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3話 僕を買う客2

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 客に手を引かれ、アユダルは娼館の2階に並ぶ部屋の1つへ入った。

「・・・・・・」
 僕… 僕は今から、この人に抱かれるんだ? う゛う゛っ… 恥かしいよ! 服を脱いだ僕の裸を見たら、この人は僕の身体が貧弱ひんじゃく過ぎて、嫌な顔をするかもしれない! 前よりもずっと痩せてしまったし!

 一般的にベータなどに比べると、オメガはすらりと優雅な体型で、花のようにあでやかな容姿なのが特徴だ。

 だが、アユダルの容姿は先輩のフルタが言った通り、平凡な茶色い髪に、珍しくもない茶色の瞳、目のつくりは全体的に小さくて細く… とても地味な目だ。

 鼻も低く唇も薄くて小さい。 身長も低くて小柄で、まるで子供のようだとバカにされたこともあり…
 アユダルもオメガのはずなのに、全然魅力が無くて、ベータとほぼ変わらない容姿なのだと、自分自身が一番良くわかっている。

 そんな劣等感やおびえと恥ずかしさで、アユダルは顔を上げて、自分を買った初めての客の顔を、まともに見ることができなかった。


 当然のことだが客の方は、アユダルの気持ちなどかまうこと無く… 淡々と上に羽織はおっていたマントを脱ぎ椅子の背に掛けると、腰に巻いた帯剣用の幅広の革ベルトを、剣と一緒に外してテーブルの上にゴトッ… と音を立てて置く。

 客がこちらに背を向け、視線から逃れられると… アユダルはようやく顔を上げることが出来た。

 肋骨あばらを打ち付けるように、ドクッドクッド…! と心臓が胸の中で暴れ、アユダルは緊張しながらも、これから自分を抱く男を観察する。


 2人っきりになると、目の前の男から発せられる息苦しいほどの威圧いあつ感を… アユダルの中のオメガの本能が感じ取り、間違いなく極めて強いアルファの騎士であると知る。

「・・・っ」
 剣のことはわからないけど、着ている上等な騎士服とブーツを見ると、かなり裕福な貴族みたいだ? 年齢は20代半ばぐらい? もっと上かな? 貴族なら、普通は妻子か婚約者がいる年齢だよね? 僕は奥さんがいる人に抱かれるんだ?!

 つい最近まで貴族だった、アユダルの誠実さと貞操ていそう感が、客に対して不快感を持つが…
 先輩男娼フルタの『自分の身体でかせいで借金を返さないと、借金がどんどん増えてしまうよ?』 という言葉が脳裏に浮かび、生きるために仕方ないと、アユダルの貞操感はすぐに降伏した。


 売られて来たばかりの頃は、娼館は汚らわしくて男娼たちのことも、身体を売るみにくい存在だと思っていた。

 だが…
 自分と似たような境遇の、親切な先輩男娼フルタと話すうちに、男娼たちは生きるために必死で、自分が出来ることをしているだけで、けして醜い存在ではないと感じた。

 誰だって、本当は自分を売りたくないはずだ。

 醜いのは僕のように、嫌だ! 怖い! と我がままを言って、プライドばかり高くて何もしないで文句や愚痴ばかりを言っている人間の方だと… 親切に客の引き方を教えてくれたフルタの前で、僕は自分が恥かしくなった。


 シュルッ… シュルッ… と衣擦れの音を立ててシャツを脱ぎ、客のたくましい背中があらわれる。

 ゴクリッ… とつばを飲み込み、アユダルも自分の薄いシャツのボタンを外し、胸を開き… 下衣のボタンも外し、オドオドと裸になって素肌をさらした。下着は始めから付けていない。

 自分を見下ろし、痩せて浮き出たあばらを腕で隠しながら… 股間の小さな性器の上で手を重ね… アユダルは勇気を出して、客に話しかけた。


「あの… 旦… 旦那様… 僕… 僕は… 今夜が初めてなので… あ… あまり、旦那様を楽しませることが、出来ないかもしれません…」

 こんな貧弱な身体ですから… とは、自虐じぎゃく的過ぎて、流石にアユダルも付け加えなかったが、怯えと緊張でプルプルと震える身体を縮めて、やっとの思いでアユダルは客に告白した。






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