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75話 狂騒

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「お兄様!! "禁忌の研究"です!! フロルが―――っ!!!」



 ディアマンテからも騎士たちがフロルとクリステルを囲み襲い掛かろうとしているのが見えた。

「ヴェルメーリョ伯爵が毒を撒いた!! アルファが狂う毒だ!! 風上へ回り毒を吸わないよう注意し外側から騎士たちをフロルたちから引き離せ―――っ!!!」


 勝利の喜びに副団長の周りに集まっていた第二騎士団の騎士たちが一斉に走り出した。


 今後の指揮に関わる重要な問題だと第二騎士団の騎士にだけ、オパーラを保護した後、王宮でディアマンテがオパーラを襲った狂騒の真相を大まかに説明していた。


 ディアマンテは敢えて風下へ走り息を止めフロルの前に立ち、襲い掛かる騎士たちを殴り飛ばす。

 剣の鞘で、騎士たちを次々と打ち据えるクリステル。

 ディアマンテとクリステルの背中で守られていても、フロルは服を引っ張られ慌ててボタンを外すと上着を剥ぎ取られた。

 髪を引っ張り引き倒された時は咄嗟に土を握り騎士の顔に投げ付ける、フロルは不意にベント子爵邸でフルータに髪を掴み乱暴にされた時のコトを思い出し…

 長い髪が邪魔だと、ディアマンテに殴り飛ばされ転がる騎士の腰から短剣を奪い、フロルは項のところで髪を切り遠くに投げ捨てる。

 何度も土を掴みフロルは騎士たちの顔へと投げ続けた。


 最後の1人を第二騎士団の騎士たちが、離れた場所に引きずって行き殴りつけて気絶させた。

 ディアマンテはハアハアと荒い息づかいで血だらけの両手両膝を地面に付き、フロルの顔を見ている。

 フロルは服をビリビリに破かれ半裸の状態で座り込みディアマンテを見る。


 ヴェルメーリョ伯爵にかけられたフェロモンが付着した上着と髪が無くなったせいかディアマンテにフェロモンの影響は無いようだ。


 フロルやディアマンテよりもクリステルが一番、酷い状態だった。

 その場に転がり荒い息づかいで目を閉じグッタリしているクリステルの、煌びやかだった近衛の騎士服はボタンを全部引き千切られ、中の白いシャツまでボロボロにされ、肌には生々しい引っ掻き傷や殴られた痕まである。

 フロルと同様、直近にいたオメガのクリステルも狂ったアルファたちの標的にされていたのだ。


「クリステル… 大丈夫? 守ってくれてありがとう…」

「私のドジのせいだしね… ゴメンねフロル…」 


 フロルが労わり頬を撫でると、クリステルは力なく見上げ微笑む。

「わあぁぁぁ… フロルの乳首… 桃色… 可愛い…」


 顔を真赤にしたフロルのシャツはビリビリに破られ、乳首どころか臍まで丸見えだった。


「お前は寝ていろ、クリステル!! …私の妻をジロジロ見るな!!」

 怒鳴るディアマンテに部下たちが吹き出す。


「まだ終わりではないぞ!! ヴェルメーリョが他に毒や武器を隠し持っていないか、この場で調べて地下牢へ入れろ!! それとラーゴ王子をここへ呼んでくれ」



 オパーラに見覚えのある小瓶を渡されたコトで油断し、中身を半分移し替えヴェルメーリョ伯爵が隠し持つという可能性に思い至らなかったディアマンテの落ち度であった。


 上着を脱ぎフロルの背に掛けると、ディアマンテは次々と部下へ指示を出す。

「すまないフロル! 側に居てやりたいが今はこの騒ぎを収めなければならない」

 渋い顔で跪くディアマンテの頬を、そっと撫で唇にキスをして慰めるフロル。

「分かっております、旦那様… 私はクリステルの側に付いていたいのでこのまま2人で公爵邸に帰ろうと思います」

「フロル、ありがとう… クリステルを頼む!」

「はい」


 ギュッとフロルを抱きしめ、唇にキスをするとシューヴァとノルチたちを呼び寄せるディアマンテ。





 ディアマンテの言う通り、まだ終わりではない。








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