捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第9章 回り道、寄り道、それも目的地へ続く道

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 「ほ、ほほほ、宝石竜って、あの宝石竜!?」
 「あの宝石竜がどの宝石竜かは知らないけど、預かったククルさんの従魔は宝石竜のひとつだね。んん……ラピスラズリの宝石竜じゃない? 見れば分かるでしょ」
 「いや、宝石竜なんてめっっったにお目にかかれないんですよ!? 魔獣図鑑とか、教科書のイラストでしか見たことないですよ!? ぱっと見、ただの青い鱗してる竜だなぁ、としか思わないでしょ!?」
 「ヨシ。じゃ、宝石竜について学べる良い機会だね。ラーハルト、宝石竜についての基本情報! はいっどうぞっ!」
 「えっ!? えっと、えっとぉ……っ」
 突然ツバキに振られたラーハルトは、まだ驚愕から抜け出せないまま、けれど反射的に答えようと頭と口を動かす。
 「宝石竜は竜種でぇ……大きさ、翼や角の有無などの容姿は個体による……他の竜種と最も異なる
点は、鱗が各種鉱石と同質で、それぞれルビーの宝石竜、エメラルドの宝石竜などと呼ばれる……あとは、たとえ同じ鉱石の宝石竜でも、容姿などは異なるため、全ての個体が唯一ユニークという特殊な魔獣である……」
 「よろしい。何か特筆すべき点は?」
 「えーっと、鱗が宝石の原石と同質ということで、密猟が問題となっている?」
 「うん。他は?」
 「あー……他、他……生息地は完全に不明で、卵の孵化や幼体の育成方法については判明していないことのほうが多い?」
 「そうそう。要するに、宝石竜を従魔にしている前例が極端に少ないってことね」
 相変わらず魔獣の知識についてはよく勉強してるわね、と笑顔で親指を立てるツバキに、ラーハルトは思わずその親指をぺしり、とはたいて絶叫した。
 「……とんっでもない従魔を預かっちゃってません!? ってうか、ククルさんって実はとんでもない人っ!?」
 「というより、宝石竜に限らずそもそも竜種と従魔契約できること自体が凄いことだけどね。技量も、知識も、それから運も」
 「運、ですか?」
 「そう、運。たとえ、どれだけ努力をしても、従魔術師として素晴らしい才能を持っていても、出会えなければ意味がない。……まっ、それはさておき。見てよ」
 「え?」
 ラーハルトはツバキに促されて庭へ目を向ける。
 そこには、預かり処で預かっている従魔達と、楽しそうに遊ぶラピスラズリの宝石竜──ウルの姿がある。
 「正直、私も竜種の従魔なんていないし、実際に遭遇したのも数える程度だけど」
 「(遭遇したこと自体はあるんだ……)」
 やはりというべきか、さらりと竜種との遭遇経験を明かすツバキに、とんでもないテイマーひとだよ……と、改めて思い知らされたラーハルトは隣のツバキを盗み見る。
 すると、ツバキは困ったような、もどかしいような、なんともいえない表情を浮かべてウルを見つめていた。
 「鱗はつやつやして輝いてる。痩せて骨が浮いているわけでもない。翼もしっかりしてるし、爪は丁寧に磨かれてる。私達人間への不快感や猜疑心のようなものも感じない。なにより、ウルあのこ自身が、ククルさんにとても懐いているようにみえた」
 「……」
 ラーハルトもウルをじっくりと観察してみる。ツバキの言うように、健康状態は良さそうだ。
 言われてみれば、今まで預かり処へ無責任に預けられてきた従魔達は、どこか不健康そうであったり、人間へ対する敵対心のようなものがあった。
 けれどウルには、それらがない。
 それがどういうことかと言うと──
 「……大切に、育てられてきたんですね」
 「うん、だろうね。ね、そういう、頑張って頑張って、それでちょっと疲れちゃった従魔術師の力になってあげるのも、預かり処うちの仕事の1つだと思わない?」
 「確かに……育魔ノイローゼが従魔の飼育放棄に繋がらないとも限らないですもんね……一時預かりも、うちの役目かも……?」
 積極的に従魔を一時的に預かると申し出たツバキの意図を確認したラーハルトは、なるほどなるほど、と頷く。
 預かり処の庭では、ウルがキュアッ、キュアッと機嫌良さそうに鳴いている。
 この可愛い幼竜がこれから悲しい思いをしないように、踏み出したばかりの新米竜使いが膝をついてしまわないように、自分達にできる手助けをしよう。
 そう、ラーハルトは決意を固めてぐっと拳を握る。
 「~~っ! っし! 師匠、俺、部屋から魔獣辞典取ってきますね! 3日間の短い預かりとはいえ、しっかりお世話できるようにもっかい宝石竜について勉強します!!」
 家の中へとバタバタ駆けていくラーハルトの背中を見送り、ツバキも再び庭へと戻る為に腰掛けていた縁側から立ち上がる。
 そしてふ、とある思いが湧き上がって自然と口からこぼれ出た。
 「……手助けしてくれる人は周囲にいるんだって、あの頃の自分に言ってあげたいな」
 ぽそりと呟いたツバキの声は誰にも届かず、そのまま空気にとけて空へ昇っていった。
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