上 下
13 / 90

12話 朝の見送り

しおりを挟む


 朝食を終え、仕事に出掛けるディアマンテを、フロルは玄関まで見送りに出る。
 
 今日も良く晴れた良い日だ。



 執事のシャーヴィが渡した、重そうな大剣を受け取り、ディアマンテは腰に装着したベルトに剣の鞘を固定する。


「本当にこんなに遅れて… 騎士団の団長様に叱られませんか?」

 自分の朝食に付き合って遅くなってしまったのだから、フロルとしては落ち着いてはいられない。

 気を揉むのは当然である。


「ウチの… 第二騎士団の騎士団長はラーゴ王子だと、君は知っていたかな?」
 
 気を揉むフロルとは正反対に、ディアマンテは大丈夫だと微笑む。


「第二王子ですよね? はい、知っています」


 首を傾げて見上げるフロルの細い腰を、ディマンテは引き寄せた。

 
「第一、第二の騎士団長は、実力で選ばれるのではなく王族が就くのが慣例でね、いわば名誉職なのさ」

 ちなみに第一騎士団の騎士団長は、現在の王太子。


「ソレは知りませんでした…」


 分厚い胸に手を置いて、ディアマンテの肩より低い位置から、フロルは顔を見上げた。


「王子は忙しい方だから、実質的には、私が騎士団を預かっているのだよ… だからこういう時には自由が利くというワケさ」

 サッと屈んで、ディマンテはキスをして、フロルを満足そうに見下ろした。


「あの旦那様… 本邸に帰らなくても良いのですか? 私はとても体調も良いですし、気遣って下さるのはとても嬉しいのですが… 騎士団の他に公爵家のお仕事もあるのでしょう?」



 別居暮らしになると聞いていたのに…

 ディアマンテはずっと、この別邸に帰宅し、毎晩フロルと一緒のベッドで眠る。

 今はフロルの体調を考慮し、子供を作る為の行為は、全くしていないのにだ。


 朝食を摂ったら、ディアマンテは別邸から騎士団本部へと出掛けるという毎日だから、心配になる。



「君といたいから帰って来るんだ… 君が嫌なら我慢するが?」

 心配そうにディアマンテが、フロルの機嫌を窺うように見つめ…


「嫌ではありません…!」

 フロルの胸がギュッと疼き、自分でも目が潤んでいるのが分かる。


「良かった、ソレなら今夜もこちらに帰って来るよ」

 ディアマンテは、ホッとため息をつく。



「それと… ディアと呼んで欲しい! ベッドでは何度もそう呼んでくれただろう? あの呼ばれ方気に入ったから」


 フロルにだけ聞こえるよう、耳元で囁き、ディアマンテはついでに耳にもキスをする。


「・・・っ!」

 キスをされた耳まで真っ赤になるフロルに、ディアマンテは明るい笑い声を上げた。


「行ってくるよ」


 真っ赤になったフロルをギュッと抱きしめ、もう一度キスし、名残惜し気に厩へと向かうディアマンテ。



「明日からもっと早起きしないと…」


 自分の膝にフロルを乗せて、時間が掛かっても今朝と同じように食事を摂る。

 ディアマンテが頑固にそのやり方を通すなら…
 
 フロルの方が、上手く合わせるしかないのだ。




 キスされた唇を、フロルはそっと舌先で撫でる。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 絵  YOHJI様

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

黒騎士はオメガの執事を溺愛する

金剛@キット
BL
レガロ伯爵邸でオメガのアスカルは先代当主の非嫡出子として生まれたが、養父の仕事を引き継ぎ執事となった。 そこへ黒騎士団の騎士団長アルファのグランデが、新しい当主レガロ伯爵となり、アスカルが勤める田舎の伯爵邸に訪れた。 アスカルは自分はベータだと嘘をつき、グランデに仕えるが… 領地にあらわれた魔獣退治中に運悪く魔道具が壊れ、発情の抑制魔法が使えなくなり、グランデの前で発情してしまう。 発情を抑えられないアスカルは、伯爵の寝室でグランデに抱かれ――― ※お話に都合の良いユルユル設定のオメガバースです。 😘溺愛イチャエロ濃いめのR18です! 苦手な方はご注意を! ツッコミどころ満載で、誤字脱字が猛烈に多いですが、どうか暖かい心でご容赦を_(._.)_☆彡

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。 僕は運命の番と夫婦なのに… 手を伸ばせば届く距離にいるのに… 僕の運命の番は 僕ではないオメガと不倫を続けている。 僕はこれ以上君に嫌われたくなくて 不倫に対して理解のある妻を演じる。 僕の心は随分と前から血を流し続けて そろそろ限界を迎えそうだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定) ━━━━━━━━━━━━━━━ 夢見 歩の初のBL執筆作品です。 不憫受けをどうしても書きたくなって 衝動的に書き始めました。 途中で修正などが入る可能性が高いので 完璧な物語を読まれたい方には あまりオススメできません。

Ω令息は、αの旦那様の溺愛をまだ知らない

仁茂田もに
BL
旧題:ローゼンシュタイン伯爵夫人の王太子妃教育~不仲な夫と職場が同じになりました~ オメガの地位が著しく低い国、シュテルンリヒト王国。 その王国貴族として密やかに生活するオメガ、ユーリス・ヨルク・ローゼンシュタインはある日、新しく王太子の婚約者となった平民出身のオメガ、アデル・ヴァイツェンの教育係に任命される。 王家からの勅命を断ることも出来ず、王宮に出仕することなったユーリスだが、不仲と噂されるユーリスの夫兼番のギルベルトも騎士として仕えることになっており――。 不仲であるとは思わない。けれど、好かれているとも思えない。 顔を会わせるのは三か月に一度の発情期のときだけ。 そんな夫とともにユーリスはアデルを取り巻く陰謀に巻き込まれていく。 愛情表現が下手くそすぎる不器用な攻め(α)×健気で一途なだけれど自己評価が低い受け(Ω)のふたりが、未来の王太子妃の教育係に任命されたことをきっかけに距離を縮めていくお話です。 R-18シーンには*がつきます。 本編全77話。 完結しました。 11月24日より番外編を投稿いたします。 第10回BL小説大賞にて奨励賞をいただきました。 投票してくださった方々、本当にありがとうございました!

処理中です...