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85話 その後
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デスチーノが帰国し、グランジが産まれて、2ヶ月が過ぎようとしていた。
社交シーズンもそろそろ終盤になり、ジェレンチ公爵邸の舞踏会や晩餐会も無事に成功し、アディはホッ… と胸を撫で下ろしていたが… そんな風に心身と時間に余裕が出てくると、ついつい考えなくても良いことまで、考えてしまうものである。
「大ケガをしてまで、デスチーノが誘拐された被害者たちを、外国から救出したというのに… その話は一切、話さないようにと、オエスチ侯爵にずっと前に注意されたけれど…」
アディは、プゥ~ と膨れた。
「納得いかないなぁ! デスチーノはもっと、色々な人たちに評価されても良いのに…」
書斎の窓際に立ち、外で遊ぶ甥と姪を見つめながら、アディがぶちぶちと文句をたれると…
「我が国の… 仮にも貴族だった男が、人身売買に手を染めたのだから、国としてはこういう汚点はなるべく早く忘れたいのさ」
腕の中に息子のグランジを抱きながら、デスチーノは机の上に広げた領地運営に関する帳簿を見ている。
息子が可愛くて堪らないらしく、デスチーノは少し前に乳母から取り上げて来たのだ。
「それはそうだけどさぁ~!」
「へたに私の名前が表に出ると… 以前も言ったが命を狙われかねないからな」
苦労してデスチーノが、秘密裏に動いた意味が無くなってしまうのだ。
「僕の旦那様は本当に偉大な人だね」
ため息をつきながら、アディは本当に残念だと、苦笑いを浮かべた。
「それよりもアディ、帳簿のここ… 何でこんな数字なんだ?」
デスチーノは、自分が不在だった間の領地の状況を把握するために、アディが付けた帳簿で確認していた。
「んんん? どこ?」
デスチーノがトンッ… トンッ… と指でたたいて差した数字を… 窓際から離れ、アディはデスチーノの隣りに立ち、屈みこむように帳簿を見下ろし、すらすらと迷いなく答えた。
「ああ! この時はね… 獣害が出たんだよ、ちょっとひどくてねぇ~ あのままだと、小作人たちが冬を越せないかも知れないと思って、今年と来年の収穫時に多めに入れさせて、半分だけ返してもらうことで合意しているよ?」
「なるほど…」
「ほら、ここに小さく、今説明した理由を書いておいたから…」
アディも自分が書いた覚え書きを、指でトンッ… トンッ… とたたいて示した。
「おっと! すまない、見逃していた」
「うん」
「それにしても、よくこの短期間で、ここまで学んだな?」
自分が座る椅子の横に立つアディを見あげて、デスチーノが褒めた。
「トルセールがね、付きっきりで丁寧に教えてくれたから!」
褒められて嬉しくて、アディは満面の笑みを浮かべ、デスチーノの広い肩に手を置いた。
デスチーノが不在の寂しさを、アディは立派なジェレンチ公爵夫人になるための勉強に打ち込むことで、紛らわせていたのだ。
「それとだ… 驚いたのは、ここで投資したやつが、すごい収益が出ているが…?」
別の帳簿の数字を、デスチーノはまた指でトンッ… トンッ… とたたいた。
「ふふふっ… そっちはね、オエスチ侯爵に誘われて投資したんだよ! 話を聞いていたら、何か面白そうだったし… トルセールも大丈夫そうだって言ってたから」
「そうか! ならここで出た収益は全部、アディ名義にしておこう…」
「ええ? 別に良いよ、そんなことしなくても」
欲の無いアディはそう答えるが…
「私を通さずこれからも、自分で自由に使える金があった方が便利だろう?」
当然、ジェレンチ公爵家からも、公爵夫人用の必要経費は出ている。
「ああ、そういうことか! だったらお願いします! なんかオエスチ侯爵からもう一つ面白そうな投資話を聞いて、どうしようか迷っていたんだ」
「アディ、気をつけろよ? 投資はギャンブルとあまり、変わらないからな?」
やり手になりつつある若い妻に、デスチーノは一応、注意を促した。
「う゛っ… うん! じゃあ… もらったおこずかいの分しかやらないよ! 損して失くしたらきっぱり止める! だってエントラーダ伯爵家みたいにギャンブルで借金まみれは嫌だもの」
「では、アデレッソス殿のお手並み拝見と行きますか?」
デスチーノは、機嫌良く笑った。
「見てて下さい、旦那様! あっ… と言わせて見せますからね」
さっ… と屈んで、アディはデスチーノの唇を奪い… チュク… チュチュ… と舌を使って貪ると、ゆっくり唇を離す。
「足りないな!」
デスチーノはグランジを片手で抱いたまま立ち上がると、机に広げた帳簿類を手早くパタパタと閉じて片づける。
「デスチーノ?」
「グランジを乳母に預けて来る」
「んん?」
「昨夜は我慢したから… もう限界だ!」
「何が?」
「アディは先に寝室に行きなさい!」
デスチーノは、書斎の扉のノブに手を掛けて、アディにキビキビと指示を出す。
「ええ? あっ… でも、まだ昼間だけど…?」
ふわりと頬を赤くして、一応アディは確認した。
「嫌なのか?!」
チロリと艶っぽい視線をアディに向けながら、デスチーノは、アルファのフェロモン全開で…
アディを誘惑した。
「わ… わかった、寝室で待ってる…!」
デスチーノの誘いを受け入れるように、アディからもフェロモンがふわふわと立ち上る。
「そうしてくれ!」
デスチーノが扉を開けて押さえると、アディは素早く廊下に出て、寝室へと向かった。
社交シーズンもそろそろ終盤になり、ジェレンチ公爵邸の舞踏会や晩餐会も無事に成功し、アディはホッ… と胸を撫で下ろしていたが… そんな風に心身と時間に余裕が出てくると、ついつい考えなくても良いことまで、考えてしまうものである。
「大ケガをしてまで、デスチーノが誘拐された被害者たちを、外国から救出したというのに… その話は一切、話さないようにと、オエスチ侯爵にずっと前に注意されたけれど…」
アディは、プゥ~ と膨れた。
「納得いかないなぁ! デスチーノはもっと、色々な人たちに評価されても良いのに…」
書斎の窓際に立ち、外で遊ぶ甥と姪を見つめながら、アディがぶちぶちと文句をたれると…
「我が国の… 仮にも貴族だった男が、人身売買に手を染めたのだから、国としてはこういう汚点はなるべく早く忘れたいのさ」
腕の中に息子のグランジを抱きながら、デスチーノは机の上に広げた領地運営に関する帳簿を見ている。
息子が可愛くて堪らないらしく、デスチーノは少し前に乳母から取り上げて来たのだ。
「それはそうだけどさぁ~!」
「へたに私の名前が表に出ると… 以前も言ったが命を狙われかねないからな」
苦労してデスチーノが、秘密裏に動いた意味が無くなってしまうのだ。
「僕の旦那様は本当に偉大な人だね」
ため息をつきながら、アディは本当に残念だと、苦笑いを浮かべた。
「それよりもアディ、帳簿のここ… 何でこんな数字なんだ?」
デスチーノは、自分が不在だった間の領地の状況を把握するために、アディが付けた帳簿で確認していた。
「んんん? どこ?」
デスチーノがトンッ… トンッ… と指でたたいて差した数字を… 窓際から離れ、アディはデスチーノの隣りに立ち、屈みこむように帳簿を見下ろし、すらすらと迷いなく答えた。
「ああ! この時はね… 獣害が出たんだよ、ちょっとひどくてねぇ~ あのままだと、小作人たちが冬を越せないかも知れないと思って、今年と来年の収穫時に多めに入れさせて、半分だけ返してもらうことで合意しているよ?」
「なるほど…」
「ほら、ここに小さく、今説明した理由を書いておいたから…」
アディも自分が書いた覚え書きを、指でトンッ… トンッ… とたたいて示した。
「おっと! すまない、見逃していた」
「うん」
「それにしても、よくこの短期間で、ここまで学んだな?」
自分が座る椅子の横に立つアディを見あげて、デスチーノが褒めた。
「トルセールがね、付きっきりで丁寧に教えてくれたから!」
褒められて嬉しくて、アディは満面の笑みを浮かべ、デスチーノの広い肩に手を置いた。
デスチーノが不在の寂しさを、アディは立派なジェレンチ公爵夫人になるための勉強に打ち込むことで、紛らわせていたのだ。
「それとだ… 驚いたのは、ここで投資したやつが、すごい収益が出ているが…?」
別の帳簿の数字を、デスチーノはまた指でトンッ… トンッ… とたたいた。
「ふふふっ… そっちはね、オエスチ侯爵に誘われて投資したんだよ! 話を聞いていたら、何か面白そうだったし… トルセールも大丈夫そうだって言ってたから」
「そうか! ならここで出た収益は全部、アディ名義にしておこう…」
「ええ? 別に良いよ、そんなことしなくても」
欲の無いアディはそう答えるが…
「私を通さずこれからも、自分で自由に使える金があった方が便利だろう?」
当然、ジェレンチ公爵家からも、公爵夫人用の必要経費は出ている。
「ああ、そういうことか! だったらお願いします! なんかオエスチ侯爵からもう一つ面白そうな投資話を聞いて、どうしようか迷っていたんだ」
「アディ、気をつけろよ? 投資はギャンブルとあまり、変わらないからな?」
やり手になりつつある若い妻に、デスチーノは一応、注意を促した。
「う゛っ… うん! じゃあ… もらったおこずかいの分しかやらないよ! 損して失くしたらきっぱり止める! だってエントラーダ伯爵家みたいにギャンブルで借金まみれは嫌だもの」
「では、アデレッソス殿のお手並み拝見と行きますか?」
デスチーノは、機嫌良く笑った。
「見てて下さい、旦那様! あっ… と言わせて見せますからね」
さっ… と屈んで、アディはデスチーノの唇を奪い… チュク… チュチュ… と舌を使って貪ると、ゆっくり唇を離す。
「足りないな!」
デスチーノはグランジを片手で抱いたまま立ち上がると、机に広げた帳簿類を手早くパタパタと閉じて片づける。
「デスチーノ?」
「グランジを乳母に預けて来る」
「んん?」
「昨夜は我慢したから… もう限界だ!」
「何が?」
「アディは先に寝室に行きなさい!」
デスチーノは、書斎の扉のノブに手を掛けて、アディにキビキビと指示を出す。
「ええ? あっ… でも、まだ昼間だけど…?」
ふわりと頬を赤くして、一応アディは確認した。
「嫌なのか?!」
チロリと艶っぽい視線をアディに向けながら、デスチーノは、アルファのフェロモン全開で…
アディを誘惑した。
「わ… わかった、寝室で待ってる…!」
デスチーノの誘いを受け入れるように、アディからもフェロモンがふわふわと立ち上る。
「そうしてくれ!」
デスチーノが扉を開けて押さえると、アディは素早く廊下に出て、寝室へと向かった。
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