新選組秘録―水鏡―

紫乃森統子

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第1部

第八章 疾風勁草

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 会津藩との約束の刻限は、夜五ツであった。
 しかし、会所で今や遅しと待つ新選組の元へは、一向に音沙汰の無いままである。
 五ツは、とうに過ぎていた。
 どっしりと中央に腰を据える近藤も、いよいよまんじりともせぬ面持ちになってきているのが分かる。
 総大将の近藤でさえ、そんな様子なのだ。
 以下に従う隊士達などは言うまでもなく神経をぴりぴりと尖らせている。
 外から響いてくる祭りの喧騒も次第に収まりつつあるようで、それがさらに時の経過をまざまざと皆に感じさせるのだ。
 ちらりと窺い見る土方の目も、伊織にははっきりと苛立ちが感じ取れた。
(そろそろ限界だろうか……)
 誰が先頭を切って出陣を催促するのかと、伊織は居並ぶ面々を見渡した。
 如何にも気短そうな原田や永倉あたりだろうかとも思ったが、痺れを切らせたのはおよそ意外な人物であった。
「ねえ、もう私たちだけで行きませんか?」
 ほんの少し声の調子を落として開口したのは、沖田。
 賺さず、伊織もそれに倣った。
「そうですよ! もうこれ以上は待てません。私たちだけで行動を開始しましょう!」
 待ってましたとばかりに口早に言い、勢い余って伊織は思わず立ち上がりそうにさえなる。
 が、漸くのところで落ち着き、近藤と土方の目を交互に見た。
 険しく引き結ばれていた二人の口角が、微かに上向いたようであった。
「会津が来るまで待て。……と、言いてえところだが、俺も同感だ。このまま待ち呆けてたんじゃ、奴らを見す見す逃しかねないからな」
 静かだが、高揚した風が抑揚に表れている。
 それを境に、他の隊士たちも口々に賛同の声を上げ始めた。
 その声に圧されるように、近藤は一たび瞑目し、一つ大きく呼吸をすると勢い付けて立ち上がった。
「皆、この機を逃して後はない! 新選組はこれより出陣致す!!」
 一層声高に号令した近藤の声が、祇園会所に響き渡った。
 会津藩との約束の刻限から、裕に小半刻が過ぎていた。

     ***

 伊織は土方隊の一員として鴨川東岸を北上し、徐々に四国屋へと近付いていた。
 不審と思われる宿は一軒一軒覗いてみるために、進行速度は非常に遅い。
 その上、伊織にしか分からないことではあるが、この土方隊が向かっている四国屋にも、勤皇志士たちはいないのである。
 それを知るが故に、伊織はひたすらもどかしさと格闘せねばならなかった。
 口にすれば土方は真っ直ぐに池田屋へ進路を変えるだろう。
 それでは困るのだ。
 ほんの僅かでも討ち入りの時間が早まったならば、志士たちが会合後の酒盛りを始める前に戦わなくてはならなくなってしまう。
 土方隊は、遅刻する。そうでなければならなかった。
 屋内で剣を振るうのは、近藤隊の数名だけだ。
 狭い日本家屋の中に大勢が討ち入ったとしても、願わざる事故を招くだけのような気もする。
「ああ、もう。こんなんじゃ夜が明けるよ……」
 頭では分かっているのだが、どうも先を急ぎたくて仕方がなくなっているらしい。
 一軒訪ねては当てが外れ、その度に伊織の口からぶつぶつと文句が出てくる。
「高宮も意外とせっかちなんじゃねえの?」
「違いますよ! そんな聞こえの悪い言い方しないでくださいよッ!」
「おーおー、よく言うよ……」
 初めこそ、隣を歩く原田が時折茶化していたが、段々と軒数を数えるにつれてそれもなくなった。
 原田もやはり苛々しているようだ。
 この熱帯夜を行軍することだけでも疲労感は着実に蓄積していくのに、重ねてこの蟠りである。
 それでも何とか堪えに堪え、土方を先頭にした一行はようやっと四国屋の表口まで辿り着いたのであった。
 もう既に辺りは静まり返り、通りに面した数々の戸口も閉ざされている。
 ここに来て、ある一つの不安が過った。
(……そういえば、沖田さん)
 会所では普段通りにしていたが、沖田はあまり調子が良さそうではなかったことを思い出す。その一瞬、ひやりとした。
 それと同時に、前方から土方が四国屋の戸口を叩く音が聞こえた。
「私、ちょっと用事を思い出しました。すいません、ちょっと抜けます」
 折り良く側に立っていた島田に耳打ちすると、島田はぎょっとしてこちらを見下ろす。
「は!?」
 声自体は土方に聞こえぬように潜められていたが、やけに語気が強調されている。
「今から池田屋に先行します。みんなはこのまま四国屋に!」
 ひそひそと遣り合う最中に、戸口は開けられ、土方が御用改めを言い渡すのが聞こえた。
 それを機にどっと流れ込む隊士の波の間隙を縫って、機用にもすいすいと隊から離脱した。
 おいおいと呼び止めようとしていた島田も、ついには引留めきれずに四国屋の中へと流れ込んだらしい。

     ***

 四国屋から池田屋までは然程の距離はない。
 夜陰に紛れて、一路池田屋へと駆け出していた。
(もう始まった頃かな)
 いろいろと考えは浮かぶが、今や沖田のことが一番の気掛かりだった。
 実際に池田屋では少数精鋭で斬り込んだ新選組の大勝利に終わるはずだが、その渦中で誰がああして彼がこうして、という具合に延々と念頭を過ぎていく。
 まるで何かの計算式のようでもあった。
 四国屋の戸口を前にして離脱し、池田屋へ単独先行するなど、後で土方が知ったら大激怒しそうなものだが、今はそれも比較的どうでも良いと思えた。
 橋を越えた辺りで、急行する伊織の耳に徐々に剣戟と乱れ交う悲鳴が聞こえ始める。
 もう始まっているようだ。
 何軒もの軒を横目に、伊織は旅籠池田屋へと一直線に駆け付けた。
 が、表口は入り乱れて逃げ出してくる使用人や女中で溢れ、とても中に入れる隙はない。
 表を守り固める武田や浅野の姿が認められたが、伊織はその場でぱたと足を止めると、苦渋の面で方向を転換した。
 裏口へ廻るしかない。
 出来ることなら、仲間の誰も死なせたくはない。
 だが。
 抜き身の太刀を構えて裏戸口から一歩踏み込めば、そこは既に諾々と血の瀰漫する地獄絵であった。
「!!! ……奥沢さんッ!」
 敵の太刀に斃れた奥沢栄助の身体が無造作に横倒しになっている。
 裏の守りに着いたらしい他の二名も、ともに 散々斬られた挙句に、最早起き上がることも意のままにならないようである。
 敵の何人かは既に遁走したのだろう。
 これだけ襤褸切れの様に斬り裂かれた三人を見る限り、奴らも余程に必死であるようだ。
 伊織はすぐさま奥沢に駆け寄った。声を荒げて何度も名を呼ぶが、既に奥沢の息はない。
 その身体を揺さ振る伊織の手にも、どす黒く流れ出した血痕がぬめりを帯びて纏い付いた。
(もう、駄目だ……)
 他に倒れた安藤と新田にしても、時折微かに呻き声が上がるが、それ以上のことはもう出来ないようだった。
 生まれて初めて目の当たりにする惨状に、全身が総毛立つ。
 気分が悪かった。
 この蒸し暑さと、周囲に満ちた血と脂の臭気に喉が詰る。
 生殺与奪の権利はない。自分がそれをすれば、未来が変わる。それは味方に対しても敵に対しても同じことであるはずだった。
 だが、そんな甘い考えでは、どうやらこの地獄からは生還出来ないらしい。
 一刻ほど斬り合って浪士の陰謀を阻止し、その一夜を以って新選組は歴史に名を残すことになる。
 一口に言えば何と容易いことだろうか。
 たった一文で言い表せる概要の、その実の何と凄惨なことか。
 伊織は奥沢から離れ、頭上を仰いだ。
 破られた二階の窓から、金属音と咆哮、そして斬られた敵のものか凄まじい金切り声が一連となって耳に届く。
 他の者は無事であろうか。
 それを確かめたくもあり、早々に救援を呼びたくもあった。
 二階からは、近藤のものと思しき咆哮が引きも切らさず轟いている。しかし、同じく二階で戦っているであろう沖田の気合は一つも聞こえないような気がする。
 考える間もなく、伊織は太刀を納め、代わって脇差を抜いた。
「もうすぐに井上さんか土方さんが到着します。お二人とも、それまで死んでは駄目ですよ!!」
 重傷だが辛うじて意識はある様子の二人に、伊織は声を大にして檄を飛ばし、自らは屋内への入り口に歩を進めた。

     ***

 中は右も左も暗く、何処を歩いて良いかも判然としない。
 その上、内部は外に比べて一層暑かった。
 血の臭いも、風の流れの少なさ故か充満しきって異様に鼻につく。いよいよ吐き気も込み上げてくる。
 伊織は一歩、また一歩と奥へと進んだ。
 何処から敵が斬りつけてくるかも判らぬ恐怖と、暗澹とした空気に呑み込まれぬよう、持てる限りの気を奮い立たせる。
 一歩踏み出すごとにざりざりと音を立てる自分の草鞋がいやに耳障りだった。
 全神経が限界まで張り詰めている証拠だ。
 二階からの音声はまだ続いている。けれど、一階は水を打った様に静まり返り、人の気配というものが感じられない。
 それが殊更に恐怖を煽るのだ。
 自然、脇差を握り締める手にも力が籠る。
 それまでは暑さから出る汗だったのにも関わらず、今は一変して冷たい雫に変わっていた。
 噎せ返るような熱気を感じながらも、背には冷水を浴びせかけられたような悪寒が耐えない。
 土間から上がり、廊下へ出る寸前でもう一度脇差を握り直し、死角に気配があるか否かを息を呑んで伺う。
 するり、と脇差だけを前方に差し向け、敵がいないと踏むと漸く廊下に身を移した。
 と、同時に何かぐにゃりとした感触が足の裏に伝わる。
 いやな予感がした。
 ぴたりと動きを止め、伊織はそろそろと目だけを動かして足元を凝視した。
 よもや死体でも踏みつけたか。
 暗がりにも目は大分慣れ、人が転がっていればすぐにそれと認識できる視力はある。
 ところが足元に人らしきものはない。
 予想を遥かに裏切り、現実はもっと残酷だった。
 死体ではなかったことに一時は安堵もしたものの、恐る恐る足を退かせてみて、伊織は嗚咽を上げた。
 毛髪の生えた、人の肉片だ。
 頭部の肉の削がれたものらしい。
 胃の底から強い酸が逆流してくるのを、死に物狂いで喉に押し留める。
 目を背けようとしても、視点が固まってなかなか思う通りに逸れてはくれない。
 やっとのことで前方の床に視線を流せば、そこにはまた誰のものなのか、打ち落とされた手首がごろりと放られていた。
 体中の皮膚がざわざわと波打った。百足の大群でも走り抜けたかのような感触に捕らわれ、伊織は立ち尽くしたまま暫時身動ぎの一つも叶わなかった。
 瞠目したままに嘔吐を堪える額には、脂汗が多量に滲む。
 想像以上だ。
 一階でこれならば、二階はどんな有様になっていることか。
 予測も付かない。否、考えたくもなかった。
 至る所に血の飛沫が上がり、障子紙は愚かその木枠さえ原型を留めていない。
 その異様な空間は、歪んでいるようにも感じられる。この世とも思い難い。
 この中で近藤らは太刀を振るっているのだ。
 伊織は漸く身体の自由を取り戻すと、一度だけ背後を確認して、また先へと踏み出した。
 そこら中に散乱する人の欠片を可能な限り視界に入れぬように配慮しながら進むが、それでも吐き気は治め様がない。
 熱気が、何倍にも血の匂いを増幅させているらしい。
 伊織は二階へ通じる階段を探した。
 多分、階段は二つはあるはずだ。表口を入ってすぐの表階段と、屋内のどこかにある裏階段。
 半ば手探りの状態で進んでいく。
 目だけを忙しなく動かし、人の気配にだけ神経を張り巡らせる。
 一歩踏み出す毎に床板が発する、ぎしりぎしりという軋轢が、途轍もなく警戒心を煽り立てた。
 日常には何ともない、ただの足音が、今は何よりもおぞましさを増幅させる。
 息を潜め耳を欹てる伊織の頭上からは、浪士たちの怒声と怨嗟、そして近藤のものと思しき気合が途切れることなく注いでいる。
 今に、近藤や沖田が斬り損ねた浪士がこの階下へ流れ込んでくるだろう。
 天井は激しく物音を立てるのに、伊織の耳には何故かそれが遠くのもののように幽く響く。
 不意にそれが極近い距離に聴こえた気がして、脇へと視線を振った。
 階段だ。
 傾斜の急なそれは、裏階段と呼ばれるもので、近藤の声はこのすぐ上から聴こえてくる。
(ここを昇るべきか――)
 大きな異物を呑み込むように、喉がごくりと上下した。
 ここを駆け上がれば、人を斬る躊躇などしている暇はない。
 段上を見上げるも、そこは仄暗く霞んだ闇があるばかり。
 時折刀身の翻る反射光が視界に入る。
 覚悟ならば、決めていたはずだ。
 だから隊に加わることにした。
 けれど、その反面で、土方隊に属することの安心感があったと言わざるを得ない。
 ゆらりと陽炎のように、段上に漆黒の影が現れたのは、その直後だった。
 こちらへ、階下へ降りてくる。
 刹那、一際大きく心臓が脈打った。
 同時に、相手の視界に入っていることに気付き、狼狽を覚える。
 来た、と思った。
 影が一段一段確実に降りてくるにつれて、乱れた呼吸が耳の奥へと届く。
 ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながら、それはついに伊織の目前まで迫った。
 味方ではない。
 近藤の声は階上に聴こえているし、影の形も沖田のそれとは異なる。
 どうしてこういう時に限って、唾は固形物のように突っ掛かるのだろう。
 背筋に一本、添え木をされたように直立不動で、その影を見た。
 暗闇に慣れた目で、それが浪士であると確信する。
(一対一だ――)
 斬り合いになるのは必至。
 斬るか斬られるか、そのどちらかでしか有り得ない。
 伊織は脇差を右下方に構え、じりじりと後じさる。
「――新選組か」
 今までに聞いたこともないような重低音で、浪士は訊く。
 すぐに斬りつけて来る気配はないが、手には大刀が握られている。油断は出来るわけもなかった。
「……新選組隊士、高宮伊織」
 知らずと虚勢を張っているのか、伊織自身の声もかなり低いものとなった。
 一間ほどの間合いを挟み、互いに見合った。
 陰影が邪魔して、浪士の素顔は明らかではない。
 けれど、相手が余程に体力を消耗していることも、その刀が凄絶な攻防を経て疲弊していることも、窺い知る事は出来た。
「……宮部鼎蔵」
 変わらずの低音で名乗りを上げた浪士の名は、伊織にとって充分過ぎる衝撃だった。
 池田屋に密会していた浪士の、親玉じゃないか。
 運が悪い。
 ここに来て最初に対峙した相手が、宮部だとは。
 この人は、誰に斬られたのだったろうか。
 瞬時にそう考えて、伊織は目を瞠る。
(――違う)
 思考は何時にもなく澄明に研ぎ澄まされていた。
 宮部は隊士によって斬殺されたのでもなく、捕縛されたでもない。
 自刃だ。
 ――では。
 ここで斬られるのは、己か。
 いや、ここで死ぬわけにはいかない。死にたくはない。
 宮部の見下ろす視線の重圧を押し退けるように、伊織はその目を睨み上げた。
 ここに来るまでに見た、人の身体の残骸が脳裏を掠める。
 ここで怯めば、次は自分がああなる。
 恐れはある。だが。
「ある種、こちらのほうが自然な事なのかもしれない……」
 別に宮部に対して言ったわけでもないが、言葉は自然と伊織の口をついて出た。
「刀で人を斬ることも、人間本来の姿なのかもしれない」
 少なくとも、それを大綱に禁じられ、目の前の障害を崩すことも侭ならない現代に比べては、この凄惨さも自然な光景なのかもしれない、と半ば言い聞かせる意味で声に出した。
 口に出して言えば、限界まで昂った心拍が、不思議と鎮まってくる。
 ここでは、現代の大綱など何の意味も持たなかった。
 この時代に生きると、土方についていくと決めた時から覚悟していたことだ。
 何時かは越えなければならない壁だった。
 恐れを為したほうが負けだ。
 怯んだ者が敵の刃をその身に受ける。
 ここで斬らねば、己が崩されるのみ――。
 伊織は脇差を正眼に構え直し、慎重に宮部との間合いを測る。
「……やァッ!!」
 宮部が太刀を構えたと同時に伊織は第一撃を繰り出した。
 胴を払うように刀身を横薙ぎし、宮部の太刀がそれを食い止める。
 他の者に比べても伊織の攻撃速度は遅いに違いないのだが、疲労のためなのか宮部は避けるに叶わず受けている。
 好機とばかりに二の太刀を繰り出した瞬間、脇差は宮部の腹部を貫いた。
 ぐっと声を呑み込むような呻きが耳元を掠めた。
 人肉に食い込むその生々しい感覚が、脇差から腕へ、腕から全身へと伝わる。
「この……ガキがッ!」
 怨恨に満ち満ちた声音が、一転して伊織を震え上がらせた。
 出火騒動の時とは比較にもならない、殺傷の実感が背筋をぞっと駆け抜ける。
 咄嗟に脇差を引き抜き後方へ飛び退るや、間一髪のところで宮部の太刀がひゅんと風を切った。
 こめかみの髪を幾筋か切り払い、剣先は足元へ流れる。
 もう少し退くのが遅ければ、頭から叩き斬られていた。
「もう逃げないと決めた」
 血の気は引くが、抑揚もなく声に出して言い、さらに後に退こうとする足を踏み留めた。
 反撃をかわされた宮部の呼吸は、急速に乱れる。
「宮部さん、あなたに私は斬れませんよ」
「貴様、などに……斬られはせぬわ」
 伊織を一睨して、宮部は徐に大刀を放った。
「!?」
 何をするつもりかと疑問も浮かびはしたが、これを逃すべからずと心得て、伊織は第三の太刀を振り上げる。
「我らの志を継ぐ者は大勢いる。貴様如きの手にかかることほどの不覚はない!」
 暗がりにも、その形相の異様さが見て取れた。
 太刀を放った手が腰の小刀を抜き、その刃先を己の腹部に突き立てるまでに、長い時間はかからなかった。
「な、何を……!?」
 伊織が驚愕の目で正面の宮部を凝視する中、脇差を突き立てる宮部の腕が真横に引かれる。
 自身の手で、腹を裂く。
 見る間に宮部の膝は床に崩れ落ちる。
 だが、それでも自らを切り裂く手の力は抜けていない。
「――……!」
 まるで、肉を切り裂く音が聴こえてくるような場面だった。
 凝った苦悶の声が切れ切れに上がり、けれどそれでも双眸は伊織を捉えて睥睨し続けている。
 見るに耐えない光景だった。
 伊織は自らもまた脇差を納め、すらりと大刀を抜き、大きく息を吸い込んだ。
「……介錯、御免!」
 伊織はその首根を目掛けて太刀を一閃させた。
 重い衝撃があると同時に、返り血が顔や身に着けた防具に飛び散る。
 だが、気に留める余裕などなかったし、終始、手が小刻みに震えるのも止められなかった。
 一太刀で首根を斬り付け、二太刀目に反動で仰け反り痙攣するその頚動脈を狙った。
 一面に血飛沫が迸り、伊織は息を詰らせた。
 生まれて初めて、人を殺めた。
 介錯は頼まれてしたものではない。
 武士の情けだとか、そういう類のものでもない。
 今ここで、命を絶つことを知らねば、これより先に進むことは出来ない気がした。
 自ら手を下さねば、次に斬り合いになった時に、決めたはずの覚悟が振り出しに戻ってしまうだろうと懸念したのだ。
 徐々に痙攣の止みつつある宮部の傍らに片膝を付き、合掌した。
 これがこの時代の常だ。
 それで納得しなければならない。

     ***

 二階への階段を見上げ、伊織は目を細めた。
 剣戟はより少なくなってきてはいるが、まだ止むことなく鳴り響いている。
 二階で戦っているのは、近藤と沖田であるはずだった。
 もしかすると、永倉や藤堂も既に二階へ上がっているのかもしれない。
 沖田は無事でいるだろうか。
 沖田がこの池田屋で昏倒することは余りに有名な話で、伊織のように新選組に特別関心を寄せていなくとも、その事は認知している者も多いことだろう。
 それも現代で、の話だが。
 一説に依れば喀血したとも聞くが、それは定かでない。
 けれど、血を吐こうと吐くまいと、乱闘の最中に倒れることに変わりはない。
 命を落とすことはないと頭の中を網羅する知識で理解してはいても、いざこの場に来てみれば、ひどく不安を掻き立てられた。
 もし、倒れたところに敵の刃が振り下ろされでもしたら。
 もし、自分の知る未来が急に変わってしまっていたら。
 そんなことがあり得る筈がないと思うのと並行して、次々と『もし』が浮かんでくる。
 伊織は暗闇の支配する階上を見据え、血濡れた脇差を今一度握り締めた。
「局長ォー!! 高宮伊織、助太刀に参ります!!!」
 腹の底から威勢良く声を振り絞り、言下、伊織は急勾配の階段を駆け上がった。
 激流する水のような音が、自らの足音だとは、この時僅かも気付く暇はなかった。
 昇りきる寸前、こちらへ逃れてきた浪士が階上で慌てふためいて踵を返そうとするのが見えた。手負いのためか、或いは浮き足立って足が縺れたのか、奇声を発しながら転び転び逃げ惑う。
 駆け上がった伊織に追い付かれ、それでも往生際悪く太刀を握った右手を散々に振り回し始める。
 こいつも相当にやられているらしかったが、伊織は真っ直ぐに敵浪士を見下ろし、滅茶苦茶に向けられる剣先を払い退けた。
 弾き返せば返す毎に、敵の太刀は無闇やたらに攻め込んでくる。
 邪魔だ。
(これを片付けなければ進めない)
 手負いの上に錯乱状態にあったにしても、敵は敵だ。
 大人しく縄につく気配もなし、斬らずにここを通ることも出来そうにない。
 視線は浪士から離さずとも、声と気配ですぐ左手の部屋から二、三人がもんどり打って転がり出てくるのがわかった。
 今となっては、もう迷いなど毛筋ほどもなかった。
 やらねばならない。
 やらなければ、末路は一つ。
 伊織は次の防御で間合いを詰め、一気に脇差を突き立てた。
 心の臓を貫いたつもりだった。
 ぱくぱくと大口を開けて痙攣する身体から一息で刀身を引き抜き、逃げ場を求めて階段を目指してきた者を一人袈裟斬りにし、一人階段下に蹴落とし、最後に一人突きを入れる。
 最初の袈裟斬りが浅かったか、怒声と共に真横から伊織を突き太刀が襲う。
 瞬時に脇差を引っこ抜いて身をかわそうとしたが、一瞬遅れを取った。
 防具の重さが予想以上に重心の移動を遅れせしめた。
(やられる……!)
 瞬時に覚悟のようなものが脳裏を過ぎたが、凶刃は伊織の右上腕を抉った。
 どっと流血し、咄嗟に右腕の怪我を押さえる。
 呻き声を喉の奥に呑み込み、伊織は敵の正面に向き直った。
 致命傷ではないが、これで剣は思うように扱えなくなってしまった。
 深くもないようだが、浅い傷でもない。焦燥にどっと汗が噴出すのを感じた。
 続け様に突きの体勢で突進してくるのを見た時、伊織は両の目を固く瞑った。
 だが、伊織がそれに斃れることはなかった。
 変わりに何者かの足音が怒濤のように駆け上がってくるのが聴こえ、それが止むと同時に苦痛に歪んだ断末魔の声が上がる。
「高宮、無事か!!?」
 暗がりで聞き覚えのある声がした。
 顔を上げればそこには、浪士を斬り捨てたばかりの永倉がこちらを見ていた。
「馬鹿か、こんなところで蹲ってたら死んじまうだろ!?」
「な、……永倉、さん……」
 永倉の出現で一気に気が抜けてしまい、同時にそれまで朦朧としていた右腕の痛みの感覚も、急速に鮮烈になる。
 気がつけば、息も上がっていた。
「下にいた、あれをやったのはあんたか?」
 あれ、とは宮部のことに違いなかった。
 途端に複雑な思いに駆られ、伊織は瞑目して静かに頷く。
 真っ当な斬り合いでなく、最後は宮部の自刃であった。
 史実通り、それはそれで良いのだが、一対一の戦いとして見れば、宮部の勝利であるような気がしないでもない。
 それが些か慙愧として心に蟠るところがあった。
「やられたか」
「深くはないです、大丈夫……」
 互いに返り血で汚れきった顔を見合わせ、無事を確認し合う。
 伊織の負傷を気遣う永倉の手を見れば、親指の付け根が抉られ、滾々と血が湧き出している。
「永倉さんこそ、その手!」
「あー……これな、大したことねえって。平気平気。ほら」
 平気だと知らしめるためか、永倉は負傷した手をぶんぶんと振ってみせるのだが、振る度に手から血液が迸る。
「大丈夫じゃないですよ! あんまり振らないほうが……」
「皆、無事かーッ!!?」
 そこに安否を問う近藤の声が鳴り響いた。
 傷の手当も後に回し、伊織は永倉と前後して声のする方、奥の八畳へ駆けた。
 二階は死体と血で埋め尽くされる有様だった。
 頭を割られた者から体中切り刻まれた者、袈裟掛けに斬られた者まである。
「局長! 沖田さんはッ!!?」
 駆けつけるなり、伊織は逆に沖田の安否を問うた。
 近藤の奮戦した二階には、もう立ち上がって刀を振るう敵浪士は一人もいなかった。
 伊織が相手した三人で、どうやら殆どの片はついたと見て良いようだ。
 闇で覆われて近藤の姿もはっきりとは捉えられないが、返り血の夥しさは想像するまでもないだろう。
 階下も今し方から急に騒がしくなったようで、恐らくは駆け付けた井上隊が手負いで逃げ出した浪士の捕縛を開始したのだろう。
「! ……高宮君か!?」
「はい。局長もご無事で何よりです」
 暗い室内を目を凝らして見回すが、沖田らしい姿はどこにもない。
 それに、永倉にはこうして出会ったが、藤堂の姿もまだ一度も見かけていないことに気付いた。
 その場に近藤と永倉を残し、伊織は二階の奥まで走り込んだ。
 どこにいるのか。
 散在する惨たらしいほどの屍を跨ぎ越し、辺りを隈なく凝視して表階段の方向に戻り始める。
 伊織がそうしながら表階段からすぐの六畳に到ったのは、程無くしてのことであった。
 大刀を手にしたまま、微動だにせず立ちはだかる段だら羽織の背が見えた。
 あの肩幅の広い後姿は夜目にも沖田であると即座に判断がつく。
「沖田さん……?」
 伊織は六畳の入り口で足を止め、様子を窺うように暫しじっと凝視した。
 倒れてはいなかったことに若干の安心をしたが、どうにも様子が可笑しい。
 こちらには気がついているはずなのに、振り返ろうともしないのだ。
 呼びかけた声に反応はなく、背中を下から上へと逆撫でされるような気味の悪さを覚えた。
 よくよく目を凝らしてみれば、その背の向こうには抜き身を構えた影。
 一触即発の空気だということが、この時になって漸く伊織にも感知出来たのだった。
 双方の息遣いが鮮明に聴こえ、伊織はその場に立ち尽くした。
 まずいところに出くわしてしまった。もう片付いたと思っていた勤皇志士がここに残っていたとは。
 沖田の背中越しに、敵が仕掛けるのが見えた。
 それと同時に沖田の姿がふらふらと踉いた。
 倒れていなかったと安堵したのは大間違いだ。
 沖田が本調子でないのは明白だったではないか。
 それも初めから知っていたのに、自分が参戦することに躍起になって、沖田を気遣うことすら失念していた。
 その己の浅はかさが、妙に心に応える。
 沖田の身体がゆらりと傾ぐのを機に、伊織は浪士に向けて飛び込んでいた。
「沖田さんっ!!!」
 足が、斃れた人間を何体も踏み付けたが、体勢を崩すことなく敵に斬りかかる。
 剣先が弧を描いて閃光を放ち、この時初めて、伊織の咽喉から咆哮が上がった。
 無我夢中に突進し、刃は見事に敵の手首を切り落とす。
 途端に赤黒い飛沫が上がり、捻り潰されたような悶絶の叫びが耳を劈いた。
「高宮さ……どうしてここに、いるんです……」
 血泡の海に膝を着き、太刀の刀身を支えに身体の崩れるのを食い止める沖田が、浮された様に呟くと、伊織もまた身を反して沖田の支えに回った。
「すごい熱じゃないですかっ! どうしてこんなになるまで我慢してたんです!? こんな身体で、無茶ですよ!」
「ははは~、無茶は、あなたじゃないですか……。でも、助かりました、……ありが……」
 力なく笑みを見せて沖田が言う最中、突如その視線が伊織の後方へずれ、微笑が緊迫に満ちる。
 不思議に思い、伊織が振り向きかけた刹那――。
 沖田の左手が伊織の全身を突き飛ばし、神速とも言える速さで右手の大刀が繰り出された。
 伊織の背後からしぶとく襲撃を加えようとしていた敵浪士の胸に、沖田の突き太刀が二度三度と繰り出される。
 俊敏に沖田に向き直る伊織の目にも、それは鮮烈な光景として映った。
 二段突き、いや、三段突きだ。
 最後に沖田は深々と太刀を突き立て、胸部を貫通させる。
 それを最後に、浪士の身体は嗄れた嗚咽を上げて瓦解した。
 余りの速さと驚愕に、伊織は暫時目を見開いたまま、どうすることも出来なかった。
「高宮さ……大丈夫、です、か……」
 太刀を引き抜き、伊織に笑いかけようとしたのだろうが、沖田の体力も既に限界だったらしい。
 辛うじて最後の一句まで繋いだものの、沖田の身体はそのまま血海に吸い込まれるようにしてどうと倒れた。
 伊織は目の前の光景の変転に付いてゆけず、正気を戻せないまま沖田に這いずり寄った。
「沖田さん、沖田さんッ!? しっかりしてくださいよ!!」
 横たわった沖田の体を渾身の力で仰向ける。
 自身の腕の痛みもないではなかったが、気が動転しているせいか、血の滴るのも厭わしく思わない。
 縁起でもないことだが、初めて会って土蔵で尋問された日のことや、清水寺にまで迎えに来てくれた時の光景が眼裏を過った。
 本当に、縁起でもない。
 今触れている沖田の身体はこんなにも熱を帯びているではないか。
 呼吸も脈も不規則だが、ちゃんとある。
 一つ一つを確かめながら、伊織は沖田の容態を推し測ろうと試みたが、医師でもなければ診断が出来るわけでもない。
 けれども、沖田の装束に着いた血痕は皆、敵を斬った際の返り血のみであるようだった。
 少なくとも、喀血はしていないらしい。
 その事だけでも、伊織はやっと僅かな安堵を得ることが出来た。
 ほっと息を吐いた拍子に、くらり、と眩暈が起こった。
 右腕の刀傷は思ったよりも深いのかもしれない。血が流れ出すのをそのままにしておいたのが良くなかった。
「伊織!!」
 と、土方の声が遠くから呼ぶのが聴こえた。
 眩暈のおまけに幻聴だろうかと内心首を傾げたが、荒々しく室外の階段を上がってくる足音で、それが幻聴でないことを知る。
 土方隊のお出ましだ。
 土方が到着したなら、もう緊張を解いても良いだろうか。
 いや、その前に、沖田がここに倒れていることを報せなければ。
 そうしたいと思うのだが、目の前がぐらついて声らしい声が出せなかった。
「おいッ!! 伊織、無事かっ!!?」
 土方の声が背後に聴こえ、伊織はゆっくりと振り返った。
 霞んだ視界に土方の影が虚ろに浮かび上がる。
「遅刻ですよ、土方さん。沖田さんが……」
 沖田と同様に、自分の身体も高熱を帯びているようだった。
 もう、それだけを言うので精一杯で、傍らに寄り添った土方の顔をまともに見ることも出来なかった。
「総司が……」
 大仰に眉を顰めて伊織の膝元に転がる沖田を見、土方の表情にも些少でない焦燥が広がる。
「総司がどうしたッ!!? 誰に、誰にやられたっ!!?」
 ゆらゆらと揺れ出した視界の中の土方は、伊織の肩を鷲掴みにして乱暴に揺さ振っている。
 ただでさえ何だか身体がぐら付くというのに、土方のお陰でその症状は一層酷くなるような気がした。
「多分、熱病か何か……。大丈夫、生きてます。怪我もないみたいです、から……」
 がたがたと揺らされ、舌を噛みそうになりながらも、伊織は言う。
「……生きてる……?」
 生きていると言った途端に土方の腕は止まり、再び沖田の様子を窺ったようだった。
 はっきりと状況を目に出来たのはそこまでで、後は引き摺られるように意識が闇に遠退くのを感じ、伊織の思考もまたふつりと途切れた。
「……おい? ……おいっ、伊織ッ!?」
 ぐらりと傾いだ伊織に気付き、土方は咄嗟にその肢体を抱き留める。
 と、伊織の腕に深々と切開かれた刀傷を認めた。
 流れ出た夥しい血に、支える手がじっとりと濡らされてゆく。
「馬鹿かてめぇ! 勝手に隊を離れた上にッ……勝手に死んでんじゃねえッ……!!!」
 蒼白になって怒号を飛ばした。
 何故、こんなことになるのか。
 こいつを、ここで死なすつもりなど無かった。
「起きろ……、起きろよ、おいッ!! 伊織!!」
 前にも増して、土方は荒々しく伊織の身体を揺さ振る。
 不覚にも、涙声になっているのが自分でも分かった。
「目ぇ覚ませっ……! 死ぬのはまだ早ぇだろうがッ!! 目ぇ覚ませって言ってんだよッ!!」
 周囲も憚らず、土方は狼狽も顕に必死の呼びかけを続ける。
「土方さんよ~……」
「副長、落ち着いてください」
 土方とともに駆け付けてきた原田と島田が、遠慮がちに口を開いた。
 だが、それをも蹴り飛ばすように土方は声を荒げる。
「いや、だからねえ土方さん。よく見てちょうだいよ?」
「高宮も生きてますよ、副長……」
 何故か気恥ずかしそうに目を逸らしながら、島田が言った。
 生きている。
 その言葉で、憑き物が落ちたように、土方は我を取り戻した。
 じっと窺ってみれば、確かに伊織の呼吸はある。
「ね……? 死んでるどころか、何だかハァハァ言ってるじゃないですか。暑さと緊張にやられたんでしょう」
「死体はハアハア言わねえって」
「…………」
「可愛いなあ、副長……」
 顔から火の出る思いとは、このことを言うのか。
 土方はごほごほと咳き込み、伊織の身体を沖田の隣にそっと横たえる。
「このことは他には言うんじゃねえぞ。いいなッ!?」
 あれだけ取り乱した後では、この二人に弁解は効くはずもなく、せめてもと口止めを命じた。
 この場で沖田に意識がなかったのは、ある意味では助かったかもしれない。
「えー……でも留守隊の奴らには良い土産話に……」
「ならねえよ!!!」
「じゃあ、今度お汁粉奢ってください、副長」
「口止め料かよ!? いい根性してんじゃねえか、島田!?」

     ***

 熱帯夜の乱闘は、ここから一気に収束へと向かう。
 この日、新選組の死者は一名、重傷者は安藤と新田の二名に留まった。
 近藤や土方が残りの不逞浪士を捕縛する最中に、伊織は意識のないまま、沖田と共に祇園会所へと運ばれたのであった。


【第九章へ続く】
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