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81話 不幸中の幸い デスチーノside
しおりを挟む船上から波間を見つめながら、デスチーノは物思いに耽る。
デスチーノのケガの状態を見て… 有能な部下たちは、馬車での長旅はケガ人には負担がかかり過ぎると、海路での帰国を選択し港町へとたどり着く。
そこでデスチーノは町医者の治療を受け、その日のうちに部下たちは、我が国を経由するという商船を見つけて、乗り込んだ。
<大回りで時間はかかるが、馬車で揺られずに済むだけでも、有難い…>
今もケガのせいで発熱しているため、身体は怠く不快で… デスチーノは、ホッ… とため息をついた。
被害者たちを救出するために、忍び込んだ貴族の邸には、誘拐されて売られて来た、我が国の若い貴族が4人も囚われていた。
4人の被害者たちには、それぞれ小さな子供がいて… その子たちを連れ出すのに手間取り、見張り役に見つかり、小さな子供を庇ってデスチーノはケガを負うはめとなったのだ。
被害者たちは4人とも男性のオメガで、救出を決行する前に、デスチーノたちが事前調査をしてみると… オメガたちは愛人として、囚われていたのではなく、買った貴族の政治活動の一環で、支援者たちを相手に、男娼のような性的接待を行う道具にされていたのだ。
「もう2人いるはずなのだが… 君たちは彼らを知らないか? いくら調べても、姿がどこにも無くて…」
被害者たちに船上で落ち着いてから、デスチーノがたずねてみると…
「使用人が話していたのを、聞いただけですが… 1人は自殺して、もう1人は病気で死んだと…」
一番年長の被害者が、デスチーノの疑問に答えた。
「やはり、そうだったか… 可哀そうなことをした…」
<だが、生き残って無事に助けられたこの4人も… 故郷に帰国しても家族に拒絶され、くだらない偏見の目で見られたりと、生き地獄を再び味わうことになるのかも知れない…>
デスチーノは憂鬱でならなかった。
「君たちが帰国した後も、私たちは支援をするつもりだから…」
腕を伸ばし、デスチーノは傷だらけの掌で、被害者が抱く子供の頭を撫でる。
平民たちのように逞しく生きる術を知らない、貴族出身で世間知らずのオメガたちは、男娼のようなひどい扱いをされても、抵抗し逃げ出すこともかなわなかったのだ。
逃げ出しても他国では、頼る知人さえいないのだから。
色白で肌のきめが細かく、美形がそろっていて、従順なことで有名な我が国のオメガは、近隣諸国の間ではとても人気があるのだ。
身分が釣り合えば、妻に欲しいと思う外国人貴族たちも多く、そこに目を付けられ、接待用の男娼として、誘拐されたオメガたちは買い集められたのだろう。
何より一般的な平民階級出身(平民は、ほぼベータ)の男娼とは違い… あえて貴族の子を性的接待役に使ったのは、接待される側の貴族も上流階級の人間で、知性と教養、礼儀作法を身に着けている被害者たちが最適だった。
「とにかく… 今は無事に帰国できることを喜ぼう…」
小さな声でつぶやくと… 憂鬱を散らしたくて、デスチーノは熱で重くなった頭を振った。
<ああ… やっとアディの元へ帰れる! こんな無様な格好を見せるのは嫌だが、我がままを言ってはいられないからなぁ…>
被害者はまだ大勢いて、コンプラ―ル男爵の売買リストも、半分しか調査していない。
ケガの療養のために、デスチーノの帰国は一時的なことかも知れないが… それでも嬉しかった。
<身重のアディを置いて来てしまったなんて… 私はなんてダメな夫なのだろう!! 早くアディに会いたい…>
スミレ色の瞳を閉じて、アディの一つ一つを順番に思いだし、デスチーノは微笑んだ。
金糸のような髪に琥珀色の瞳… ジャスミンの芳香に似たフェロモン… 明るい笑い声… 甘くて小さな、赤い唇…
<何もかもが恋しくてたまらない! 早くアディに、会いたい!>
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