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56話 ヴェルメーリョ伯爵

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 ヴェルメーリョ伯爵邸の書斎で、手に持った書類を、床にたたきつける。


「王立芸術院の補修費を全額負担しろだと?! 第二王子?! お飾りのクセに!! ズイブン生意気なコトをするではないか!!」


 綺麗に整えた赤茶色の眉をぴくぴくと痙攣させ、ギリギリと歯ぎしりをするヴェルメーリョ伯爵。


「どうか… どうかお兄様、もうお止めください!」


 40代前半の平凡な容姿の兄に比べ、弟の方は30代前半だが、整い過ぎて20代にしか見えない。

 透き通るような白い肌にグリーンの瞳、兄よりもずっと鮮やかな赤い髪をフワリと背中まで伸ばし、スラリとした優美な立ち姿がハッと目を引く美しい容姿のオメガだ。


「うるさい!! 黙れオパーラ、お前が素直にプラッタ公爵と結婚していればこのような結果にはならなかったのだ!! コーブリの次男ごときに、項を噛ませおって…」

 
 プラッタ公爵とは、病気で療養中の父より年上の老人だ。


 オパーラは兄が決めた婚約者を生理的に受け入れられなくて… 苦しんでいた時に出会ったのが、コーブリ伯爵の次男アルヴォリだった。

 2人はアッと言う間に恋に落ち、将来を誓い合い駆け落ちしてでも一緒になろうと、運命の番の契りを結んだ。
 
 兄ドエンサがそのコトを知ると烈火のごとく怒り狂い、アルヴォリを襲わせ身体に障害が残る程の酷い怪我を負わせた。 
 
 その時、殺さなかったのは、ドエンサを裏切ったオパーラとアルヴォリにワザと屈辱的な生き恥をさらさせる為だった。


「でもお父様はしなくて良いと… アルヴォリとの結婚を許し…ッ!」

 兄のドエンサはオパーラの細い首を掴み、そのまま机に押し倒した。

「ハッうっぐ…ぐっ…」

「黙れと言った! また犯されたいのか?」

「ふぐっ…っ…ぐぅ…っ!」


 首を絞められ顔は真っ赤になり、苦しくてオパーラの目に涙が滲む。


 爵位を継ぐ前は騎士職に就いていたアルファのドエンサが相手では、気力も腕力も弱い非力なオパーラは簡単に屈服させられる。


「伯爵は私だ! 父上はそろそろ死んでもらうか? アレでは生きていても面白く無いだろう?」


「はぁ…っく… お兄様… ど…かお…許し…下さ…い」 




 美しい顔を涙で汚し惨めな姿で必死に懇願するオパーラを、ドエンサは黙って見下ろし冷笑する。



「お…お…お願…いです…どう…か、どうか…っ!」









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