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これは錯覚!(改)
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首座主教様は立ち上がり皆を見回した。
「皇宮にいる騎士からの報告で皇宮が襲撃されたようじゃ。
主犯は皇帝ダハル。共犯は身内にキリカと関係を持った貴族達。
既に側妃とその子等の死亡が確認された。」
私は目の前が真っ暗になり地面が崩れたように足元の感覚がなくなった。
父親が妻と子を殺した。
ただ帝位を譲りたくないからだけで?
「サウスリアナ様!」
視界が戻ると先生に後ろから抱きとめられていた。
「首座主教様、サウスリアナ様の体調が優れません。
少し休ませたいのですが。」
私の異変を心配してか先生が首座主教様に退室を願い出た。
首座主教様は私を見て心配そうに許可して下さった。
「空いている部屋へ案内する。
サウスリアナ殿、お父上の安否がわかればすぐ知らせよう。」
「·····」
先生は私を横抱きにして司祭の案内に付いて行き、ベッドのある部屋に入り寝かせてくれた。
横になっても自分の体の感覚がよくわからない。寝ているのか立っているのかすらわからない。
宇宙に投げ出されたみたいだ。
「サウスリアナ様、こちらを見て。気持ち悪ければ吐いていいから。」
握ってくれている手だけが確かな感覚だった。
「先生、私怖い!怖い!怖い!!」
叫ぶ私を先生がキツく抱きしめてくれる。
「怖くて当然だ。君は彼奴らの被害者なんだから。」
先生の言葉に私は体の感覚が戻り、涙が出て止まらなくなった。
暫く泣いて少し落ち着いた頃に先生が抱擁を緩めた。
「君には私もアヤナもリッツヘルムもいる。マセル公爵もそうそう死にはしない。
彼は誰かを守ろうとする人じゃないからね。
重要書類だけ持って安全な場所に隠れてるよ。」
最後は少しおどけたように言う。
確かにお父様ならそうしそう。
私は思わず笑いが溢れた。
それを見て先生もホッとしたようだ。
すっごく心配したんだろうな。
先生の余裕のない姿って初めて見た。
落ち着いたせいか先生と抱き合っている事実にいきなり恥ずかしさが込み上げてきた。
硬い胸板や自分の背に回される長い両腕、温かい体温。
何度か横抱きにされて知ってた筈なのにーー
先生が男の人だと今気付いたようにドキドキする。
ちょっと、しっかりしてよ!
相手は先生だよ!!
皮肉と口撃と打算と意地悪のトップに立つ人だよ!!
·····だけどいつも手を差し伸べて助けてくれる。
本当に辛い時は甘やかしてくれる。
私が教え子だから·····
いや、だから待て!
今何考えた?!
ふーーー。
一旦落ち着こう。
大丈夫、今私は弱ってる。
弱ってる時に優しくされたら、恋に落ちやすいって誰かが言ってた。
つまりこのドキドキは錯覚。
よし、大丈夫。
「顔色が落ち着かないな。」
貴方のせいですよ!
心配してくれてるのはわかるけど顔を近づけないで!
余計に顔色が落ち着かないからーーー!!
私の心の悲鳴が届いたのか、アヤナがノックもなしに入ってきた。
「セルシュ先生、未婚の女性との距離をお間違えでは?」
その言葉にお互い唇が触れ合いそうな程近づいていた事に気づいて一気に離れた。
ドキドキする心臓を抑え、これは錯覚と何度も呪文のように唱える。
そうだな。いくら教え子といえど不躾すぎた。後は頼む。」
先生はちょっと呆然とした後、何時もの顔に戻って離れていった。
教え子発言と先生の体温が感じられなくなって寂しい···くないっ!
部屋を出ていこうとする先生をリッツヘルムが呼び止めた。
「先生、動揺しているでしょうが、ちょっと待ってください。話があります。」
先生の足が止まりリッツヘルムに何時もの食えない笑顔を向ける。
「何も動揺していないよ。話があるなら聞こう。」
「···そうですか。」
リッツヘルムはやれやれと言いたげに肩を竦めた。
ナール君をベッドに寝かせてテーブルに移動する。
2つの長椅子の1つに私と先生、対面にアヤナと旦那さん、リッツヘルムが座った。
「単刀直入に聞きますが今のお嬢様に俺達を背負う覚悟はありますか?」
リッツヘルムが真剣な目で私を見る。
意味がわからない。
でもわからないのは私だけのようだ。
アヤナと旦那さんはリッツヘルムの言葉に俯き、先生は睨んでいる。
「今それを言う必要はない。」
「いいえ、不敬を承知で言いますが今回の騒動でマセル公爵様が死ねばお嬢様が公爵位を継ぎます。
そして筆頭公爵としてこの国を牽引していかねばなりません。
ですが今のお嬢様にそれができるとは思えないのです。
公爵となれば拷問や死をーー」
「リッツヘルム!」
リッツヘルムの言葉を先生が遮ったが、言いたいことはわかった。
公爵位を継げば領地の為にどんな冷酷な判断でもしなきゃならない。
それこそ人を殺せと命じる必要も出てくる。
リッツヘルムは私にその覚悟を問うているんだ。
躊躇えば私が陥れられるか殺され、マセル公爵家に連なる者たちも道連れになるからーーー
リアナに対する同情から突っ走ってきたけど、その結果さえ受け入れられずにいる私にリッツヘルムは気づいている。
だからお父様の生死が不明になった今、突きつけてきたんだ。
リッツヘルムだけじゃない。
先生もアヤナだって気づいてた。
情けないことに私は何も答えられない。
私が誰かを殺すの?
北塔の大勢の死者が脳裏をよぎり体が震える。
そんな私を見て先生が深く息を吐き出した。
それにさえ怯えてしまう。
「少しの間サウスリアナ様と2人にしてくれ。」
「皇宮にいる騎士からの報告で皇宮が襲撃されたようじゃ。
主犯は皇帝ダハル。共犯は身内にキリカと関係を持った貴族達。
既に側妃とその子等の死亡が確認された。」
私は目の前が真っ暗になり地面が崩れたように足元の感覚がなくなった。
父親が妻と子を殺した。
ただ帝位を譲りたくないからだけで?
「サウスリアナ様!」
視界が戻ると先生に後ろから抱きとめられていた。
「首座主教様、サウスリアナ様の体調が優れません。
少し休ませたいのですが。」
私の異変を心配してか先生が首座主教様に退室を願い出た。
首座主教様は私を見て心配そうに許可して下さった。
「空いている部屋へ案内する。
サウスリアナ殿、お父上の安否がわかればすぐ知らせよう。」
「·····」
先生は私を横抱きにして司祭の案内に付いて行き、ベッドのある部屋に入り寝かせてくれた。
横になっても自分の体の感覚がよくわからない。寝ているのか立っているのかすらわからない。
宇宙に投げ出されたみたいだ。
「サウスリアナ様、こちらを見て。気持ち悪ければ吐いていいから。」
握ってくれている手だけが確かな感覚だった。
「先生、私怖い!怖い!怖い!!」
叫ぶ私を先生がキツく抱きしめてくれる。
「怖くて当然だ。君は彼奴らの被害者なんだから。」
先生の言葉に私は体の感覚が戻り、涙が出て止まらなくなった。
暫く泣いて少し落ち着いた頃に先生が抱擁を緩めた。
「君には私もアヤナもリッツヘルムもいる。マセル公爵もそうそう死にはしない。
彼は誰かを守ろうとする人じゃないからね。
重要書類だけ持って安全な場所に隠れてるよ。」
最後は少しおどけたように言う。
確かにお父様ならそうしそう。
私は思わず笑いが溢れた。
それを見て先生もホッとしたようだ。
すっごく心配したんだろうな。
先生の余裕のない姿って初めて見た。
落ち着いたせいか先生と抱き合っている事実にいきなり恥ずかしさが込み上げてきた。
硬い胸板や自分の背に回される長い両腕、温かい体温。
何度か横抱きにされて知ってた筈なのにーー
先生が男の人だと今気付いたようにドキドキする。
ちょっと、しっかりしてよ!
相手は先生だよ!!
皮肉と口撃と打算と意地悪のトップに立つ人だよ!!
·····だけどいつも手を差し伸べて助けてくれる。
本当に辛い時は甘やかしてくれる。
私が教え子だから·····
いや、だから待て!
今何考えた?!
ふーーー。
一旦落ち着こう。
大丈夫、今私は弱ってる。
弱ってる時に優しくされたら、恋に落ちやすいって誰かが言ってた。
つまりこのドキドキは錯覚。
よし、大丈夫。
「顔色が落ち着かないな。」
貴方のせいですよ!
心配してくれてるのはわかるけど顔を近づけないで!
余計に顔色が落ち着かないからーーー!!
私の心の悲鳴が届いたのか、アヤナがノックもなしに入ってきた。
「セルシュ先生、未婚の女性との距離をお間違えでは?」
その言葉にお互い唇が触れ合いそうな程近づいていた事に気づいて一気に離れた。
ドキドキする心臓を抑え、これは錯覚と何度も呪文のように唱える。
そうだな。いくら教え子といえど不躾すぎた。後は頼む。」
先生はちょっと呆然とした後、何時もの顔に戻って離れていった。
教え子発言と先生の体温が感じられなくなって寂しい···くないっ!
部屋を出ていこうとする先生をリッツヘルムが呼び止めた。
「先生、動揺しているでしょうが、ちょっと待ってください。話があります。」
先生の足が止まりリッツヘルムに何時もの食えない笑顔を向ける。
「何も動揺していないよ。話があるなら聞こう。」
「···そうですか。」
リッツヘルムはやれやれと言いたげに肩を竦めた。
ナール君をベッドに寝かせてテーブルに移動する。
2つの長椅子の1つに私と先生、対面にアヤナと旦那さん、リッツヘルムが座った。
「単刀直入に聞きますが今のお嬢様に俺達を背負う覚悟はありますか?」
リッツヘルムが真剣な目で私を見る。
意味がわからない。
でもわからないのは私だけのようだ。
アヤナと旦那さんはリッツヘルムの言葉に俯き、先生は睨んでいる。
「今それを言う必要はない。」
「いいえ、不敬を承知で言いますが今回の騒動でマセル公爵様が死ねばお嬢様が公爵位を継ぎます。
そして筆頭公爵としてこの国を牽引していかねばなりません。
ですが今のお嬢様にそれができるとは思えないのです。
公爵となれば拷問や死をーー」
「リッツヘルム!」
リッツヘルムの言葉を先生が遮ったが、言いたいことはわかった。
公爵位を継げば領地の為にどんな冷酷な判断でもしなきゃならない。
それこそ人を殺せと命じる必要も出てくる。
リッツヘルムは私にその覚悟を問うているんだ。
躊躇えば私が陥れられるか殺され、マセル公爵家に連なる者たちも道連れになるからーーー
リアナに対する同情から突っ走ってきたけど、その結果さえ受け入れられずにいる私にリッツヘルムは気づいている。
だからお父様の生死が不明になった今、突きつけてきたんだ。
リッツヘルムだけじゃない。
先生もアヤナだって気づいてた。
情けないことに私は何も答えられない。
私が誰かを殺すの?
北塔の大勢の死者が脳裏をよぎり体が震える。
そんな私を見て先生が深く息を吐き出した。
それにさえ怯えてしまう。
「少しの間サウスリアナ様と2人にしてくれ。」
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