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84話 その後5
しおりを挟む5ヶ月前、第二騎士団団長の執務室に煌びやかな近衛騎士の制服姿で颯爽と訪れたクリステル。
「何だクリステル珍しいな? お前の方から私に会いに来るなど… 番になる決心がついたか?」
「ラーゴ王子こそ珍しいね、真面目に仕事してる姿なんて初めて見た!」
執務机に広げた書類にサインすると、ラーゴ王子は補佐官に渡す。
「今の副団長はあまり融通が利かないヤツなんだ、おかげで仕事が増えてしまった」
ムッとしながらラーゴ王子は記録台帳の数字を確認し、忍び笑いを漏らす補佐官に渡すと、手を振って追い払う。
パタンッと扉が閉まると、クリステルは早口で捲し立てる。
「子供が欲しいから、私に種付けして欲しいんだ! だけど結婚は絶対にしない!! ダメ?! ダメなら他に頼むから!」
パカッと口を開けたラーゴ王子は、書類の上にポトリとペンを落とし、コロコロと転がったペンからインクが垂れて淡黄色の紙にポツポツと黒い染みが広がる。
「理由はなんだ?」
「だからソレは…っ!」
「理由は?」
渋々フロルの話をするクリステルに呆れた顔をするラーゴ王子。
「そんなコトをすれば確実にフロルを傷つけるぞ?!」
青い顔でビクリッと強張るクリステル。
「そんなの言われなくても分かっているよ!」
「コトはそんなに単純ではない! 忠臣の公爵だ、王族の子を身籠ったと知ればお前に私との結婚を強いるぞ!」
「……」
聞き方によっては誠実さの顕れに思えるが、熱心にクリステルを口説いているわりには、ラーゴ王子は本気で結婚をしたいわけではないのだ。
「バカな考えは捨てろ!」
「やっぱりね、私を口説くのはただの隠れ蓑にしているだけでしょう? この国に私以上の妃候補はいない… だから王子が私を口説いている間は誰も妃候補を押し付けない」
「クリステル、いくらお前でも無礼だぞ」
ラーゴ王子の顔色が変わる。
「ソレに王子は、本当は私に… オメガに興味無いはず、知ってるよ"アルファ喰らいの王子" とか異名まであるでしょう? 近衛にいると王子の恋人たちによく会うんだ、それでね…」
「いい加減にしろクリステル!」
「"王子が本当に欲しいのはお前の兄の方だ"」
「……っ」
王子はクリステルを黙って睨み続けた。
「一応、最初に声を掛けたのは… 私の邪魔をして欲しくないからだよ」
王子の沈黙はクリステルの話が全て真実だからだ。
「寂しいね… でもフロルがあんな風に苦しむのはもっと嫌だもの」
クリステルは静かに執務室の扉を開き歩き去る。
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