英国紳士の溺愛

第４章 映画祭編

９９話 愛玩動物

「あいつは君に夢中だ！」

「……」
　アーサーの親友カルロの言葉に、蘇芳は黙り込む。

「別れるなら今のうちだ、取り返しのつかない痛手を受ける前に…」
　カルロは軽い口調で話すが、内容は極めてヘビーだ。

「彼が僕を傷つけると？」
　真剣に蘇芳が聞き返すと…

「彼の敵がだ！」
　カルロの口調は厳しいものに変わり、蘇芳はギルボーン一族のことだと思い至る。

「あいつに必要なのは、心優しい天使のような恋人ではなく、悪魔のように狡猾こうかつでしたたかな味方だ！　奴の弱点にだけはなるなよ」

「悪魔のようにとは？」
　カルロのヘビーで厳しい言葉に、蘇芳は再び考え込む。

「誰を手本にするかは知っているよな？」

「…アーサー本人？」
　蘇芳がカルロを見上げながら答える。
　
　カルロはニヤリと笑う。


「おっと！　うるさいのに見つかった！」
　カルロの視線の先に、こちらへ向かって歩いてくる自称俳優のフランシスがいた。
　
　昨夜はアーサーにくっ付いて、愛人になるから支援してくれと口説いていた男は…　
　いつの間にかカルロに乗り抱えたらしい。

「彼と付き合うのですか？」

「軽薄だが、野心でギラギラしたとこが可愛くて面倒見るのも楽しそうだろう？」

「・・・・・・」
＜…まるでペット選びみたい、"愛玩動物"？＞


　目の前でカルロとフランシスがイチャつきだし、蘇芳はゾッとする。



＜でも…　今の僕も、大差ないのでは？！＞　


　悪魔には程遠い、アーサーの愛玩動物。