4 / 9
3話 妃の部屋
しおりを挟む「そろそろ王宮だペルデルセ… 心の準備は良いか?」
瞳をずっと閉じたままだったペルデルセに、声を掛ける兄のメディシナ。
優しい兄の顔を見て、ペルデルセは穏やかに微笑んだ。
<アンダルを愛したように、夫となるプラサ陛下を愛す自身は無いけれど、せめて仲良くなれるように努力しよう>
「はい… お兄様の言う通り、頑張ってみます!」
<この結婚は神様がくれた僕への贈り物だと感謝して… この国で一から出直そう>
王宮に到着したプラサ王への挨拶は、第二王子メディシナが務め、妃となるペルデルセは、婚儀の儀式のために急いで後宮の自室へと通された。
ペルデルセは後宮の中でも一番端の、日当たりの悪い北側の小さな部屋を当てがわれ…
<もしかして、これは嫌がらせをされているの?>
この扱いからも、ペルデルセは歓迎されていないのが良く分かる。
プラサ王の妃の中でも、王族出身なのはペルデルセ一人で、身分的には正妃になってもおかしくないのにだ。
「まぁ仕方ないさ…」
エスタシオン王国側の冷淡な対応よりも… 何より辛かったのは、母国サルド王国から使用人が1人も、ペルデルセに付いて来なかったことだ。
命令すれば別だが、ペルデルセは敢えてそうしなかった。
ペルデルセの素行の悪さに、従者をしていた者たちは… 王宮に勤める他の使用人たちに、ペルデルセの愛人ではないかと、疑惑を持たれ陰口を叩かれていたことを、長い間不快に思っていたらしい。
婚姻が決まり、王宮を出る挨拶を使用人たちにした時も…
『どうかお幸せに、お身体にお気をつけて』
素っ気なく別れの挨拶をした、3人の従者たちの瞳に… やっと解放される! と、安堵の光が宿っているのをペルデルセは見逃さなかった。
「あんなに良くしてやったのに… 人間なんて、薄情で当たり前なんだ!」
従者たちの親類が王宮で勤められるよう、ペルデルセは口を利いてやったり、休みを多くやり、仕事をさぼっていても咎めなかったりと…
親切心から良かれと思ってペルデルセがしていたことが、忠誠心を育てるどころか、使用人たちから未熟な主人だと軽く見られていたのだ。
母国からも… ずっと側にいた従者たちからも… 初恋の人からも見放され…
たった1人でたどり着いたこの部屋が、ペルデルセにとって、終の住処になるのかと思うと寂しかった。
だが…
「でも、今の僕にはお似合いなのかな?」
…と、納得もした。
「苦いお茶だなぁ…」
部屋まで案内をした使用人が淹れたお茶を、ペルデルセは一口飲んでぼんやりと窓の外を眺めると…
庭に並べて植えられた立派な椿の木が、紅や白の花を咲かせていた。
ペルデルセの目の前で、白い花が一輪ポロリと枝から落ち、椿の木の下にころりと転がる。
地面は椿の花の絨毯で、紅と白で染まっていた。
「ふふふっ… 部屋は気に入らないけど、この庭は悪くないかぁ…」
薄っすらとペルデルセは笑う。
コンッ! コンッ!
扉が叩かれ… ペルデルセに付けられた、エスタシオン王国人の従者アバホが顔を出す。
「ペルデルセ様、婚儀の支度の時間でございます」
主人よりも2つ年上の従者は、礼儀正しく頭を下げた。
「ああ、そう…」
飲み掛けのお茶をそのままテーブルに置き、アバホの前をゆったりと横切り、気だるげに廊下へと出る。
38
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる