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1話 初恋の人。
しおりを挟む明穂が長い間、思い続けた初恋の男、青井英俊と出会ったのは、明穂がまだ小学生で英俊が姉の恋人だった頃の話だ。
「お前が明穂クン? 薫とよく似てて可愛いなぁ!」
明穂が初めて見る、姉が連れて来た学生服姿の長身のイケメンが屈みこみ…
小さな顔をマジマジと観察すると、大きな両掌で、明穂の顔をムニュゥ~と挟み、ニヤリと笑った。
「姉ちゃんこのイケメン誰だよ?!」
初対面でイキナリ自分の顔を弄ぶ、イケメンを睨みながら明穂が姉に尋ねると…
「私の彼氏よ! ほら、明穂! 挨拶しなさい」
イケメンの彼氏を紹介する姉は、誇らしそうだ。
小さな明穂の顔を放し、姿勢を正す姉の彼氏。
「木村明穂です… 小5!」
ブスッ… としながらも、明穂は姉に言われ渋々、彼氏に自己紹介をした。
姉の言うコトを聞かないと、後で面倒だからだ。
「オレは青井英俊、お前の姉ちゃんの同級生で彼氏だ! 男同士仲良くしようぜ、明穂!」
小さく華奢な明穂の手を、大きくてゴツイ英俊の手がギュッ… と力強く掴み握手した。
「う… うん」
元々内気な質の明穂は、大らかな英俊の態度に少し引き気味だった。
だが…
「そうだ、空手教えてやるよ!」
ニカッ… と笑い英俊は明穂の丸い頬を指先で突いた。
「え、空手出来るの?」
本当は剣道が習いたかったけど、母子家庭でお金が無く我慢するコトが多かった明穂は…
タダで格闘技を教えてもらえるのなら、空手でも十分魅力的だった。
「できるよ!」
男同士のカッコいい挨拶だと拳を差し出され…
明穂も拳を握って英俊の大きな拳にコツンッ… とぶつけ、ニパッ…と笑った。
母子家庭で育った明穂にとって、一番身近にいる大人(?)の男は英俊ダケで、何でも話せて頼りになる、家族よりも親しい存在で…
明穂は早く姉と英俊に結婚して欲しかった。
だけど、2人が高校を卒業し明穂が中学1年になった頃…
《こうやってオレたちが連絡を取り合うのは、コレで最後にしよう明穂… ゴメンな!》
「何でだよ、英さん?! 姉ちゃんがまた何か我儘言って、困らせてるの?」
中学の学生服を脱ぎながらスマホ片手に英俊と話す明穂。
《薫から何も聞いてないのか? オレたち別れたんだ》
息を呑む明穂。
「ウソだ! 英さん… そんな!」
振り返ればこの時から、明穂のどん底人生が始まった。
「姉ちゃん! 英さんと別れたって・・・ 一体何やったんだよ!?」
怒りが治まらなくて、明穂は自分の部屋から飛び出し、居間にいた姉に怒鳴り散らした。
「明穂! 岩槻さんの前よ、静かにしなさい」
母が慌てて止めに入るが、明穂は怒りが収まらず姉を睨み付けた。
姉と母は、ちょうど母の婚約者岩槻さんと、その息子信雄と歓談中だった。
「私が職場の社長と、来月結婚するからよ… ほら見てこの指輪、綺麗でしょ!」
姉は左手の薬指に嵌めた、ダイヤモンドの婚約指輪を明穂に自慢げに見せた。
「なっ・・・ 浮気したのかよ! 最低だな!!」
英俊を捨てて、ダイヤの指輪にハシャグ姉が許せなくて明穂は激怒した。
「私が仕事してる間に、アイツが大学で浮気してるからよ!」
英俊は大学へ進学したが、姉の薫は高校卒業後、就職したのだ。
「英さんは裏切ったりしてない! 姉ちゃんの被害妄想に決まっている!!」
「アンタは英俊のスマホ見たコト無いでしょ?!」
「汚ねぇっ! 盗み見たのかよ?!」
「そんなに英俊が好きならアンタが付き合えば? ホモなんでしょ?」
意地悪そうに嘲笑う姉の暴言に、明穂は言葉を失った。
「もう2人とも、止めなさい!」
母が止めに入るが、姉の毒舌は止まらなかった。
「お母さん!、明穂のスマホ英俊の画像だらけで気持ち悪いのよ?! ニヤニヤしながら見てるし」
「バ・・・ バカじゃないの?!」
明穂の声が震え…
母と母の婚約者、岩槻の不安そうな視線に明穂は傷ついた。
その場の空気に耐えられなくなり、明穂は居間を飛び出した。
「嫌だ!! アイツ本当にホモなんだ?!」
薫の残酷な声が居間から聞こえた。
姉、薫は19歳で、13歳年上の就職した会社の社長と結婚した。
その時、既に妊娠3か月だった。
母親も再婚し、明穂には義兄に続き義父と義弟ができ、名前も木村から岩槻になり4人で新居へ移った。
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