43 / 87
42話 お茶の誘い
しおりを挟む
バラ園まで来ると、アディは見事に咲いた大輪のバラを指差した。
「ほら、見てごらん! このピンクのバラは、カンタールのお顔と同じぐらい大きなお花だねぇ!!」
カンタールはアディの手を放して、ピンクのバラの前にしゃがみ込んだ。
「お花に触ってはいけないよ? 痛い、痛いになる、棘がいっぱいあるからね、分かった?」
アディもカンタールの隣りにしゃがみ込む。
「痛い、痛い?」
小さな顔でカンタールはアディを見上げた。
「そう! 痛い、痛いだよ? 痛いの嫌だよねぇ?」
子どもにも分かるように、アディは大袈裟に顔をしかめて見せた。
「うん」
「見るだけだよ? 触っちゃダメ!」
「うん」
こくりとカンタールがうなずいた。
「ふふふっ… 君は若いのにとても子供の扱いが上手いね」
「!?」
真後ろで声がして、アディはしゃがみ込んだまま、振り返り見上げると…
短く黒髪を切り揃え、澄んだ青い瞳の青年が立っていた。
服装は地味だが、間違いなく貴族だ。
<あ… この人、オメガだ! それにこの声… 覚えが…>
慌てて立ち上がると、オメガの青年の手には、大きな剪定鋏が握られていて…
不意に、アディは気付く。
昨日、出会った庭師だと… そしてこの人は…
「…フーア様?」
ドクッ… ドクッ… とアディの胸の中で、心臓があばら骨を砕きそうなほど激しく暴れる。
ジェレンチ公爵邸の敷地を自由に歩き回る貴族は、デスチーノとトルセール、アディと3人の子供たち…
そして、ジェレンチ公爵夫人フーア。
「君はデスチーノの婚約者、エントラーダ伯爵家のご令息だね?」
フーアは瞳を細めて、和やかに微笑んだ。
「はい… そうです」
<婚約者?! 僕のことは知っている>
情けなくアディの返事は、震えてしまう。
「ちょうど良いから、今からお茶に付き合ってくれない?」
フーアの後ろから従者のギーアが現れる。
「申し訳ありません、今はカンタールが一緒なので…」
ピンクのバラの下にしゃがむカンタールを見ながら、すぐにアディは、お茶の誘いを断わろうとした。
だが…
「ギーア、子供を連れて来てくれる?」
「はい、フーア様」
フーアの従者ギーアは、ニコニコと笑いかけながら、カンタールに手を差し出す。
おずおずとカンタールは差し出されたギーアの手を掴み…
ギーアは慣れた様子で、カンタールを抱き上げる。
あまり人見知りをしないカンタールは、抱き上げられて素直に喜び、ギーアの肩に掴まりケラケラと笑い声を立てた。
「ああ見えて、ギーアも子供の扱いは上手なんだよ、大丈夫だから… さぁ!」
ジッ… とフーアに、アディは心を見透かされそうな、青い瞳で見つめられ…
うっかり出そうになったため息を、ぐっ… とアディは堪える。
「はい」
本当に断りたかったが、従者にカンタールを取られた形になり、アディは仕方なくうなずいた。
「ほら、見てごらん! このピンクのバラは、カンタールのお顔と同じぐらい大きなお花だねぇ!!」
カンタールはアディの手を放して、ピンクのバラの前にしゃがみ込んだ。
「お花に触ってはいけないよ? 痛い、痛いになる、棘がいっぱいあるからね、分かった?」
アディもカンタールの隣りにしゃがみ込む。
「痛い、痛い?」
小さな顔でカンタールはアディを見上げた。
「そう! 痛い、痛いだよ? 痛いの嫌だよねぇ?」
子どもにも分かるように、アディは大袈裟に顔をしかめて見せた。
「うん」
「見るだけだよ? 触っちゃダメ!」
「うん」
こくりとカンタールがうなずいた。
「ふふふっ… 君は若いのにとても子供の扱いが上手いね」
「!?」
真後ろで声がして、アディはしゃがみ込んだまま、振り返り見上げると…
短く黒髪を切り揃え、澄んだ青い瞳の青年が立っていた。
服装は地味だが、間違いなく貴族だ。
<あ… この人、オメガだ! それにこの声… 覚えが…>
慌てて立ち上がると、オメガの青年の手には、大きな剪定鋏が握られていて…
不意に、アディは気付く。
昨日、出会った庭師だと… そしてこの人は…
「…フーア様?」
ドクッ… ドクッ… とアディの胸の中で、心臓があばら骨を砕きそうなほど激しく暴れる。
ジェレンチ公爵邸の敷地を自由に歩き回る貴族は、デスチーノとトルセール、アディと3人の子供たち…
そして、ジェレンチ公爵夫人フーア。
「君はデスチーノの婚約者、エントラーダ伯爵家のご令息だね?」
フーアは瞳を細めて、和やかに微笑んだ。
「はい… そうです」
<婚約者?! 僕のことは知っている>
情けなくアディの返事は、震えてしまう。
「ちょうど良いから、今からお茶に付き合ってくれない?」
フーアの後ろから従者のギーアが現れる。
「申し訳ありません、今はカンタールが一緒なので…」
ピンクのバラの下にしゃがむカンタールを見ながら、すぐにアディは、お茶の誘いを断わろうとした。
だが…
「ギーア、子供を連れて来てくれる?」
「はい、フーア様」
フーアの従者ギーアは、ニコニコと笑いかけながら、カンタールに手を差し出す。
おずおずとカンタールは差し出されたギーアの手を掴み…
ギーアは慣れた様子で、カンタールを抱き上げる。
あまり人見知りをしないカンタールは、抱き上げられて素直に喜び、ギーアの肩に掴まりケラケラと笑い声を立てた。
「ああ見えて、ギーアも子供の扱いは上手なんだよ、大丈夫だから… さぁ!」
ジッ… とフーアに、アディは心を見透かされそうな、青い瞳で見つめられ…
うっかり出そうになったため息を、ぐっ… とアディは堪える。
「はい」
本当に断りたかったが、従者にカンタールを取られた形になり、アディは仕方なくうなずいた。
0
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
初めて僕を抱いたのは、寂しい目をした騎士だった
金剛@キット
BL
貧乏貴族の令息オメガのアユダルは、父親の借金の代わりに娼館へ売られてしまう。 だが、地味で内気なアユダルを買う客はいなかった。
そんな時、ケンカで顔にケガをした、男娼にかけた治癒魔法が目をひき、アユダルを買う客があらわれる。
魔獣の襲撃で家族と婚約者を失い、隠者のように暮らす裕福な騎士、アルファのレウニールだった。
レウニールはアユダルが抱かれるのは初めてと知り、優しい気づかいを見せた。
アユダルは親切で優しいレウニールに恋をし、ずっと側にいたくて、自分を愛人にして欲しいと願うようになる。
レウニールもアユダルの誠実さや可愛さに心ひかれてゆくが、受け入れられない事情があった。
😏お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
😘エロ濃厚です! 苦手な方はご注意下さい!
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生したらいつの間にかフェンリルになってた〜しかも美醜逆転だったみたいだけど俺には全く関係ない〜
春色悠
BL
俺、人間だった筈だけなんだけどなぁ………。ルイスは自分の腹に顔を埋めて眠る主を見ながら考える。ルイスの種族は今、フェンリルであった。
人間として転生したはずが、いつの間にかフェンリルになってしまったルイス。
その後なんやかんやで、ラインハルトと呼ばれる人間に拾われ、暮らしていくうちにフェンリルも悪くないなと思い始めた。
そんな時、この世界の価値観と自分の価値観がズレている事に気づく。
最終的に人間に戻ります。同性婚や男性妊娠も出来る世界ですが、基本的にR展開は無い予定です。
美醜逆転+髪の毛と瞳の色で美醜が決まる世界です。
愛欲人形
金剛@キット
BL
母に捨てられた建樹は、義父の知人、橘 貴城の家に預けられる。
ハンサムで裕福な橘の愛人になれと、義父に言われ、建樹は誘惑しようとするが…
「子供は趣味ではない」と、呆気なく振られてしまう。
一緒に暮らすうちに、橘の厳しい言葉の中に、人としての優しさを感じ、少しづつ惹かれてゆく建樹。
😘エロ濃厚です。苦手な方はご注意を!
竜血公爵はオメガの膝で眠る~たとえ契約結婚でも…
金剛@キット
BL
家族を亡くしたばかりのクルシジョ子爵家のアルセΩは、学園で従弟に悪いうわさ話を流されて、婚約者と友人を失った。 味方が誰もいない学園で、アルセはうわさ話を信じる不良学園生から嫌がらせを受け、強姦されそうになる。学園を訪れていた竜の血をひくグラーシア公爵エスパーダαが、暴行を受けるアルセを見つけ止めに入った。 …暴行の傷が癒え、学園生活に復帰しようとしたアルセに『お前の嫁ぎ先が決まった』と、叔父に突然言い渡される。 だが自分が嫁ぐ相手が誰かを知り、アルセは絶望し自暴自棄になる。
そんな時に自分を救ってくれたエスパーダと再会する。 望まない相手に嫁がされそうになったアルセは、エスパーダに契約結婚を持ちかけられ承諾する。 この時アルセは知らなかった。 グラーシア公爵エスパーダは社交界で、呪われた血筋の狂戦士と呼ばれていることを……。
😘お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。どうかご容赦を!
😨暴力的な描写、血生臭い騎士同士の戦闘、殺人の描写があります。流血場面が苦手な方はご注意を!
😍後半エロが濃厚となります!嫌いな方はご注意を!
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる