英国紳士の溺愛

金剛@キット

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第4章 映画祭編

104話 怪物の正体

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 身体中に情交のあとを残し、衣擦きぬずれの音を立てながら、蘇芳は無表情でドレスシャツを着る。
 
 アーサーに別れを切り出され、蘇芳はショックから立ち直れないでいた。




 授賞式の会場ロビーで、アーサーと蘇芳はハンソン姉妹をエスコートする。


「マコトがB.Dブレイクダウンの主演俳優だと聞いたけど本当?」
 サリー嬢に瞳をキラキラさせ期待しながら聞かれるが…

「デマだよ!」
 蘇芳(マコト)は即答した。
 
「なぁーんだ!」
 否定する蘇芳に、サリー嬢はガッカリする。

 サリー嬢はいやゆるオタクで… 新人俳優マコトに変装した蘇芳は、親しく話す機会がふえて、知った事実だ。

 「ごめんね、サリー」
 蘇芳が謝ると、サリー嬢と2人で微笑み合い、アーサーを見つめる。

「こんな間近でリアル"ダーク・ジャスティス様" に会えるのも最後ね…」

 ギルボーンハウスのディナーで、サリー嬢がアーサーを情熱的に見つめていたのは、恋愛感情からというよりも… 大好きなゲームのキャラに似ているからだそうだ。

「そうだね」
<サリーとは、これでお別れか… 残念だな、こんなコスプレしてなかったら、次に会った時も仲良くできたかも知れないのに… ああでも、コスプレしてなかったら、仲良くならなかったかな?>

 授賞式の後、アーサーと蘇芳はこの町をたち、残りの休暇はフランスですごす予定である。 


「エスコートをマコトにしてもらえて、嬉しかった! …今日でお別れなのが寂しいなぁ」

「僕もだよ…!」
<…僕はいつの間にか、卑屈ひくつな考え方が染みついてしまい、相手の本質を知る努力をして来なかった、今回は本当に反省した>



 蘇芳たちから少し離れた場所に、日本人のグループがいて… その中の音埼さとしと目が合い、蘇芳の顔が強張こわばった。

 恐らく音埼の方がずっと蘇芳を気にして、見ていたのだろう… スタッフ用の通路を指差し、音崎は話があると蘇芳にサインを送って来る。
 

「知人を見つけたから挨拶してくるね」
 サリー嬢に断りを入れ、蘇芳は先に通路へ向かった音埼の後を追う。

 アーサーの視線を感じたが、蘇芳は無視した。




 日本にいる叔父に蘇芳は連絡を取り、音埼のことを少し詳しく聞いた。

さとしの母親と星一が結婚した時、2人の結婚を反対した私は、2人が離婚するまで聖に会わせてもらえなかった… だから聖が育児放棄されているとは、気付かなくて… お前たちを苦しめたのは、私たち大人なんだ、許してくれ!!》

 機械を通しても感じ取れる、叔父の苦し気な声が… 今も蘇芳の耳から離れなかった。




 せまい通路で、蘇芳と聖は少し離れて向かい合った。

「B.Dの主役を愛人の力で取ったって本当か?」
 音埼に軽蔑けいべつの眼差しで、蘇芳は見つめられる。

「そんな愚かなデマを、本気で信じる人間がいるとは思わなかった!」
 フンッ! と蘇芳は、鼻で笑って皮肉でやり返した。

「それと… あなたは怪物ではなく、僕と同じ実の親に愛されなった寂しい子供だったと、叔父に聞きました」

「そ… そんなのどうでも良いだろう?! あんなロクデナシの男に愛されたいと、オレは思ったこと無いし!」
 蘇芳の言葉に、音埼の目が怒りで険しくなる。

 必至で怒りをおさえようと、こぶしをにぎり腕組みをする音埼を見て、蘇芳は初めて同情した。

「あなたは僕と同じだ、なのによくその… ロクデナシと同じ俳優の道を、選ぶ気になりましたね?」

「そんなの、あいつを負かすために決まっているだろう?! お前こそどうなんだよ?!」

 自分でも恥かしいと思っているコスプレ姿を、音埼にジロジロ見られ、蘇芳は顔を赤らめた。

「僕はビジネスに興味があるので… この服は僕のパートナーがB.Dの関係者だから、話題の提供に協力しているだけで、今回限りですよ」

「そうなのか?」
 音埼が意外そうな顔をする。

「次に会った時、僕はあなたに声をかけません… 今回も僕が話しかけたわけではないけど… でも、あなたの顔を見たら嫌味を言わずにはいられなかった、誓って僕はあなたの邪魔をする気もありませんし… 僕はそんなに暇ではないから」

 これ以上は音崎と争うことを望まないと、蘇芳は自分の気持ちを素直に伝えた。


「迷惑なやつだな! 言っとくが、お前が弟とは認めないからな」
 少しホッとした顔をする音埼。


「僕は今後も、あなたと他人でいたいです」

 蘇芳は苦笑した。





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