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8話 レウニールの家族2 レウニールside
しおりを挟む指で触れると、床に飛び散った血はすでに乾いていた。
「・・・っ」
これは… 私の家族のうち、誰の血だろう? 最近、体調を崩していた母の血だろうか? それとも弟夫婦? いや黒騎士の弟ならきっと、剣を持って馬車の外へ飛び出して、勇敢に魔獣と戦ったはずだ… なら幼い甥っ子2人の血か? やはり… 幼馴染だった、私の婚約者の血なのか? なぜ、こんなことになったんだ?! なぜだ?!
血だらけの床のすみで、馬車の窓から差し込む夏の陽光に反射して、何かがキラリッ… と光る。
レウニールはかがんで、光った物の正体を確かめようと手をのばしたが…
ハッ… と息をのみ、それを手に取ることを躊躇した。
「指輪…」
代々当主が受け継ぐ、“花嫁に贈る指輪” 私も母から譲られ、婚約者に贈った… 私の瞳の色と同じ、青玉の指輪。
乾いた血がこびり付いた指輪の近くには… 細い指が転がっていた。
私の婚約者、ペルフメの指…?!
『やはり、ペルフメの指にはこの指輪は、少しサイズが大きいなぁ…?』
『うふふふっ… そうね、レウニールのお母様は私よりもすらりと背が高いから、手もすらりと、大きいのよね! 小柄な私には、本当に羨ましいわぁ』
『指輪のサイズを直した方が良さそうだな?』
『このままでも、大丈夫よ… 少しゆるいけれど、大き過ぎるというほどでもないから』
「ううっ… ぐっ…」
吐き気を抑えてレウニールは、白騎士団の白地に金の装飾を施した騎士服の内ポケットからハンカチを出して、婚約者の指と、“花嫁に贈る指輪” をひろって大切に包み、再びポケットに戻す。
急いで壊れた馬車から飛び出すと、血で黒ずんだ地面に崩れ落ち、レウニールは嘔吐した。
自分が失った大切なモノの大きさに怯え、レウニールは過去に感じたことの無い、孤独という名の恐怖に震えた。
王都から領地への道は、今まで魔獣が出没したことが無く、レウニールは安全だと思い込んでいた。
そんな油断と隙が、家族全員と愛する婚約者の命を奪ってしまったのだ。
「くうっ… うっ…」
悔やんでも悔み切れない! せめて私も一緒に同行していたら… 弟と共に死に物狂いで戦えば、全員は無理でも、誰か1人ぐらいは助けられたかもしれない!!
母の為に、小さな甥たちの為にと… そればかりに気を取られて、人を護ることが専門の私が… 家族の護衛を疎かにして、婚約者のペルフメまで巻き込み… 私が領地に行かせたばかりに、取り返しのつかない、失敗を犯してしまった!!
「私のせいだ! 私のせいだ―――っ!! 私のせいだ――――――っ!!!」
止め処なく涙を流し… レウニールは獣のように、天に向かって吠えた。
騎士団長に与えられた休暇の期限が過ぎても、レウニールは白騎士団に復帰することはなかった。
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