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76話 進展

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 オエスチ侯爵邸のきらびやかな晩餐会が華々しく幕を閉じ、招待客たちが満足そうな笑みを浮かべて帰ってゆくと…
 アディのジェレンチ公爵夫人デビューも、何とか無事に終わったのだと、ホッと胸を撫で下ろした。

 そう実感すると、急にアディの身体から力が抜けて、隣に立つデスチーノにぐったりともたれかかった。


「デスチーノ、今後のことについて少し話し合いたかったが… 次の機会にした方が良さそうだな?」
 オエスチ侯爵が声を掛けて来たが、アディの疲れた顔を見て、苦笑を浮かべデスチーノにたずねた。

「あ、いえ! 僕は大丈夫ですから、どうかお気になさらず!」
 ダラダラァァ~っ… とデスチーノに斜めになってもたれていた身体を、アディは慌てて真っ直ぐにして、赤い顔で… ほら、大丈夫ですよ? と何度もオエスチ侯爵にうなずいて見せた。


「アディ、無理しなくても良い… 先に公爵邸に帰るか?」

 今夜は良く頑張ったな… とねぎらいの笑みを浮かべたデスチーノに、優しい言葉をかけられると、アディはかえって恥ずかしくなった。

「・・・っ」
<ジェレンチ公爵夫人がこれしきの社交で、ぐったりするなんて… 恥かしいぞ?! 僕ってば、もっとしっかりしないと! デスチーノに恥をかかせてしまうよ?!>


「旦那様、僕は大丈夫ですから… どうか、ご一緒させて下さい」
 深呼吸をして、もうひと頑張りだ! と自分に言い聞かせて、アディはニコリッ… と笑った。


「本当に大丈夫か?」
 心配そうにデスチーノに聞き返され…

「はい、大丈夫ですよ! お気づかいありがとうございます」
 アディはもう一度デスチーノに力強くうなずき、オエスチ侯爵にも微笑んだ。


「居間へ行こう」
 オエスチ侯爵も微笑みながらうなずき、家族用の居間へと招かれた。
 





 3人で居間へ行くと、オエスチ侯爵夫人がお茶の用意をして待っていた。

「心がゆったりとした気分になる、薬湯なんだけどね… アディも美味しいから試してみてよ」

 侯爵夫人にティーカップを手渡されて、アディは甘い花の香りがする、お茶の芳香を楽しんでから一口飲むと…
 フゥ―――ッ… とため息をついた。

「とっても、美味しいです~…」
<ああ… 帰らなくて良かった…!>




「さてと… デスチーノ、王弟殿下について近隣国を回ると聞いたのだが?」
 オエスチ侯爵が口を開く。

「えっ?!」
 デスチーノ本人に、何も聞いていなかったアディが一番驚いた。

「今日、王太子殿下と話し合って、決まったばかりのことなのに、さすが侯爵はお耳が早いですね」
 苦笑を浮かべるとデスチーノは、隣で驚くアディの腕を、トンッ… トンッ… となだめるために軽くたたいた。

「何だお前、奥方にはまだ伝えていなかったのか? 私はもう、妻に伝えたぞ?」
 何となく自慢げに話すオエスチ侯爵は、隣の席から侯爵夫人に太ももをギュッ… とツネられた。

「痛ッ…!! 何をするんだヴィトーリア?!」
 じろりと侯爵夫人をにらむ、オエスチ侯爵様。

「気のきかないアルファだね! そういう大切なお話は、愛する旦那様から先に聞きたいに決まっているでしょう?」
 じろりとオエスチ侯爵をにらみ返し、侯爵夫人はアディに向き直る。

「ごめんねアディ、ジェレンチ公爵様もきっとアディに話したかったと思うんだ! でも忙しかったから気を使ったんだよ… そうだよね、公爵様?!」

 今度はデスチーノが、じろりと侯爵夫人ににらまれ、たじたじとする。

「侯爵夫人の言う通りだ! ア… アディ! 悪かった伝えるのが遅くなって…」
 実際に伝えたのはオエスチ侯爵である。

「あ! もしかしてさっきの、夏になったら僕たちをお城へ避暑ひしょに行かせて、その間にデスチーノは   王弟殿下と外国へ行く予定だと… その話をスフィンクスの前でしようしてたの?」 

「ああ、そうなんだ!」
 コクッ… コクッ… とデスチーノはあわててうなずいた。

「わかりました」
<王弟殿下と行くのなら、外国に売られてしまった誘拐の被害者たちを助けるためだもの… しょんぼりと僕が落ち込むわけには行かないよね?!>

 本当はめちゃくちゃ落ち込んでいたが… アディは顔を上げて、自分の気持ちをふるい立たせた。


「社交シーズンが終わったら、すぐに行く予定なのですね?」


「そうなると思う」


 

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