上 下
9 / 44

8話 レウニールの家族2 レウニールside

しおりを挟む

 指で触れると、床に飛び散った血はすでに乾いていた。


「・・・っ」
 これは… 私の家族のうち、誰の血だろう? 最近、体調を崩していた母の血だろうか? それとも弟夫婦? いや黒騎士の弟ならきっと、剣を持って馬車の外へ飛び出して、勇敢ゆうかんに魔獣と戦ったはずだ… なら幼い甥っ子2人の血か? やはり… 幼馴染だった、私の婚約者の血なのか? なぜ、こんなことになったんだ?! なぜだ?!


 血だらけの床のすみで、馬車の窓から差し込む夏の陽光に反射して、何かがキラリッ… と光る。

 レウニールはかがんで、光った物の正体を確かめようと手をのばしたが… 
 ハッ… と息をのみ、それを手に取ることを躊躇ちゅうちょした。


「指輪…」 
 代々当主が受け継ぐ、“花嫁に贈る指輪” 私も母から譲られ、婚約者に贈った… 私の瞳の色と同じ、青玉サファイアの指輪。

 乾いた血がこびり付いた指輪の近くには… 細い指が転がっていた。


 私の婚約者、ペルフメの指…?!


『やはり、ペルフメの指にはこの指輪は、少しサイズが大きいなぁ…?』

『うふふふっ… そうね、レウニールのお母様は私よりもすらりと背が高いから、手もすらりと、大きいのよね! 小柄な私には、本当にうらやましいわぁ』

『指輪のサイズを直した方が良さそうだな?』

『このままでも、大丈夫よ… 少しゆるいけれど、大き過ぎるというほどでもないから』




「ううっ… ぐっ…」
 吐き気を抑えてレウニールは、白騎士団の白地に金の装飾を施した騎士服の内ポケットからハンカチを出して、婚約者の指と、“花嫁に贈る指輪” をひろって大切に包み、再びポケットに戻す。


 急いで壊れた馬車から飛び出すと、血で黒ずんだ地面に崩れ落ち、レウニールは嘔吐おうとした。

 自分が失った大切なモノの大きさにおびえ、レウニールは過去に感じたことの無い、孤独という名の恐怖に震えた。

 王都から領地への道は、今まで魔獣が出没したことが無く、レウニールは安全だと思い込んでいた。
 そんな油断とすきが、家族全員と愛する婚約者の命を奪ってしまったのだ。


「くうっ… うっ…」
 悔やんでも悔み切れない! せめて私も一緒に同行していたら… 弟と共に死に物狂いで戦えば、全員は無理でも、誰か1人ぐらいは助けられたかもしれない!!

 母の為に、小さな甥たちの為にと… そればかりに気を取られて、人を護ることが専門の私が… 家族の護衛をおろそかにして、婚約者のペルフメまで巻き込み… 私が領地に行かせたばかりに、取り返しのつかない、失敗を犯してしまった!!


「私のせいだ! 私のせいだ―――っ!! 私のせいだ――――――っ!!!」

 止め処なく涙を流し… レウニールは獣のように、天に向かってえた。 





 騎士団長に与えられた休暇の期限が過ぎても、レウニールは白騎士団に復帰することはなかった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。

MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。 カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。  勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?  アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。 なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。 やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!! ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

【短編版】追放された白豚令嬢は痩せたくないので呪われ骸骨魔王子様と治癒魔法を極めます!

風和ふわ
恋愛
ミーラ・M(マリア)・エトワール。 「M(聖女)」の魔法名を持つ彼女は絶世の美少女でありながらも、今は肥えてその美貌を失っていた。 太った見た目のせいで周囲からは「白豚」と嘲笑され、ついには化け物王子の婚約者としてミストリア王国から隣国アクリウスへ追放されてしまう。 しかし、ミーラがそこで出会ったのは、骸骨頭でありながらも、魔法オタクで、不器用で、誰よりも優しい心を持った呪われた王子──ゼシル・H(ハデス)・ヴァンガードだった。 似たような過去、境遇をもち、似たような夢を秘める二人が惹かれ合うにはそう時間はかからない。 そんな時、二人が共に過ごす古城へミーラの元婚約者一行が来訪するとの報せが届いたのだった……。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中
恋愛
大陸の西の果てにあるスフィア王国。 その国の公爵家令嬢エリスは、王太子の婚約者だった。 だがある日、エリスは姦通の罪を着せられ婚約破棄されてしまう。 そんなエリスに追い打ちをかけるように、王宮からとある命が下る。 それはなんと、ヴィスタリア帝国の悪名高き第三皇子アレクシスの元に嫁げという内容だった。 結婚式も終わり、その日の初夜、エリスはアレクシスから告げられる。 「お前を抱くのはそれが果たすべき義務だからだ。俺はこの先もずっと、お前を愛するつもりはない」と。 だがその宣言とは違い、アレクシスの様子は何だか優しくて――? 【アルファポリス先行公開】

処理中です...