5 / 29
フレイヤ・スフォルツァンドの奮闘
4
しおりを挟む
アスガルズ王国の短い夏の終わり、王宮の庭園で二人の少女の三文芝居が始まるーーー
「今日は少し肌寒いですわね。
こんな日にはコンビニで熱いおでんが食べたいですわ。」
「私は熱い日本茶とどら焼きが食べたいですわ。」
ヨルズノートの意外な嗜好に驚きつつ芝居を続ける。
「ヨルズノート様は和食がお好きですの?」
「ええ、和スイーツは特に好きなのです。
炬燵でテレビを見ながらお饅頭とかよく食べましたわ。」
食べ物が庶民的な物しか出ないが相手は食いついてきた。
「あの、お話中に申し訳ございません。
立ち聞きするつもりはなかったのですが·····」
こちらは立ち聞きさせるつもりでした!
二人は獲物がかかった喜びに口角を上げる。
扇で口元を隠していなければターゲットは逃げ出しただろう微笑みだ。
「御機嫌よう。わたくしはフレイヤ・スフォルツァンドと申します。
こちらはヨルズノート・スクルド侯爵令嬢ですわ。」
「お初にお目にかかります。
ギリング辺境伯の娘ヒルデガルダと申します。」
カーテシーをする姿は愛らしいのに色気がある。
将来の夜遊び令嬢と言われるだけあると二人は内心思った。
「ギリング辺境伯令嬢、如何なさいまして?」
用件はわかっているが最後の確認で聞いてみる。
「あの、····先程炬燵とかTVとかどら焼きとか聞こえてきたのですが、梅干は如何ですか?」
そう来たかとフレイヤは目を細めた。
てっきり前世を覚えているかと聞いてくると思ったが、この世界にない日本の代表格の食べ物でこちらの反応を確認してきた。
しかもチョイスが渋い·····
これを狡猾と取るべきか否かを判断できず笑顔で答える。
「大好きですわ。特に熱々のご飯で食べるのが。」
ヨルズノートもフレイヤの意図に気づき合わせてきた。
「私はお茶漬けで食べるのが一番好きですわ。」
その答えを聞いたヒルデガルダは一筋の涙を流した。
「あ、申し訳ございません。お恥ずかしいところを·····」
フレイヤもヨルズノートも涙の意味を誰よりも理解できた。
だからこそ彼女を信じられる。
「いいえ、大丈夫ですわ。
わたくし達にも覚えがありますもの。
ではこれで失礼致します。」
「もうお帰りになりますの?」
「ええ、漆黒の塔では良い茶葉を栽培しているとか。
どんな味がするのかしら。」
小声で意味深に目配せして踵を返し、主催者の王宮女官長に挨拶をして漆黒の塔へ向かう。
緑葉の間に入ると直ぐにヨルズノートが来て不安そうに聞いてきた。
「気づいてくれたかな?」
「恐らくは·····」
あの場では誰が聞いているかわからないので、込み入った話は出来なかった。
ここに来てくれればなんでも話せる。
どちらも無言のままヒルデガルダが来るのを待った。
ノックの音に二人が急いで扉に飛びつく。
扉を開けるとヒルデガルダが驚いた顔で後退った。
「待ってたよ!
どうぞ中に入って、って言っても私の部屋じゃないんだけど☆」
「落ち着いて下さいませ。ギリング様が引いておりますわ。
お許しくださいませ。気づいて頂けたか不安でしたの。
来て下さって嬉しいですわ。」
「·····はい。」
気の抜けたような返事が返りフレイヤはヨルズノートと目を合わせた。
「とにかく座りましょう。
これではゆっくりお話も出来ませんわ。」
「先に教えておくとここでの会話は盗聴盗撮の魔道具で撮られてるの。
私達の保護者っていうか責任者がね、部屋に誰も置かないかわりにって置いてあるんだけど気にしないでね☆」
「彼らは探究心旺盛と言いますか、研究バカなんですの。転生者の実態を知りたいのですわ。
その代わりわたくし達を守ってくださいますの。」
「守るって何から?」
フレイヤはヨルズノートと再度目を合わせた。
「この世界での悲惨な最期からですわ。
あら、もしかして貴女〈双眼者〉ですの?」
「〈双眼者〉?」
「〈双眼者〉はこの世界ではない別の世界を知っている者の事ですわ。分かりやすく言えば転生者ですわね。」
「前世の記憶っていうか日本の記憶があるでしょ。
それの事だよ☆」
「ああ、なるほど。」
力なく頷く様子にフレイヤは状況を把握出来ずにいるか疲れているのかと心配になった。
「どこか具合でも悪いのですか?
それともいきなり過ぎて混乱なさってますの?」
労るように聞けばヒルデガルダはキョトンとした後、思い出したように首を降った。
「あー、本当の私ってこんな感じなんですよ。
面倒くさがりっていうか·····
この格好も趣味じゃなくて·····着れればなんでもいいんですけど、何故か勝手にこういうのが着たい、あれが欲しいって言っちゃうんです。
変な話ですよね。」
困ったように笑う顔に痛々しさが見えてフレイヤはヒルデガルダの手を握る。
「聞いてくださいませ。
この世界は前世の乙女ゲームの世界ですの。
そしてわたくし達はゲームの悪役令嬢で貴女がしたくもない服装も勝手に体や言葉が出てくるのもゲームの強制力ですわ。」
「は?乙女ゲーム?
強制力?何言ってるの?」
そしてプロローグの話に戻る。
*****
読んで頂きありがとうございます
m(*_ _)m
三人目の悪役令嬢も登場したので「ヒルデガルダ・ギリングの奮闘」もUPしていきます。
読んでくださったら嬉しいです(*^^*)
「今日は少し肌寒いですわね。
こんな日にはコンビニで熱いおでんが食べたいですわ。」
「私は熱い日本茶とどら焼きが食べたいですわ。」
ヨルズノートの意外な嗜好に驚きつつ芝居を続ける。
「ヨルズノート様は和食がお好きですの?」
「ええ、和スイーツは特に好きなのです。
炬燵でテレビを見ながらお饅頭とかよく食べましたわ。」
食べ物が庶民的な物しか出ないが相手は食いついてきた。
「あの、お話中に申し訳ございません。
立ち聞きするつもりはなかったのですが·····」
こちらは立ち聞きさせるつもりでした!
二人は獲物がかかった喜びに口角を上げる。
扇で口元を隠していなければターゲットは逃げ出しただろう微笑みだ。
「御機嫌よう。わたくしはフレイヤ・スフォルツァンドと申します。
こちらはヨルズノート・スクルド侯爵令嬢ですわ。」
「お初にお目にかかります。
ギリング辺境伯の娘ヒルデガルダと申します。」
カーテシーをする姿は愛らしいのに色気がある。
将来の夜遊び令嬢と言われるだけあると二人は内心思った。
「ギリング辺境伯令嬢、如何なさいまして?」
用件はわかっているが最後の確認で聞いてみる。
「あの、····先程炬燵とかTVとかどら焼きとか聞こえてきたのですが、梅干は如何ですか?」
そう来たかとフレイヤは目を細めた。
てっきり前世を覚えているかと聞いてくると思ったが、この世界にない日本の代表格の食べ物でこちらの反応を確認してきた。
しかもチョイスが渋い·····
これを狡猾と取るべきか否かを判断できず笑顔で答える。
「大好きですわ。特に熱々のご飯で食べるのが。」
ヨルズノートもフレイヤの意図に気づき合わせてきた。
「私はお茶漬けで食べるのが一番好きですわ。」
その答えを聞いたヒルデガルダは一筋の涙を流した。
「あ、申し訳ございません。お恥ずかしいところを·····」
フレイヤもヨルズノートも涙の意味を誰よりも理解できた。
だからこそ彼女を信じられる。
「いいえ、大丈夫ですわ。
わたくし達にも覚えがありますもの。
ではこれで失礼致します。」
「もうお帰りになりますの?」
「ええ、漆黒の塔では良い茶葉を栽培しているとか。
どんな味がするのかしら。」
小声で意味深に目配せして踵を返し、主催者の王宮女官長に挨拶をして漆黒の塔へ向かう。
緑葉の間に入ると直ぐにヨルズノートが来て不安そうに聞いてきた。
「気づいてくれたかな?」
「恐らくは·····」
あの場では誰が聞いているかわからないので、込み入った話は出来なかった。
ここに来てくれればなんでも話せる。
どちらも無言のままヒルデガルダが来るのを待った。
ノックの音に二人が急いで扉に飛びつく。
扉を開けるとヒルデガルダが驚いた顔で後退った。
「待ってたよ!
どうぞ中に入って、って言っても私の部屋じゃないんだけど☆」
「落ち着いて下さいませ。ギリング様が引いておりますわ。
お許しくださいませ。気づいて頂けたか不安でしたの。
来て下さって嬉しいですわ。」
「·····はい。」
気の抜けたような返事が返りフレイヤはヨルズノートと目を合わせた。
「とにかく座りましょう。
これではゆっくりお話も出来ませんわ。」
「先に教えておくとここでの会話は盗聴盗撮の魔道具で撮られてるの。
私達の保護者っていうか責任者がね、部屋に誰も置かないかわりにって置いてあるんだけど気にしないでね☆」
「彼らは探究心旺盛と言いますか、研究バカなんですの。転生者の実態を知りたいのですわ。
その代わりわたくし達を守ってくださいますの。」
「守るって何から?」
フレイヤはヨルズノートと再度目を合わせた。
「この世界での悲惨な最期からですわ。
あら、もしかして貴女〈双眼者〉ですの?」
「〈双眼者〉?」
「〈双眼者〉はこの世界ではない別の世界を知っている者の事ですわ。分かりやすく言えば転生者ですわね。」
「前世の記憶っていうか日本の記憶があるでしょ。
それの事だよ☆」
「ああ、なるほど。」
力なく頷く様子にフレイヤは状況を把握出来ずにいるか疲れているのかと心配になった。
「どこか具合でも悪いのですか?
それともいきなり過ぎて混乱なさってますの?」
労るように聞けばヒルデガルダはキョトンとした後、思い出したように首を降った。
「あー、本当の私ってこんな感じなんですよ。
面倒くさがりっていうか·····
この格好も趣味じゃなくて·····着れればなんでもいいんですけど、何故か勝手にこういうのが着たい、あれが欲しいって言っちゃうんです。
変な話ですよね。」
困ったように笑う顔に痛々しさが見えてフレイヤはヒルデガルダの手を握る。
「聞いてくださいませ。
この世界は前世の乙女ゲームの世界ですの。
そしてわたくし達はゲームの悪役令嬢で貴女がしたくもない服装も勝手に体や言葉が出てくるのもゲームの強制力ですわ。」
「は?乙女ゲーム?
強制力?何言ってるの?」
そしてプロローグの話に戻る。
*****
読んで頂きありがとうございます
m(*_ _)m
三人目の悪役令嬢も登場したので「ヒルデガルダ・ギリングの奮闘」もUPしていきます。
読んでくださったら嬉しいです(*^^*)
2
お気に入りに追加
321
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる