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世話焼き侍従と訳あり王子 第八章

6-1 ギャップ萌えって死語では?

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 まだエリオットが寝ているうちに、バッシュがスコーンを調達して来てくれた。ナサニエルがサンドイッチを買って来たベーカリーのものだ。冷蔵庫にストックしてあった朝食分は、きのうの夕食分と合わせて食べてしまっていた。

 半分に割ったクランベリーのスコーンに、クリームを山ほどのせている間に、バッシュはバスルームで身だしなみを整えた。はじめ、彼はこの部屋のシャワーを使うことを固辞していたが、エリオットが無理やり追い立てたのだ。

 はたして、再び目の前に現れたバッシュに、エリオットは残りのスコーンの存在をつかのま忘れた。

 昨夜はろくに寝ていないはずなのに、熱いシャワーのおかげかこざっぱりして、肌は赤く色づいている。湿ってくすんで見える前髪は、ゆるくうねりながら額を隠し、青色の目にかかっていた。印象の変化は劇的だ。太い眉が切れ切れにしか見えないから、まず威圧感がない。心なしか、顎の輪郭まで角が取れたように思えた。そして、Vネックの半そでTシャツとブルーのジーンズ――私服。

「反則……」

 全身プライベート仕様なのに、靴だけがフォーマルなのも間が抜けていて隙だらけだ。

 そのギャップずるいだろ。

「なにか言ったか?」
「前にイェオリの私服は見たことあるけど、あんたもスーツ以外を着ることあるんだな」
「当たり前だ」

 そう言って、バッシュは食の進み具合をチェックした。体が資本と言うのが基本概念なのか、彼はエリオットにゼリーよりまともな食生活をさせることに、並々ならぬ関心を持っている。執着がない代わりに好き嫌いもないので、出されたものはなんでも食べるが、これでエリオットが偏食だったら、毎回戦争が起きていただろう。

「お茶はいるか? それとも水?」
「お茶くれ」
「はいはい、王子さま」
「笑えねーよ」

 互いに空腹を満たすと、エリオットは屋上にバッシュを誘った。

 話をするなら、そこしかないと思った。心地よく整えた部屋の中では、昨日みたいに甘えてしまいそうだったから。

 それを察したのか、神妙な顔つきで外階段を上がったバッシュだったが、花壇にぽっかり空いた穴を見つけると、足を止めて黒い土を見下ろした。エリオットがどんどん先に進むと足を速めて追いつき、険しい顔で尋ねる。

「あれは、どうしたんだ」

 自分が植えた花が不自然になくなっていれば、さすがに気になるのか。

「株に病気が出たから抜いた。それだけ」

 当てつけなんかじゃないから安心しろ。

 ハウスに入ったエリオットは、手にした移植ごてを聖剣のように掲げた。

「あそこに、デファイリア・グレイを植える。手伝って」
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