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26話 兄と妹

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 昼食の為に立ち寄った宿屋で、アイルは思い切って、パダムのコトでフジャヌに相談しようと思い立つが… 

 フジャヌと話す時は、いつも冷静さと平常心が、必要になる。

 いつもアイルに対する、フジャヌの言葉はとても強く、攻撃的なので、動揺で荒れてしまった心では、考えが纏まらず… 

 結局、肝心な言い分を、アイルはマトモに伝えられなくなるのだ。


 昔はそんな人では無かったが、両親の死がキッカケで、兄フジャヌは、変わってしまったのだ。

 どんな心境の変化が、起きたかは、フジャヌ自身と神にしかわからない。


 先にアイルは、何を言われても動揺しないように、拳を硬く握り締めてから、兄の前に立つ。


「お兄様、クラン公爵家のブラヌ様に、一度お会いしたいのですが」
 
「何の為にだ?」
 
 冷淡に、フジャヌは、アイルをチラリと見て答える。


「パダム様のコトで… お話がしたいからです」

「婚約の件なら、お前が口を出す問題では無いぞ」

 アイルの心を見透かすような、水色の瞳をフジャヌはスッと細めた。


「ソレでもお会いしたいのです、女性同士で…」

「なるほど、お前はパダム様の妾になる覚悟が、ようやく出来たようだな」

「・・・・・・」

 ソレに関しては、アイルは何も答えられない。


「ブラヌ嬢に、お前が妾になる許可でも、貰おうとしているのでは、あるまいな?」

「私とて、そんな無礼なマネはしません! ただ、確かめたいのです… ブラヌ様のお気持ちを」
 
 
 パダムの話が本当なら、ブラヌはパダムを恐れているという、印象だった。
 
 呪毒に侵された姿は、確かに若い女性なら、怖がっても仕方ないのだが…
 


「よかろう、私もクラン公爵と、協議しなくては、ならないコトがある」

「ありがとうございます… ソレと、もう一つお願いが…」

「今度は何だ?」


「私をパダム様が居られる場所へ、お連れ下さい… 魔法は使えませんが、治療師の手伝いぐらいは、出来ますから… ソレにパダム様が、負傷された場合に備え、私がお側に居た方が良いかと思い…」

 フジャヌは、しばらくアイルを見つめ…


「分かった、だがお前に護衛を付けるような、特別待遇は出来ないからな」


「当たり前です!」
 
 流石にムッと膨れるアイルを、意地悪そうに見つめるフジャヌ。


「子供はどうするのだ? 連れて行く気では、無いだろうな?」

「ソレは…っ! オバット伯爵邸に行くのなら、誰かに預けようと…」

 痛いところを突かれて、アイルはたじろぐ。


「自分がミニャックの代わりに、母親になると豪語していたクセに、ずいぶん薄情だな?」

 フジャヌの言葉は、いつも攻撃的なダケで無く、鋭く真実を突いて来るから困る。


「・・・・・・っ!」

 屈辱でブルブルと振える、アイルの拳を見つめ、辛辣な嫌味を引っ込めるフジャヌ。


「冗談だ、至急乳母を手配する」

 アイルを追い払うように、フジャヌは手を振る。


「…ありがとうございます!」



 いたぶって、揶揄われた感が、どうしても拭えず…

 屈辱と怒りで顔を真っ赤にしたアイルを見て、フジャヌは愚かな妹だと忍び笑いを漏らす。







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