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14話 気さくな公爵家の方達。

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 今から王族と対面するような緊張感に、胃から何かがせり上がりそう。
 もちろん王族では無いが、それでなくとも公爵家の歴史をライアンさんから今日学んだだけでも分かる偉業の数々。
 王家に絶対の忠誠を誓う反面、国を導く王家が間違った時には正してきた歴史もあり。王家というより国に絶対の忠誠を誓ってるんだろう。正面で堂々としている部分は外交や商会運営などで、国を裏から守護し続けてるのは秘匿されている。国王から頼られているのは莫大な資産を持つ家だからではなく、守護してきた歴史から信頼されてるんだね。
 勿論、公爵家だけではなく、家に連なった分家もであるようだから、組織的にはかなり巨大だと思われる。
 そういう裏事情を知ってしまった私からすると、この国に王族がふたつ存在しているようなイメージである。コインの表と裏のように、表は王族が国の顔として動き、裏になって国が大きくなる為の舵取りの地ならしをしているのは公爵家なのかも。

 他の公爵家の方々は知ってるのかな。王家に近い家は知ってるかもね?
 そんな風に考えてたら物凄く緊張してきた。

 晩餐の時間が近づく。
 レイチェルと他のメイドさん達にピカピカに磨き上げて貰って、畑で鍬振り降ろしてた私じゃなくなって令嬢らしい姿。もはや詐欺かな?というほど素敵にして貰った。
 詐欺な見た目になって少し自信がついて緊張が少しだけ和らいだ気がする!

 レイチェルと二人で晩餐が用意されている場所へと移動する。

「プルメリア様、こちらが食堂になります」

 大きくて立派なこの扉の中が食堂……? 
 内装気になるな、長テーブルとかあるのかな? なんて思っていると、さっさと扉を開けられてしまった。

 こ、心の準備ーー! 慌てたが、既に全員が揃っているようで、空いてる席が一脚。
 微笑みを浮かべるクリスティアン様の正面の席で、公爵夫人の隣である。

 粗相したらどうしよう。
 いやむしろ酷い粗相してしまったらクビになるかも?

「プルメリア嬢、ようこそ我が公爵家へ。紹介するよ、こちらが私の最愛で将来の義母のローザだ」

「プルメリアちゃん我が家にお嫁に来てくれて有難う。お義母様って呼んでいいのよ」

「は、はい、足りない事だらけの不束者ですが、よろしくお願いします。お、お義母様」

(すごい……美女だ……クリスティアン様って両親のどちらとも似てる)

 見たこともない物凄い美女を前にして和らいだはずの緊張が倍になって戻ってきた。舌がうまく回らずどもってしまって内心大慌てする。ちゃん付けされていることも気にならない。

「うふふ、緊張してるのね。可愛らしいこと」

「私のこともお義父様と呼んでくれ。プルメリアと呼んでもいいかい?」

「はひ!! 勿論です!!」

「私のことはクリスティアンと」
 クリスティアン様がこの流れに乗ってついでとばかりに一度断った呼び捨てを提案してくる。

「それは追々でお願いします!」
 即答してしまいクリスティアン様に苦笑される。

「あらあら、クリスはもう尻に敷かれてるのかしら」
 くすくすとお義母様が笑う。

「妻に尻に敷かれた家庭は円満だというよ。かくいう私も妻には一生敵わない。そしてこのうえなく円満でこのうえなく幸せだよ」
「まあ、私もよ……」

 お義父様が笑顔でお義母様を見つめる。
 その瞳はとっても優しい色をしていた。見つめられたお義母様は少女のように頬を染めている。

 何て素敵な夫婦なのかしら。

「自分の両親の甘い空気は居た堪れないな。ご馳走様。プルメリアはまだその空気に慣れてないから今日はこの辺にして下さい」

 片手で顔を覆った後、その手を胸へと持っていって擦りながら「食事前に砂糖いっぱいの菓子を大量に食べた気分だ」と言っている。

 自分の両親で想像してみる。確かにそうかも。

「慣れて貰わないとね。プルメリアちゃん」
「はい、頑張ります」
「うふふ、素直で可愛いわね」

 そのまま少し談笑をしていると料理が運ばれてくる。

 あんなに緊張していたけれど、何て気さくな義両親(予定)だろう。
 二人の容姿は流石あのクリスティアン様の親だと激しく納得する美しさ。(一人は一度大魔王としてお会いしているけれども)

 物腰がとても柔らかくて、二人とも凄い気さくな態度で接して頂けた。
 先ほどの談笑の中でも「やがて私達の娘になるのだから、本当の親のように接して貰って構わないのよ」と話して下さったお義母様の笑顔が、亡くなった母に少し似てる気がした。

 そんな二人はとっても接しやすくて、クリスティアン様そっちのけで会話してしまっていた。
 勧められたベリーの果実水も美味しくて、ごくごく飲んでしまった。

 正直、クリスティアン様が話に混ざってこなかったのには少しだけホッとした。
 あの頬キスの後の今でまだちょっと戸惑いが大きいから。
 このまま晩餐が何事もなく終わってくれるといいな。
 クリスティアン様のあの声を耳にしてしまうと、初日の色気だた漏れのクリスティアン様と頬キスが何回も思い出されて、そわそわと落ち着かない気持ちになるから。

 会話が一段落したところで、公爵様がクリスティアン様に「候補は絞り込めたか?」と話しかけ、クリスティアン様は「今回のターゲットは落とした後が面倒そうなので、道具の使用を許可して欲しいのですが」とお願いしていた。

 お仕事の話なんだろうな…と思いつつ、チラリとクリスティアン様を見ると、公爵様とお話していた筈なのに、何故かバッチリと目が合ってしまった。
 そのまま目を逸らす事も逸らされる事もなく、見つめ合ってしまった。

「プルメリア、まだ言ってなかったね。今宵の君は本当に美しい。夜の光で見る君は、月の女神のように神々しい。とても綺麗だよ。」

「……!? あ、有り難う、ございます」

 何この殺し文句…! 貴族の男性って皆さんこんな感じなの?
 この年までこんなセリフ言われたこともないから、クリスティアン様からすれば日常のひとつで息を吸うように口にしている言葉かもしれないけれど、何だかすごく恥ずかしい!

 社交に全く出てなかったから、こういう時の返答の言葉って何て返すのが正解なんだろう。
 マナーが良く分からないけれど、お礼でいいのよね?
 それとも私も甘い言葉を返さなきゃダメなの!?

 内心でアワアワしていると表情に考えてる事が出ていたのだろうか「可愛らしい」と公爵家の三人に笑われてしまった。

「私の娘は何て可愛らしい方なのかしら。クリス、よく見つけて来てくれたわ」
 と、夫人。
「ローザ、私の娘でもあるのを忘れないように。これだけ愛らしい娘が持てて私達は果報者だ。それはそうと、クリスがプルメリアにはあまり仕事を任せて欲しくないそうだ」

 仕事……? あ、嫉妬に悶える婚約者の演技だよね?
 夜会ではその仕事があるはずだけど、大根役者だと早々に気付いて配慮してくれたのかな。

「まぁクリス、もう夫気取りなのかしら? せっかちな男は嫌われますよ」
 夫人が嫣然と微笑み、流し目で息子を窘める。

「そうですね。これから公爵家で暮らし始める訳ですし、もう夫のようなものですよ。ここまで耐性がないと、仕事を増やす方が嫌われてしまいます」

 母と息子のやり取りがよく理解できず、内心で首を傾げる。
 あの演技以外に何か別のお仕事があるのだろうか。
 その後も次々によく分からない言葉の応酬をする夫人とクリスティアン様。
 夫だのまだ違うだののやり取りが続く。

( クリスティアン様、私はまだ貴方の婚約者ですよね?)

「愛らしい娘が目を白黒させているから、仕事の話はこれぐらいにしておこうか」
 公爵様の一声で、??しか浮かばない会話の応酬が止み、晩餐が終了する。

 晩餐で出された食事はとても美味しく、仕事の話が始まる前には今度どこそこの領地に連れていってあげよう、あそこのワインは美味しいんだよと丁寧に教えてくれた。
 酪農に力を入れている領地があって、そこのバターやチーズが絶品だから取り寄せようとか。それはイイ!! 是非とも食べたいと思う。そんな和やかな会話に終始したのだけれど、仕事の話になると殺伐として空気になってしまった。
 話される内容は主に夫か夫じゃないかという不毛な話でもあったけど。

 晩餐が終わって部屋に戻った私はフワフワした気分のまま寝支度を整えて貰い、就寝。
 夢も見ることなくぐっすりと眠ったのだった。

 そして翌日、私の部屋にお母様がやってきた。

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