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42話 夕闇
しおりを挟むアイルは心がぐったりと彼れていた、今もとても疲れている。
そろそろ襲撃に備えて、騎士たちが移動すると言うコトになり、慌ててアイルは救護所へ戻ろうとすると…
「ダメだ、救護所まで送る! 何かあってはイケナイ!」
アイルの腕を掴み、パダムが言い出し…
「いいえ! 1人で戻れますからどうか… パダム様はお忙しいでしょうし!」
慌ててパダムの腕から逃れ、離れようとするが、パダムの剛腕に勝てるわけもなく…
「アイル様、パダム様はお2人でお話がしたいのですよ?」
ハンガットが口添えし。
「ココはパダム様のお顔をたてて、やって下さいアイル様」
他の騎士たちにも、揃ってパダムの味方をし、アイルは断れなくなった。
気が付けば、その場に居た騎士たちは全員、格式ばったパナス・ダラム様から、アイルのように、パダム様と呼ぶようになっていて…
騎士たちとパダム様の間に、不思議な(男の)連帯感のようなモノが生まれ、アイルにはとても分が悪い状況だった。
つまり、パダムが望めが、アイルに対して好き放題、何でも出来そうな空気で…
熱烈なキスが始まる前に退散した方が良いとアイルも判断し、救護所までの付き添いを受け入れた。
アイルが救護所テントまで付き添われる間、騎士たちがパダムへ、尊敬と憧れが籠った熱い眼差しを送ると共に…
同時に好奇心の熱い眼差しを、パダムにギュッと腰を抱かれながら、真赤な顔で歩くアイルにも送られて来るのだ。
<居た堪れない>
だが、アイルにはパダムの真意が分かっていなかった。
滅多にいない美女が、救護所を飛び出し、身分の分け隔て無く、怪我の処置をして回る姿を若い騎士たちは、ウットリと眺めていたコトを…
『パダム様の大切な方に、何かあってはイケマセンから』
ハンガットや他の側近たちに、コッソリ忠告されていたのだ。
アイルに手を出すものは "その手を叩き切るぞ!" という視線で、騎士たちを威嚇しながらパダムは救護所まで付き添った。
「あれ?! アイル姉上! 何処に行ったのかと捜していたんだ…」
ベソックが救護所前で声を掛けるが、隣でアイルの腰をガッチリ抱くパダムに睨まれ、青ざめて口をパカリと開ける。
「アイルお姉様?」
パギも目立つパダムに抱かれるアイルを見つけて駆けて来た。
「パダム様、双子の従妹弟、ベソックとパギです… 救護所を護衛する騎士です」
アイルが紹介すると、パダムは握手の為に大きな手を差し出して、ベソックの手を強めにギュウギュウ握る。
「従妹弟か、私はアイルの夫になるパナス・ダラムだ!! 以後よろしく!」
アイルに近づく男は、全員威嚇するつもりのパダム。
「夫?!」
甲高い叫び声を上げるベソックに、パダムはニヤリと笑う。
ベソックの声に反応して、周りに居た、怪我をした騎士や救護所の助手たちの視線を、一気に集めた。
「パギです」
頬を赤らめながら、元気良く握手の手を差し出すパギには、垂らし込むような甘い微笑みを浮かべパダムは優しく手を握る。
武人といえど、自分の容姿の使い方を、正確に心得ている、大人の男パダム。
「アイルをよろしくパギ!」
「はいっ♡」
目がハートのパギ。
「パ… パダム様…!」
動揺するアイルを、クルリと回し自分の方に向けると、パダムはチュウッと熱烈にキスをする。
「こういうことだ、ベソック! 覚えておけ」
「はひ…」
パダムにトドメを刺され、いろんな意味で、泣きそうになるベソック。
「アイル、救護所を囲んで小さな結界が張ってある、君は絶対にココから出るなよ?」
華奢な肩を大きな手で掴み、パダムは水色の瞳だけを見つめる。
「は… はい!」
アイルも深紅の瞳だけを見つめた。
「けして油断しないように!」
「はい、パダム様こそ… どうかご無事で! パダム様がお怪我をしたら、何と言われようと… 飛んで行きますからね?! 私はその為にココへ来たのですから!」
パダムの頬を撫で、夕闇で暗くなってゆく景色に、緊張で頬を強張らせ、無理をして微笑むアイル。
「分かった! 怪我はしない」
「行って下さい、パダム様! 従妹弟たちが私たちを守ってくれますから!」
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