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第8章 一段、一段、階段を上るように
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「先立つものが、ない!!」
広々とした空間に虚しくその声だけが響く。
ここが仮に山だとしたら、せめてやまびこくらいは返ってくるというのにツバキのその叫びには一切合切の返しはなく──
「先立つものがっ! なあああああいっ!!」
「うるさっ!? なんなんすかさっきから!?」
「だから、先立つものがないんだってば!」
「はい?」
ツバキの渾身の叫びに、ラーハルトは従魔達の朝ごはんを用意していた手を止める。
中々要領を得ないツバキだったが、額に青筋を浮かばせて遂に。
「家の修理と増築でっ! 貯金が底をついたのよおおおお!!」
「……ぇええっ!? 補助金はっ!? 補助金が出るって話じゃありませんでしたっけ!?」
「……」
「? ツバキ師匠?」
ラーハルトの指摘に、ツバキはそれまでの勢いはどこへやら、椅子へ座ると使用三回目でほぼただのお湯と言っていいお茶をズズズ、と啜る。
そして──
「補助金、補助金ね……うん……あったね、確かにね……」
「師匠? ……はっ! まさか、まさか師匠、使いこん……っ」
「でないわよ!!」
ラーハルトの失礼な疑いに、ツバキはダンッ! と手にした湯呑みを机に叩きつけるように置く。
「修理分は補助金出たわよちゃんと! そしてちゃんと修理費に充てたわよ! でも……っ」
「でも?」
「家の増築とっ、庭の整備とっ、厩舎とっ、鳥小屋諸々諸々諸々……」
「……(そういえば、ツバキ師匠が今座ってる社長椅子みたいなセットもいつの間に)」
以前の不死鳥騒動の際に、半壊の上に水浸しとなった預かり処兼自宅を修理し、ついでに手狭になってきていた為にここぞとばかりにあれこれ増築。
更にそういえばこんな家具が必要だよね、やら、あんな設備があったらいいよね、やら。
ラーハルトは改めてぐるりと室内を見渡す。
今居る一部屋だけで、そういえばピカピカの家具がかなりの数ある。
「(……うーん、確かにこれは、)」
あれやこれやツバキが言い募ることを要約するとつまり。
調子にのって色々とやり過ぎた、と。
「とにかくっ!」
場を仕切り直すように、ツバキは一度咳払いをすると、ビシッと真っ直ぐ伸ばした人差し指でラーハルトを指す。
「ラーハルト! 師匠として弟子であるあんたに命れ……課題を出す!」
「命令って言いました今!?」
「うるさい」
ツバキは真新しい社長机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「あんたももう、自分の従魔を得た一端の従魔術師! 冒険者として、この依頼をあんたと不死鳥でこなしてきなさい!!」
「ぇえっ!? いきなり!?」
「依頼はいきなり舞い込むものよ!」
「いや、舞い込んでないじゃないですか! 師匠が呼び込んでんじゃないですかぁ!」
「師匠からの弟子の成長の為の課題よ」
「っていうか、俺達だけですか!? 師匠は!? 師匠は一緒に来てくれないんですか!?」
「師匠は師匠で別口で割の良い依頼受けて稼いでくるから」
突然のことに、口を尖らせつつ手渡された依頼書を見たラーハルトは「げっ」と声を漏らす。
「げえっ! この依頼の場所、ここから結構遠いじゃないですか! しかも依頼内容はスライムによる下水道汚染の掃除……汚い、面倒、低報酬のクソ依頼じゃないですかっっ!!」
「あんたの冒険者ランクを考慮した結果でしょうが。いいから行ってこい! もう紹介料貰ってんだから!」
「紹介料!? し、師匠……! 弟子を売りましたね……!?」
「ラーハルトッ!!」
ツバキの一喝に、ラーハルトの肩がびくりと跳ねる。
「テイムした魔獣へ対する、従魔術師の責任は……!?」
「そ、それは、快適な住環境、適切な食事、運動……」
「そう! そして、それらを整え、維持する為に必要なものは!?」
「…………お金、ですかね」
「当たり! さて、ではそのお金を稼ぐ為に! 従魔達の為に! ラーハルト、いってらっしゃい」
にこり、と微笑むツバキに、ラーハルトが出来ることはただ頷くことだけだった。
広々とした空間に虚しくその声だけが響く。
ここが仮に山だとしたら、せめてやまびこくらいは返ってくるというのにツバキのその叫びには一切合切の返しはなく──
「先立つものがっ! なあああああいっ!!」
「うるさっ!? なんなんすかさっきから!?」
「だから、先立つものがないんだってば!」
「はい?」
ツバキの渾身の叫びに、ラーハルトは従魔達の朝ごはんを用意していた手を止める。
中々要領を得ないツバキだったが、額に青筋を浮かばせて遂に。
「家の修理と増築でっ! 貯金が底をついたのよおおおお!!」
「……ぇええっ!? 補助金はっ!? 補助金が出るって話じゃありませんでしたっけ!?」
「……」
「? ツバキ師匠?」
ラーハルトの指摘に、ツバキはそれまでの勢いはどこへやら、椅子へ座ると使用三回目でほぼただのお湯と言っていいお茶をズズズ、と啜る。
そして──
「補助金、補助金ね……うん……あったね、確かにね……」
「師匠? ……はっ! まさか、まさか師匠、使いこん……っ」
「でないわよ!!」
ラーハルトの失礼な疑いに、ツバキはダンッ! と手にした湯呑みを机に叩きつけるように置く。
「修理分は補助金出たわよちゃんと! そしてちゃんと修理費に充てたわよ! でも……っ」
「でも?」
「家の増築とっ、庭の整備とっ、厩舎とっ、鳥小屋諸々諸々諸々……」
「……(そういえば、ツバキ師匠が今座ってる社長椅子みたいなセットもいつの間に)」
以前の不死鳥騒動の際に、半壊の上に水浸しとなった預かり処兼自宅を修理し、ついでに手狭になってきていた為にここぞとばかりにあれこれ増築。
更にそういえばこんな家具が必要だよね、やら、あんな設備があったらいいよね、やら。
ラーハルトは改めてぐるりと室内を見渡す。
今居る一部屋だけで、そういえばピカピカの家具がかなりの数ある。
「(……うーん、確かにこれは、)」
あれやこれやツバキが言い募ることを要約するとつまり。
調子にのって色々とやり過ぎた、と。
「とにかくっ!」
場を仕切り直すように、ツバキは一度咳払いをすると、ビシッと真っ直ぐ伸ばした人差し指でラーハルトを指す。
「ラーハルト! 師匠として弟子であるあんたに命れ……課題を出す!」
「命令って言いました今!?」
「うるさい」
ツバキは真新しい社長机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「あんたももう、自分の従魔を得た一端の従魔術師! 冒険者として、この依頼をあんたと不死鳥でこなしてきなさい!!」
「ぇえっ!? いきなり!?」
「依頼はいきなり舞い込むものよ!」
「いや、舞い込んでないじゃないですか! 師匠が呼び込んでんじゃないですかぁ!」
「師匠からの弟子の成長の為の課題よ」
「っていうか、俺達だけですか!? 師匠は!? 師匠は一緒に来てくれないんですか!?」
「師匠は師匠で別口で割の良い依頼受けて稼いでくるから」
突然のことに、口を尖らせつつ手渡された依頼書を見たラーハルトは「げっ」と声を漏らす。
「げえっ! この依頼の場所、ここから結構遠いじゃないですか! しかも依頼内容はスライムによる下水道汚染の掃除……汚い、面倒、低報酬のクソ依頼じゃないですかっっ!!」
「あんたの冒険者ランクを考慮した結果でしょうが。いいから行ってこい! もう紹介料貰ってんだから!」
「紹介料!? し、師匠……! 弟子を売りましたね……!?」
「ラーハルトッ!!」
ツバキの一喝に、ラーハルトの肩がびくりと跳ねる。
「テイムした魔獣へ対する、従魔術師の責任は……!?」
「そ、それは、快適な住環境、適切な食事、運動……」
「そう! そして、それらを整え、維持する為に必要なものは!?」
「…………お金、ですかね」
「当たり! さて、ではそのお金を稼ぐ為に! 従魔達の為に! ラーハルト、いってらっしゃい」
にこり、と微笑むツバキに、ラーハルトが出来ることはただ頷くことだけだった。
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