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44話 お茶の誘い3

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「だから私はデスチーノを何とか愛す努力をしたけれど… 恋人ほどに夫を愛すことは無かったよ」
 今度はアディのかんさわり、いつもは穏やかな気質だが、カッ… と頭に血が上った。

「デスチーノを愛すのに、努力など要りません! 必要なのは、お互いを幸せにする努力です!!」
 テーブルの上で拳を握り締め、アディはフーアをにらみ付けた。

「努力しても子供が出来なかったらどうしたら良い?」
 淡々とフーアは答えた。

<確かにセックスは子供を作るための行為だけど…>

 デスチーノの告白が脳裏をぎり…

『まだ若く未熟だった私は… 妻に子供が出来なくても愛し合っているのだから、ベッドで抱き合うのは当然だと思っていた…』


「本当に… あなたの愛は、足りなかったのですね?」
 フーアから、デスチーノに対しての愛情が足りなかったのだ。

 結局、デスチーノがどれだけフーアを愛し執着しても…
 夫を愛すのも、子供を産むのも、公爵夫人の義務だとしかフーアは考えていなかったからだ。

 オメガの性機能を失ったフーアの身体が、フェロモンを感知出来ず、"つがい"のデスチーノを認識出来なくなったことも、心に大きく影響し愛情が足りなくなった原因の一つだった。

<なんて哀れなんだろう… あの、溺れるようなデスチーノのフェロモンを、感じ取れないなんて>

 アディの中から怒りがすっ… と消え… ぬるくなった甘いお茶を、アディはゆっくり飲み干した。

<子供の時、猫を追って登り、下りられなくなった木の上で、デスチーノに微笑み掛けられ… フェロモンなんて感じ取れなくても、僕は彼に憧れて恋をした>

 アディはまだ、アルファのフェロモンを感じ取れないほど、未成熟だった頃の話である。

<ヴィードロを愛していた時でさえ、デスチーノへの憧れは消えずに今も続いている… オメガの機能が失われても、きっと僕はフーア様のようにはならない>

「ご馳走様でした」
 静かにアディは礼を言うと腰を上げる。

「君からデスチーノに、謝っておいてくれないかな?」

「はぁ?」

「当時はね、私自身がぐちゃぐちゃに混乱して、彼を憎んでさえいたけど… あれは私の完全な八つ当たりだったから… 今思うと結構、酷いこと言ったしね…」
 
 実際、フーアには自分を抱こうとする夫が悪魔のようにまわしく、思うほど、けがれた存在に見え… 気が狂ったように暴れて、デスチーノを拒絶したのだ。


「ご自分で謝ってはどうですか?」
<ああ、フーア様は、これが言いたくて、僕をお茶に誘ったのだ…>  
 

「離婚する夫になんか、今更会いたくないよ、嫌なら別に言わなくても良いけどね」

「ええ、言いません! そんなことを伝えて、デスチーノを再び痛めつける気はありませんから―――っ!!」
<心から愛した妻に、実は愛してなくてごめんなさい… なんて謝罪をされて、誰が喜ぶもんか! 絶対、デスチーノは知らない方が良い!!> 

 デスチーノのために、アディは怒鳴った。

「おお、怖い! 可愛い顔をして、結構気が強いね」

「・・・・・・」
 茶化してはいるが、フーアの目に、心の傷が見えた気がした。

 本当に、フーアなりにデスチーノを愛そうと努力したのだろうが… アディにとっては、それとこれとは別の話である。


「君たちが結婚する前に、私はここを出て故郷に帰るよ、家屋敷や家名は他人のものになってしまったけどね」
 フーアの生活の面倒はデスチーノが引き続き、責任を持つことになっている。

「そうですか、お元気で」

 アディは握手の手を差し出そうかと思ったが、やっぱり止めた。

 握手をして送り出すほど親しくも無いし… 苛立ってもいた。

 それに嫉妬を感じていたからだ。





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