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19話 逃げ出す
しおりを挟むガロテ宛に、助けてくれたお礼と、謝罪の気持をこめて書いた手紙をテーブルの上に置き、ヒラソルは部屋の扉を静かに開く。
ベッドのある部屋の外は、廊下だと思っていたが… 扉の向こうがわは素晴らしい調度品で飾られた、居間が続いていた。
「うわっ…! さすが王宮!」
光沢のある深紅の布が張られたソファの手触りを確かめながら、ヒラソルは壁に掛けられた大きな絵画を見あげた。
「この絵だけでも、小さな家が一軒、買えそうな価値がありそうだなぁ…?」
貴族たちがピクニックをしている風景を描いた大きな絵に、ヒラソルは少しの間、見惚れてしまう。
「やっぱり… ここには僕の居場所は無さそうだ! 早く逃げ出そう!」
ガロテ様が帰ってくるまで待っていて… 直接、謝罪した方が良いかとも、思ったけれど… そんなことをすれば、ガロテ様も気まずい思いをするはずだ。
だから気をきかせて、身を引くべきなんだ! 僕のほうが強引に求婚したわけだし… ガロテ様も、今日会ったばかりの僕を、強く引き留めるとは思えないから。
「自己中でごめんなさい! 僕は本当に世間知らずで、浅はかでした、勇者様!」
自己嫌悪で胸をいっぱいにして、居間の左側にある扉を開くと、廊下が左右にのびていた。
使用人がどこにいるのかわからず、見つかって呼び止められたくなくて、ヒラソルはそろり… そろり… と静かに扉を閉めてから、廊下に出る。
「……」
窓の外はすっかり日が暮れて、壁に付けられた燭台に蝋燭が灯されているから… 王宮で行われる、祝賀パーティーはすでに始まっているよね? パーティー会場へ行けば、叔父さんに会えるかもしれない。
それで叔父さんと一緒に宿へ戻ろう… さすがにオメガ1人で、初めてきた夜の王都を、ふらふらと歩く自信は無いから。
長い廊下を進み、庭へ出る扉を見つけ開いてみると… かすかに音楽を演奏する音が聞こえた。
「音楽を頼りに… 祝賀パーティーの会場をさがした方が良さそうだ」
暗い庭に出て、真っすぐ音楽がする方向へとヒラソルは歩いた。
空には満月よりも少し欠けた月が出ていて、夜の暗闇に目がなれると月明かりの下でヒラソルは、庭の中に散歩道を見つける。
変な場所へ入り込んでしまわないように、散歩道を使い音楽がする方向へ進む。
「ガロテ様に会わないように… 気を付けないと…」
ドラゴン討伐の祝賀パーティーだから、主役の勇者様が出席しないわけないし…
ふと脳裏に、浴室でヒラソルにキスをしながら、楽しそうに笑っていた美丈夫の顔が浮かび… ヒラソルの瞳に涙がにじむ。
「すごく素敵な人だったなぁ… ガロテ様…っ…」
少しずつ音楽が大きくなり、ヒラソルは自分がパーティー会場のすぐ近くまで来たと気づくと… 急に足が重くなり、歩く速さがのろのろとおそくなる。
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