣だが、寝てる仔竜の姿はふわふわの人形のように可愛いな、と無意識に頬が弛む。
 「しっかし、これを毎日は本当に大変だなぁ……」
 ちょっと休憩、とラーハルトは両手の真上に向けてぐぐっと伸ばす。
 と、ウルがすかさず目はつむったままバンバン! と尻尾で地面を打ち鳴らす。
 「ぅわっ! ご、ごめんごめんっ、よ~しよし、ほら、寝な~?」
 まじで大変だ……と、結局ほぼ徹夜となったラーハルトは心の底から切にそう思った。
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