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64話 初夜
しおりを挟むふと、目覚めると… 自分が今、どこにいるのか分からなくて、しばらくの間アディの思考は停止する。
<あ… 喉が渇いた… 水が飲みたいなぁ…>
室内は1つだけ灯された蝋燭の火で仄かに明るく、 ころりと転がると、隣には裸で眠るデスチーノがいて…
「あっ!」
寝起きで掠れたアディの声は、とても小さく囁くようにしか発しなかったが…
鍛え上げられた騎士の鋭い感覚器官を持つデスチーノを、起すのにじゅうぶんな声量だった。
「・・・・・っ」
目蓋がぴくっ… ぴくっ… と動き、美しいスミレ色の瞳がゆっくりと開き隣りに転がるアディを、鋭い視線で縫い付けるように見つめた。
「起こ… 起こして、ごめんなさい… 喉が渇いて目が覚めてしまって…」
自分をジッ… と見つめるデスチーノに、アディは掠れ声でおずおずと謝った。
<そうだ、デスチーノの寝室にいるのか…>
むくりっ… とデスチーノは起きてベッドから下りると… ローブを羽織らず、裸のまま壁際に置かれたテーブルへ行き、用意されていた水差しからグラスに水を注ぎ、ベッドに戻りアディに渡した。
「あ… ありがとう…」
受け取ったグラスから、ごくごくと水を飲むと、フゥ―――ッ… とため息をついた。
「まだ、飲むか?」
空になったグラスをアディから受け取り、デスチーノがたずねた。
「もう、じゅうぶんです」
グラスをテーブルに戻してデスチーノがベッドに戻って来たが… なぜかとても素っ気ない態度で…
<あれ? デスチーノ、怒っているの? どうして? なぜ?!>
アディは不安になり、無意識で自分の胸に手を当てた。
その時… 今、自分が着ている寝衣はトルセールが選んでくれた、性欲が強いアルファが喜びそうな、薄く透ける生地で仕立てられた結婚初夜用のものだと気づいた。
サァ―――ッ…とアディの血の気が引いた。
<ああああっ!! どうしよう ぐっすり熟睡してたら、今夜は大事な初夜だとすっかり忘れていた!!>
「ごめんなさい、デスチーノ! あなたが帰って来ても気付かずに眠っていたなんて… あなたが怒るのは当たり前です!」
デスチーノが驚いてパカリッ… と口を開けた。
「いや違う! 怒ってない…」
「だってさっきから、口数が少なくて、ずっと僕を睨んでいるから」
琥珀色の大きな瞳で許しを請い、アディは上目づかいで懇願する
「違う、アディ睨んでいたのではないよ」
デスチーノは手を伸ばし、アディの胸を節太い指の背でなでた。
「あっ…!」
乳首の先を、指でくすぐるように撫でられ、アディはぶるっ… と背中を震わせた。
「透けているから、気になって…」
睨んでいたのではなく、デスチーノはガン見していたのだ。
帰宅して寝室に入ると、熟睡するアディを見つけ… デスチーノは眠るアディの姿うっとりとを鑑賞してしまうほど気になっていた。
「それに首も… 本当に綺麗だ…」
「デスチーノ…」
喉から項までをするりっ… と撫でられアディはうっとりと瞳を閉じる。
今夜のアディは、デスチーノと"番の契り"を交わすためにネックガードを外していた。
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