英国紳士の溺愛

第３章 指輪編

７４話 不快な男

　黒髪に着古したミリタリージャケットを着こみ、野性的なスタイルに変装したアーサーと、カジュアルな服装に着替えたタイラーは、ロンドンの下町と言われる場所にある、パブに来ていた。


「オリバー・P ・ギルボーン、彼の予定表だ」

　調査員の前に分厚い封筒を置くアーサー。

　タイラーは店内を見渡せる位置に座り、誰にも話を聞かれないように目を配る。


「それで何が知りたい？」

　エールを飲んでゲップをすると、小太りの男はシャツの下の腹をボリボリだらしなく掻く。

「私がとあるクラブの夜会に出席した時の情報を、オリバーに流しているのが誰か特定したい」

「クラブ？」
「私が恋人を連れて出席した夜の話が筒抜けになるようだ」

　セキュリティが万全の秘密クラブ、ゼフィロス内の情報が、会員でもない伯父のオリバーが知っているというコトは…
　ゼフィロス内に、オリバーに情報を流すスパイが存在するというコトだ。


「ドレスの中に指突っ込んでたんだろう？　ソレをバラされて…　ほら、当たりだ！」

　恋人と聞き、小太り男がゲラゲラと笑いだす。


「明日も夜会に出席する予定だ、急な話だが出来るか？」

　キャロリンを使い伯父が仕掛けたコトを、今度はアーサーが仕掛け返す計画だ。
　＂目には目を＂…である。
　　

「機材は揃ってるからやれるぜ」

　小太り男はニヤニヤしながら承諾する。

「アンタの女は胸はデカいか？　その夜会とやらで思いっきり胸を揉んで見せつけてやれよ！　スパイは張り切って報告しに行くぜ！　ソレをキャッチすれば万事OKだ！」

　下品に自分の胸を揉む小太り男。


「ソレは以前やったコトがある」

　アーサーがサラッと答えると、横でタイラーが吹き出す。


「金持ちのクセに、意外と下品な男だな…」

　小太り男はヒュゥ～と口笛を吹く。


「上品なだけの男など役立たずに決まっている、それと私の相手は男だ」

　アーサーはニヤリと笑う。



　小男がギョッ…　と目を剥くと、タイラーが忍び笑いを漏らした。