上 下
26 / 80

25話 騎士団長と副騎士団長 アーヴィside

しおりを挟む

 第二騎士団、副団長の執務室で黙々と書類仕事を片付けるアーヴィの執務机に形の良い小さな尻を乗せて、鼻歌を歌う騎士団長のマール王子。


「マール王子… 尻を上げてください、下の報告書が見たいので」

「おや、コレは失礼!」
 自分の尻の下の報告書をマール王子は座ったまま引き抜き、シワシワの紙をアーヴィに手渡す。

「ほら、僕の尻と同じぐらい報告書が暖かくなってるよ?」

「・・・・・・」 
 パチンッとウインクするマール王子に、アーヴィは呆れてため息をつく。

 王立第一、第二騎士団の騎士団長は能力で選ばれるのではなく、いわゆる名誉職で、慣例から王族が務めるコトになっていた。

 第二騎士団の前騎士団長だった第二王子のラーゴ王子は臣籍に下り、血筋が絶えたプラッタ公爵領を陛下から拝領し、エズメラウダ公爵となる。

 後任に第三王子のマール王子が、オメガではあるが就任した。


「うふふふふっ… 早く僕のモノになりなよアーヴィ」

「何もやるコトが無くなったら、考えても良いですがアナタのせいで仕事は山積みですから…他の王族の方が騎士団長に就任するまでは無理でしょうね」
<クソッ! 皮肉など通じない相手だが、ついつい言い返したくなる!>

 マール王子の性格からして言い返せば、逆に喜んで絡んで来るのだ。 

 王族の傲慢さからマール王子は典型的な快楽主義の上、利己的だから、 無邪気な態度に騙されて気を許すと、酷い目に合う。

 先月、部下のベテラン騎士が王子の色香に惑い、王子が誘えば仕事中でも人前でイチャつくようになり、仕方なく北方騎士団に左遷したばかりだ。


「王子… 何もしなくて結構ですから、私の邪魔はしないで下さい!」
 イライラとマール王子を睨みつけていると、王子のネックガードに目が行き… アーヴィはふと考え込む。

<フェーブリ医師に会って良い抑制剤を教えてもらおう! ヴィトーリアの奴、あんなにフェロモンを振り撒いていたら公爵邸中のアルファが襲い掛かって来るぞ?!>


「邪魔なんかして無いだろう? 少しだけココで休憩しているだけだよ」
 ニマニマと笑い、マール王子は艶気を振り撒く。

「・・・・・・」
 既に王子への関心を無くし、ヴィトーリアのコトで頭がいっぱいのアーヴィは…
 フッと笑い、王子が目の前にいるコトなど忘れ機嫌良く書類仕事に戻る。

<それにしても、今朝のアイツは可愛かったなぁ… フフフッ…>

『本当にだめぇ…こんな…ふしだらなコト』

<ああマズイ… 思い出したダケで昂ぶりが抑えられない!!>

 ニヤニヤが止まらないアーヴィ。


「ねぇアーヴィはどんな体位が好きなの?」
 若いデビュタントたちのようにマール王子は唇を尖らせキスを誘う。

「ああ王子、まだいたのですか?」

「だから… ねぇ、どんな体位が好きなの?」
 ぷうっと膨れるながら、まだ食い下がる。

「今朝は正常位で可愛がりましたよ、アレは可愛かった!」
 カシカシと書類の上で、ペンを滑らせる音を微かに立てながら、サラリと答える。

「え・・・!?」
 答えが返って来るとは思わなかったマール王子は、パカリと口を開く。

「まだ何か用ですか? 忙しいので退出して下さい、誰かに構って欲しいなら第一騎士団、団長の執務室へ行って下さい、アナタについては言動も行動も全て報告書に記入して、王太子殿下に提出する予定です」

「はぁ?! 嘘でしょう?! 何ソレ!!」
 サラリと言われてマール王子は驚愕する。

「全て本当です、アナタが部下に手を出すからイケナイのですよ?」
 実は全部ウソ、"嘘も方便"である。

 素行不良のマール王子にコレ以上付き合うのが面倒になり、アーヴィは前任の騎士団長ラーゴ王子直伝の腹黒術を使用するコトにした。


「嘘でしょう?!」

「そう思うなら王太子殿下に確かめてはどうですか? "部下とふしだらな関係ですがご存知ですか?" と」
<そうだ、報告書ダケ作っておこう、いつでも出せるように… マール王子に嘘がバレても言い逃れが出来る… まぁソコまで頭が回る人ではないけど>

 そもそも頭が回る人なら、こんな愚かなコトはしない。

 力強く頷くアーヴィにマール王子の顔色がドンドン青くなってゆく。

「・・っ!!」


「さぁ、どうしますか?」
<不真面目なダケならまだ許せるが、愚か者は許せない!! 特に部下まで巻き込んだコトが!!>

「悪かったよ… もう邪魔しないから、頼むよ」

「私の執務室から退室してください、ソレとやる気がないなら、騎士団にいらっしゃらなくて結構です」

「わ…わかった!」



 慌てて出て行くマール王子に、アーヴィはため息をつく。


<昔のオレも、ヴィトーリアからすれば、マール王子のように甘やかされた愚か者にしか見えなかったのだろうな>



 1人で首を横に振り、アーヴィは苦笑いを浮かべた。





 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

初めて僕を抱いたのは、寂しい目をした騎士だった

金剛@キット
BL
貧乏貴族の令息オメガのアユダルは、父親の借金の代わりに娼館へ売られてしまう。 だが、地味で内気なアユダルを買う客はいなかった。 そんな時、ケンカで顔にケガをした、男娼にかけた治癒魔法が目をひき、アユダルを買う客があらわれる。 魔獣の襲撃で家族と婚約者を失い、隠者のように暮らす裕福な騎士、アルファのレウニールだった。 レウニールはアユダルが抱かれるのは初めてと知り、優しい気づかいを見せた。 アユダルは親切で優しいレウニールに恋をし、ずっと側にいたくて、自分を愛人にして欲しいと願うようになる。 レウニールもアユダルの誠実さや可愛さに心ひかれてゆくが、受け入れられない事情があった。 😏お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。 😘エロ濃厚です! 苦手な方はご注意下さい!

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

どのみちヤられるならイケメン騎士がいい!

あーす。
BL
異世界に美少年になってトリップした元腐女子。 次々ヤられる色々なゲームステージの中、イケメン騎士が必ず登場。 どのみちヤられるんら、やっぱイケメン騎士だよね。 って事で、頑張ってイケメン騎士をオトすべく、奮闘する物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

公爵に買われた妻Ωの愛と孤独

金剛@キット
BL
オメガバースです。  ベント子爵家長男、フロルはオメガ男性というだけで、実の父に嫌われ使用人以下の扱いを受ける。  そんなフロルにオウロ公爵ディアマンテが、契約結婚を持ちかける。  跡継ぎの子供を1人産めば後は離婚してその後の生活を保障するという条件で。  フロルは迷わず受け入れ、公爵と秘密の結婚をし、公爵家の別邸… 白亜の邸へと囲われる。  契約結婚のはずなのに、なぜか公爵はフロルを運命の番のように扱い、心も身体もトロトロに溶かされてゆく。 後半からハードな展開アリ。  オメガバース初挑戦作なので、あちこち物語に都合の良い、ゆるゆる設定です。イチャイチャとエロを多めに書きたくて始めました♡ 苦手な方はスルーして下さい。

処理中です...