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35話 戦場

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 隣国ティムルとの国境付近で…

 漆黒の鎧を身に着けたパダムは、キメラの背中から生えたヤギの頭を切り落とし、一息つく。


 キメラの群れは今のが最後だ。


 大剣を振って不浄な魔獣の血を落とし、ぼろ布で刃を拭ってから、鞘に入れた。


 周りでへたり込む騎士たちに声を掛け、面倒だが一人づつ昨夜の野営地まで戻れと立たせる。
 
 その場で眠りこけるコトにでもなれば、危険だからだ。



「サッサと、飯を食いに戻れ!! 今度はオークが相手だ、グズグズするなよ!」


「・・・・・・」

 消耗が激しく、マトモに返事をする者もいない。
 

 騎士たちの疲労は、頂点に達しているからだ。


 

 斥候に出た者の報告ではオークが、目の前にそびえ立つ山の中に潜んでいるらしい。

 豚の顔をしたオークは太陽光を嫌い、活発になるのは夜だ。
 

 つまり数時間後、日が暮れれば、今度はオークの群れと戦うコトになるだろう。


 大きなため息をつき、パダムは何日戦っているのかをふと考える。


<3日目? 4日目? ああ、アイルの顔が見たい!! 彼女を抱いて眠りたい… 声が聞きたい>

 ガチッ、ガチッ、ガチッ、ガチッ、と鎧の合わせ目が擦れる音を立てながら、昨夜の野営地まで戻る。



 生き残った部隊長たちと、大雑把な打ち合わせをし、食料と水を受け取りさっさと摂って、適当に座って仮眠をとる。
 
 やはり、かなりの犠牲者が出ている。


 誰かに顔を撫でられた。

 相手が魔獣なら、殺気で皮膚がビリビリとし、一瞬で覚醒するのだが…

 
 顔に触れる冷やりと心地良いモノからは、殺気を感じないから、ゆっくり捕まえて目を開くと、有り得ないモノがソコに居た。

 腰まである真っ直ぐな銀の髪を、項で一つに纏め、清らかな水色の瞳でアイルはパダムを、心配そうに見つめていた。



「私の聖女… ココは危ない、早く帰るんだ」

 パダムが捕まえた、水で濡らした布を持つ細い手を、引っ張って抱き寄せ、キスをするが、なぜかアイルは、抵抗する。

「ダメです! パダム様… お許しください!」

 グイグイ突っ張るから、ムッとしながら睨む。

 周りには何人かの騎士が、興味津々の目で、自分たちを見ていた。

 マジマジとアイルの顔を見るパダムは…

「コレは… 夢では無いのか?」
 
 ポツリと言うパダムに、アイルはガックリ肩を落とす。

 後ろで様子を窺っていた若い騎士が、吹き出した。


「はい、兄の仲介で治療師たちの、手伝いに入っています」

「なぜ、このような危険な場所に、来たのだ?! アイル、スグに王都に帰るんだ!!」





 アイルは困った顔をする。









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