捨てられ従魔とゆる暮らし

KUZUME

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第8章 一段、一段、階段を上るように

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 「は、は、は、蜂────っ!!」
 突如現れた熊ほどの大きさの蜂に、ラーハルトは尻餅をついたまま絶叫する。
 『!!』
 するとその叫びに反応したのか、大きな蜂型の魔物の後ろから、小さな蜂型の魔物がブワッ! と飛び出してきた。
 「ぎゃああああ、あっ!?」
 『なにをやっておるのじゃっ!』
 ラーハルトの首根っこを咥えたシシーが、ぐいっと少々乱暴に引っ張り後方へ放り投げる。
 「ぐえっ」と喉から悲鳴をあげたラーハルトが、シシーに向かって何をするんだと文句を言ってやろうと顔をあげる。
 が、一瞬前まで自分がいた場所に蜂の大群が勢いよく群がっているのを見て、サアー……っと血の気が引く。
 「……シシーさん、ありがとう、ございました」
 『うむっ』
 「ラーハルト君っ! 大丈夫かい!?」
 「えっ!? あ、はいっ!」
 小さな蜂の群れを回避しながら、大きい方の蜂型の魔物の相手もしているシルバーから心配の声が飛ぶ。
 それに応えながら、ラーハルトも体勢を立て直す。
 「ラーハルト君っ! 僕の依頼に付き合わせることになって申し訳ないんだけどっ、この小さい方の群れの相手をお願いしてもいいかい!?」
 「は、はいっ!」
 「この蜂型の魔物は火に弱いから……」
 ラーハルトへ指示を出しながら、シルバーは自身の従魔へ強化の従魔術を何重にもかけていく。
 「ラブちゃん!」
 『ガウッ! ガウウッ!』
 正に阿吽の呼吸のごとく。シルバーの従魔は、彼が出す合図を正確に受けて素晴らしい連携で着実に蜂型の魔物を追い詰めていく。
 美しさすら感じるその様を目の当たりにして、ラーハルトは感嘆のため息を吐く。
 そして気合いを入れ直し、シルバーの言う通り小型の蜂の大群の対処をするべくシシーへ指示を出そうと振り返り──
 「よし! シシー! まず、あっちの群れを……」
 『ふんっ。目障りな虫共じゃ! 一匹残らず、消し炭にしてやるのじゃあっ!!』
 「えっ!? ちょっ、シシー!?」
 ラーハルトの制止も間に合わず、下水道の天井すれすれまで舞い上がったシシーがくるりと一回転すると、すう、と胸が膨らむほど息を吸い込み、そして。
 ──ゴオオオオオオオッ!!
 超高温の炎が一直線に蜂型の魔物目掛けて走る。
 「うわああああああっ!!」
 「えっ!? な、なに……あつあつあっづぅ!?」
 『キュゥーンッ!? キュゥンッ!?』
 「……」
 行き場の失った両手で口元を覆い、立ち尽くすラーハルト。
 何が起こったのか分からない表情で、若干服の裾が焦げているシルバーと彼の従魔がそんなラーハルトを振り返る。
 『ふふんっ♪ どおーじゃっ! 妾、大活躍ぅっ! なのじゃっ!!』
 「……」
 褒めろ褒めろ、妾のおかげで依頼が早く終わるのじゃーっと、ご機嫌でラーハルトの周りをくるくると飛んでいるシシー。
 「……えっ、と」
 「…………回復薬、要ります?」
 ラーハルトは涙目で自身のポケットをまさぐった。
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