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26話 紳士の理性 アーヴィside
しおりを挟む「おや、抑制剤だって? アルファのアンタが? コレはもしや春が来たか?」
ニヤニヤと笑い冷やかすフェーブリ医師。
年齢は50代ぐらいでスゴイ美女なのだが… 中身がとにかくオッサンで口が悪い。
何でもはっきり言うのは良いが、こちらが恥ずかしくなるようなコトまで口に出すから困る。
「まぁ、そんなトコロです…」
<全く… この人もか? …まぁオレでも部下がこんな行動を取れば、きっと揶揄うだろうから、今は甘んじて受けるコトにするさ>
「何度も言うけど、オメガの身体は我々アルファと比べると、とても繊細で難しいのだよ、だからその子の為を思うなら本人に会って、診察をしないと良いか悪いかは分からないんだ」
「なるほど…」
「だけどアンタの話からすると… 確かに効き目の悪い抑制剤では心配だね…」
「今は社交シーズンだからオウロ公爵邸には、招待された客たちが年頃の令息令嬢を連れて地方から結婚相手を探しに出てきているので…」
オメガやベータもだが、当然アルファも花嫁を求めて来ている。
そして、公爵夫人が開くお茶会や音楽会に王都中の貴族が顔を出す。
ソレを思うとアーヴィは、アルファの本能である独占欲や執着心に駆り立てられ、ヴィトーリアが誰かに奪われるのではないかと心配で堪らなくなるのだ。
社交シーズンでも騎士団の仕事は通常通りで、むしろ王都に人が集まるこの時期は忙しいぐらいだ。
四六時中ヴィトーリアを見ていられない立場のアーヴィが、不安になるのは仕方ない。
「害の無さそうなのを2、3用意してやるよ… 少しづつ試してみると良い」
「ありがとうございます」
見るからにホッとするアーヴィにフェーブリ医師も微笑む。
「暇が出来たら、一度連れておいで… ソレが一番だから」
「はい」
「アンタのカワイ子ちゃんを早く私に紹介しな!!」
ニマニマとスケベそうに笑い両手の掌を擦り合わせて、舌なめずりでもしそうなフェーブリ医師。
ちなみにフェーブリ医師には内縁の妻が3人いるらしい。
相手の身分が低すぎて正式に結婚するのは面倒な手続きが多いから3人とも愛人扱いになっている。
(※この国の法律では一夫一妻制である)
「ううむうう…」
絶対に会わせたくないと、思わず唸るアーヴィ。
「面倒だからと、アルファの本能に従い項を噛んで番にしてしまおうなどとは安易に考えないようにな? 人が洞穴で暮らしていた原始時代とはワケが違うのだから」
「うっ… 分かってますよ先生」
最初の情交の時にやりかけたアーヴィは、顔を赤らめる。
「アルファの本能を上手く抑えて、原始人から進化した現代の紳士の理性を見せてこそ、オメガの体調も安定するのだから」
「は…はい! オメガには安定した環境を与えるコトですね?」
生真面目な顔をして答えるアーヴィに大きく頷くフェーブリ医師。
「けして、忘れないように!!」
バンッと背中をフェーブリ医師に力いっぱい叩かれるアーヴィ。
「うぐっ…!」
とにかく今は忍耐が必要なのだ。
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