上 下
92 / 105
第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

不可能を超えて、もはや神の御業レベル。 in 影二人

しおりを挟む

「ローデヴェイク准将が、そう仰ったのですか?」

 薄茶色の真っすぐな髪を肩で切り揃え愛らしさよりは端正な顔立ち、細身だが上背があり何処もかしこも引き締まった筋肉質な肢体。肉食獣を彷彿とするのは常に音を立てずに移動しているせいもあるかもしれない。
 そして、少し釣り目で黄みの強いオレンジ色の瞳。
 その猫のような瞳で、今、オレは侮蔑を隠そうともされず睨まれている。

(オレ、一応、キミの、上司、なんですけどねぇ~)

 この計画の責任者であり、目の前で侮蔑を浮かべる部下の上司でもある翡翠の心中で呟かれる言葉。

 こいつのコードネームは「シトリン」
 オレらのコードネームは宝石や鉱物などから選ばれている。
 名付け親は閣下である。
 閣下とは、ローデヴェイク准将であり、母性を拗らせた……ゲフンゲフン、その名は禁句だったな。
 影の任務を請け負うようになってから、生まれた時から呼ばれていた名は諜報機関に属する者には必要とされなく、今では親か兄弟か程度にしか呼ばれる事がない。
 任務の秘匿性の強さから社交は一切してないし、実家に戻る時すら長い前髪を下ろし鼻の頭辺りまで隠すし、街に出掛ける時もソレは常に一緒だ。
 街の場合はそこに黒縁の伊達眼鏡付きをかけて徹底しているつもり。
 こんなんだから、彼女を作るなんて夢のまた夢で、勿論オレも居ない。
 誤解しないで貰いたいが、彼女が居た時もある。
 決して年齢イコール彼女いない歴ではない!
 ただ……恋愛というには微妙な熱さではあったかもしれないが。
 影に配属される前まで付き合ってたよな? たぶん? 
 といった程度の、薄い関係性の相手、いやいや知人じゃなくて彼女だったから!
 顔を晒せばそこそこモテる方よ? オレ。


 オレは誰に脳内で言い訳をしているのだろう。


 話は戻り、コードネーム「シトリン」は、オレからのあの少女へのこれからの説明を受け、本当に閣下が言ってた事なのかと胡散臭いと思われてる訳です。

「子息令嬢レベルを何とか伯爵令嬢レベルまで行けるか微妙なラインですけど。
 公爵家……もしくは皇族並とは冗談にしても悪質です。
 期間も最短でとは無茶ぶりが酷い。」

 話しながら無茶振りに怒りが増していくのか、それとも、あの少女との遣り取りを思い出すのか、物騒なオーラを立ち昇らせるシトリン。

「あーー、いや、閣下も陛下に頼まれてるらしくてな。
 ほら、今の段階ではまだ動かれていないけど、これから姫様を狙うかもしれない勢力が出てくるのは知ってるだろう? その中で一番執着しそうなのが治外法権を持つ教会の現枢機卿というのは情報共有されてるハズだから知ってるよな?」

「はい。アンブロジーン枢機卿ですよね。娘が酷く愚かで我らが姫様に大変な無礼を働いたとか。」

「ああ、あの娘はオレ達影の敵認定済みだからな。今思い出しても―――話を戻すか。その枢機卿が姫様に注目する前に平民少女に注目させようとしてる訳よ。
 何処かから姫様の諸事情が露見した時に、姫様ではなく平民に注目がいくようにしたいのだそうだ。」

「それでは、公爵令嬢並の所作を身に付けさせろというのは? 伯爵令嬢でも十分かと思われるのですが?」

「より姫様に近づける為って事らしい。」

「あの容姿レベルで姫様に近づける等、不可能を越えて神の御業レベルですが。」

「ははっ、オレもそう思う。」

 翡翠は、はぁ……っと大きなため息をつく。

「陛下にお考えがおありになられるのだろう。オレらに出来るのはあの平民を限界のその先まで引っ張り上げて、もはや拷問レベルに扱くしかない。」

 いつも飄々としていて、上官らしくない気易い態度で接してきて、誰にでも人懐っこい笑顔を浮かべてみせる。あの翡翠が冷酷な笑みを浮かべていた。

 シトリンは背にぞくりとしたものが這いあがった気がした。
 翡翠の本質はソレなのではないかと。

 実力は上官らしく群を抜いてあるのに、普段の飄々とした態度が周囲の油断を誘い警戒心を解かせるのだ。

「ローデヴェイク准将は大変優秀な方だ。全くの勝算なく仰られた訳ではないのだろうし……あの方の為にも、何より姫様の為に締め上げてでもどうにかしますよ。」

 シトリンはアンナを尊敬しており、クラウディアの事は崇拝している。

 影達はクラウディアの為なら不可能を可能にしてみせる、出来る子集団なのである。

「やってみせる。ではなくて「やる」しかないんだけどね? 勿論、影総出で仕上げるから、いつでも言ってくれ。」

「承知しました。では早速、皆を集めてスケジュールの組み直しをしましょう。」

「ああ、そうだな。影達全員が揃ったら、特大のやる気スイッチを連打される事間違いなしの報告がある。シトリンも楽しみにしてるといいよ」

「はい。」
 真面目な顔でシトリンは頷いた。
 期待する気持ちを表すように口角が僅かに上がっている。
 その隠せぬ期待を発見した翡翠は、シトリンにも可愛いトコはあるんだよな、とニンマリとしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

消滅した悪役令嬢

マロン株式
恋愛
マロン株式 / 著 目が覚めたら乙女ゲームの世界に転生していた令嬢・リディア。リディアは王太子ルートの悪役令嬢で、将来断罪されてしまうキャラクターだ。 その未来を回避するため動き出した彼女だが、ゲームの内容通りに王太子・バンリの婚約者に選ばれてしまう。 このままでは断罪ルートまっしぐら……と思いつつ、リディアはバンリに惹かれていき、彼を信じて乙女ゲームの舞台となる学園に入学することに。そこで彼女を待ち受けていたのは、変わってしまった婚約者や友人、厳しく孤独な日々だった。想像以上に強い乙女ゲームの強制力を目の当たりにしたリディアは、とある決意をして――!? 転生令嬢の奮闘記、開幕! ※胸糞注意 ※ご都合主義で不定期更新です。行き当たりばったりです。 ※適当過ぎてタグが曖昧です。 ※設定甘いです。 ※感想書いてくださる方、とても励みになっています!有難うございます🙇‍♀️ 返答をしてしまうとネタバレになってしまいかねないものもあるので、暫く返答出来ません!(直ぐにぺろっとネタバレしてしまうので…) でもちゃんと読ませて頂いてます! ご承知おきください🙇‍♀️😊 ※レジーナブックス様からの出版になりますので、R指定は消させていただきました。 ※第14回恋愛小説大賞 奨励賞 おかげさまで2023年6月26日書籍化しました! 詳細は近況ボードかTwitterにて

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

転生令嬢は最強の侍女!

キノン
恋愛
とある少女は、生まれつき病弱で常に入退院を繰り返し、両親からも煙たがられていた。 ある日突然、神様と名乗る謎の青年に神の不手際で、助かるはずだった火事で逃げ遅れ死んだ事を聞かされ、その代わりに前世の記憶を持ったまま異世界に転生させてくれると言われた少女。 そして、リディア・ローレンス伯爵家の娘として転生した少女は、身体を自由に動かせる喜びに感動し、鍛える内に身体能力が開花し、いつしか並みの騎士をも軽々と倒せるほどの令嬢になっていた。平凡に暮らそうと思っていたリディアは、ふと自分が転生したのは乙女ゲームの世界だという事を思い出し、そして天使で可愛い従姉妹が将来悪役令嬢になる事を思い出す。従姉妹の断罪イベントを回避する為、リディアは陰で奮闘するが次から次へと問題に巻き込まれてしまうーーー ※ラブコメ要素有りの個性的な面々が暴れる物語にしていきたいと思っています。 ※更新不定期です。 2019.1.21 前世の名前を消し、前世の名前は出さず少女と一括りにしました。文章を大幅に修正しました。

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

処理中です...