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18話 身だしなみ 挿絵 フロル
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翌朝、フロルはベッドから出るコトが出来なかった。
ディアマンテの膝に座るコトも、困難でフロルはクッションを2つ重ね、背中を支えながら朝食を摂るコトにした。
2回も同じ失敗をしてしまったと、ディアマンテはどんよりと落ち込み反省する。
「旦那様、私の口に入れてはくれないのですか?」
ニッコリ笑って、フロルは自分の小さな口を指差しながら開いた。
「ああ、気が利かなくて悪かった!」
フロルに催促され、パッと瞳を輝かせてベッドに座り、ディアマンテはパンに手を伸ばす。
食事を喉に通すのも一苦労だったが、ディアマンテのために平気なフリをして、フロルは口に入れられた食べ物をゆっくり咀嚼して飲み込む。
「美味いか?」
「はい、今朝の食事も美味しいです」
身体が弱っているフロルのために、なるべく喉を通りやすく、栄養価の高いモノをと毎日考えて作ってくれる料理人に感謝を込めて…
今の言葉を伝えて欲しいと、従者のシューヴァに微笑むと彼は「もちろん伝えますとよ」と微笑み返す。
「初めての時は、とても恥ずかしかったけれど、今は旦那様が口に入れてくれると、食事が特別美味しくなるのです」
確かに食べるのに苦労するけれど、ディアマンテの優しさをタップリ味わえるから、食べて元気になろうと言う気持ちが大きくなるのだ。
「そうか! …私も君がちぎったパンは特別美味いと思っていたのだ… それにモモも、アレは甘いだけの果物だと、あまり好きではなかったのに、君のおかげで大好物になった!!」
「あらら…! あれは神様の果物ですよ!? 罰が当たります」
ディアマンテはカラカラと陽気に笑いだす。
毎朝ディアマンテが手伝ってくれるおかげで、じっくり時間さえかければ、フロルは結構な量を食べるコトが出来るようになった。
初恋の人の力は偉大である。
「では、行ってくるよ」
「お気をつけて、旦那様」
フロルに熱烈なキスをしてから、仕事に出掛けるディアマンテをベッドの中から見送るフロル。
「ああ、旦那様! 髪が乱れて…」
「んん? 」
皮ヒモで纏め損ねた黒髪が、パラパラと背中にばらけて落ちていた。
「シューヴァ、ブラシを…! 旦那様こちらへ…」
ベッドの端をフロルがポンポンと叩くと、ディアマンテがそこへ座る。
手際よくブラシを使い、艶のある黒髪を、フロルは微笑みながら纏めて黒い皮ひもで結ぶ。
「とても素敵な黒髪… 私はいつもクリステル様の黒髪に憧れていたのですよ」
「そうか? 私は長くなって面倒だから、本当は切りたいのだが… そうだ! フロルが切ってくれないか?」
「私がですか?」
<やれなくはないけど… >
実家にいる時、下働きの少年の髪をフロルが切ってやっていたから。
「散髪屋に頼んだ方が、良いのではありませんか?」
首を傾げて、フロルは不思議そうな顔で、ディアマンテに尋ねた。
「職業柄とは言いたくないが、鋭いハサミを持って、よく知らない他人に首の辺りに触れられるのがどうも苦手なのだよ…」
自分の首周りを撫でて、ディアマンテは困った顔をする。
「今までどうしていたのですか?」
「部下に切るのが上手い奴がいたのだが、家督を継ぐため辞めてしまって…」
ちなみにディアマンテも、公爵位を継いだ時点で、騎士団を辞める予定だったが…
団長のラーゴ王子(学友でもある)の強い要望で残ることになった。
「分かりました、私でよければ…」
「助かるよ! 実に有能な妻だ!!」
嬉しそうに笑うディアマンテに微笑みながら、フロルの胸がチクりと痛む。
公爵家の後継者を産むと言う、一番の望みをかなえてやれない悔しさで。
○ ○ ○ ○
イメージ補強になれば幸いです。
フロルです。主人公なのでカラーにしてみました。
表紙よりも時間をかけてしまった…(>_<)
そして、ネックガードを書き忘れているし… 何てこった!!!
(本文を読んでて、たった今、気づきました… ううっ… 涙、出そう…)
ネックガードは、脳内変換でお願いします。
ディアマンテの膝に座るコトも、困難でフロルはクッションを2つ重ね、背中を支えながら朝食を摂るコトにした。
2回も同じ失敗をしてしまったと、ディアマンテはどんよりと落ち込み反省する。
「旦那様、私の口に入れてはくれないのですか?」
ニッコリ笑って、フロルは自分の小さな口を指差しながら開いた。
「ああ、気が利かなくて悪かった!」
フロルに催促され、パッと瞳を輝かせてベッドに座り、ディアマンテはパンに手を伸ばす。
食事を喉に通すのも一苦労だったが、ディアマンテのために平気なフリをして、フロルは口に入れられた食べ物をゆっくり咀嚼して飲み込む。
「美味いか?」
「はい、今朝の食事も美味しいです」
身体が弱っているフロルのために、なるべく喉を通りやすく、栄養価の高いモノをと毎日考えて作ってくれる料理人に感謝を込めて…
今の言葉を伝えて欲しいと、従者のシューヴァに微笑むと彼は「もちろん伝えますとよ」と微笑み返す。
「初めての時は、とても恥ずかしかったけれど、今は旦那様が口に入れてくれると、食事が特別美味しくなるのです」
確かに食べるのに苦労するけれど、ディアマンテの優しさをタップリ味わえるから、食べて元気になろうと言う気持ちが大きくなるのだ。
「そうか! …私も君がちぎったパンは特別美味いと思っていたのだ… それにモモも、アレは甘いだけの果物だと、あまり好きではなかったのに、君のおかげで大好物になった!!」
「あらら…! あれは神様の果物ですよ!? 罰が当たります」
ディアマンテはカラカラと陽気に笑いだす。
毎朝ディアマンテが手伝ってくれるおかげで、じっくり時間さえかければ、フロルは結構な量を食べるコトが出来るようになった。
初恋の人の力は偉大である。
「では、行ってくるよ」
「お気をつけて、旦那様」
フロルに熱烈なキスをしてから、仕事に出掛けるディアマンテをベッドの中から見送るフロル。
「ああ、旦那様! 髪が乱れて…」
「んん? 」
皮ヒモで纏め損ねた黒髪が、パラパラと背中にばらけて落ちていた。
「シューヴァ、ブラシを…! 旦那様こちらへ…」
ベッドの端をフロルがポンポンと叩くと、ディアマンテがそこへ座る。
手際よくブラシを使い、艶のある黒髪を、フロルは微笑みながら纏めて黒い皮ひもで結ぶ。
「とても素敵な黒髪… 私はいつもクリステル様の黒髪に憧れていたのですよ」
「そうか? 私は長くなって面倒だから、本当は切りたいのだが… そうだ! フロルが切ってくれないか?」
「私がですか?」
<やれなくはないけど… >
実家にいる時、下働きの少年の髪をフロルが切ってやっていたから。
「散髪屋に頼んだ方が、良いのではありませんか?」
首を傾げて、フロルは不思議そうな顔で、ディアマンテに尋ねた。
「職業柄とは言いたくないが、鋭いハサミを持って、よく知らない他人に首の辺りに触れられるのがどうも苦手なのだよ…」
自分の首周りを撫でて、ディアマンテは困った顔をする。
「今までどうしていたのですか?」
「部下に切るのが上手い奴がいたのだが、家督を継ぐため辞めてしまって…」
ちなみにディアマンテも、公爵位を継いだ時点で、騎士団を辞める予定だったが…
団長のラーゴ王子(学友でもある)の強い要望で残ることになった。
「分かりました、私でよければ…」
「助かるよ! 実に有能な妻だ!!」
嬉しそうに笑うディアマンテに微笑みながら、フロルの胸がチクりと痛む。
公爵家の後継者を産むと言う、一番の望みをかなえてやれない悔しさで。
○ ○ ○ ○
イメージ補強になれば幸いです。
フロルです。主人公なのでカラーにしてみました。
表紙よりも時間をかけてしまった…(>_<)
そして、ネックガードを書き忘れているし… 何てこった!!!
(本文を読んでて、たった今、気づきました… ううっ… 涙、出そう…)
ネックガードは、脳内変換でお願いします。
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