傷心オメガ、憧れのアルファを誘惑

７８話 １年後２

　我が国と近隣3か国が、南北に分かれて戦った、大きな戦争が120年ほど前に終結した時…
　奴隷制度の廃止と、軍隊の解体を4か国で同時に行うことで、合意し和平条約を結んだ。

（軍隊を持つことは４か国間で違法になるが、治安維持のための小規模な騎士団は合法のため、各国ともにいくつか有している）

　つまり人身売買は近隣３国にとっても、我が国と同様に奴隷制度廃止によってつくられた各国共通の国法に違反するもので…
　どの国の人間でも、売るのも買うのも極刑に値する罪となる。

　コンプラ―ル男爵の客は、外国の上級貴族ばかりで…　押収した人身売買の名簿には、某国の中枢に近い名門貴族や王族の名まであった。

　罪がおおやけになれば政変が起き、国があれかねないと危惧きぐし…　どの国も被害者の保護には消極的だった。

　そこで…　近隣の国々へ王弟殿下と共にデスチーノは直接訪問し、その国の王族や政府要人と密かに面談し、名簿に載る貴族の名を表に出さないことを条件に説得して回り…
　デスチーノは数人の騎士たちとともに活動の自由を許され、秘密裏に被害者たちを救出して回っているのだ。


「フィーナスと、アンジョは大丈夫かなぁ？　また泣いてない？　僕は　なんか調子が悪くて、孤児院に行けないからさぁ…」

　フィーナスとアンジョは、デスチーノが救い出した被害者のオメガたちで…　デスチーノの悪い予想が当たり、家族からの受け入れを拒絶され、現在はジェレンチ公爵家が援助する修道院で保護しているのだ。
　

「修道女たちに聞いたけどね、子供たちと一緒に眠ると、以前より悪夢を見る回数が減って、良く眠れるようになったと言っていたそうよ？」

「本当に？！」

「小さな孤児の子供たちを、自分たちで育てなければという、使命感が心に芽生えたから…　私のように少しずつ気持ちが落ち着いたのかも知れないわね」

「そうか…！」

「それよりも2人とも、アディが無理して会いに来るから、心配していたわよ？」

「だって旦那様が頑張って救い出した人たちだもの、元気になって欲しいしね…　でも、心配されちゃってたらダメだよね、わかった！　気を付けるよ」