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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。

そうして余計なモノは排除されている。

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 朝の支度の時間。

「ねぇ、アンナ、昨日言いそびれたんだけど……色々あって。
 昨日の朝、商会長の孫娘の方が私に会わせろって来ていたと思うのだけど、あれからあの人どうなったの?」

 素早く器用な手つきでクラウディアの美しい髪を編み込んでハーフアップにする。

「どなたですか? ああ、マリーン……マリーナ様でしたか。
 先日の朝そういえば不敬にも先触れもなく、いらしてましたね。
 どうなったというのかは存じませんね。
 休憩場所でもこの宿泊場所でも見かけていませんので、帰られたんではないでしょうか。」

 鏡に映るアンナの顔をジッと見るクラウディア。
 その視線を鏡越しに受けて、にっこりと微笑むアンナ。

「今日も姫様は一段と愛らしいですね。陛下から頂いた髪飾りもこちらの髪に差しておきましょうね。とってもお似合いですもの」
「うん……有難うアンナ」

 何ともしっくりこない気持ちを感じながら、それでもアンナに褒められる嬉しさに頬が染まり緩む。

「いつも可愛くしてくれて有難う」
 クラウディアがお礼を言えば、アンナもまた嬉しそうに頬を染めて「どういたしまして、姫様」と返すのだった。

 それはいつもの日常で、クラウディアもアンナがいうならそうなんだろうと違和感に蓋をした。

 クラウディアに降りかかる思惑は届く前に握りつぶされる。
 クラウディアがソレだと気付かないうちにクラウディアの世界は整えられ、
 平和な日常が恙なく続いてるように守っているのだ。
 過保護過ぎる重たい愛を持った兄を筆頭に。



 今日は視察先に着く一歩手前の街まで移動する。
 明日はいよいよ視察場所に到着する。
 朝食を済ませ、シュヴァリエのエスコートで馬車に乗る。

 昨日の色気駄々洩れ垂れ流しシュヴァリエを見てから、クラウディアは何だかおかしいのだ、心臓が。

 大天使を前にいつも興奮でドキドキしていたので、心臓が鳴るのはいつもの事なハズなのだけれど……。
 シュヴァリエと馬車で隣合って座る事だってよくある事なのだけれど……。

 何かこうシュヴァリエの一挙手一投足にキュンキュンしてたのが、今は目が合うだけでキュンキュンするのは変わらずだが、時折ギュッと心臓が握られてるような妙な感覚がする。

 その原因を探るけど、特に気になる事はない。
 あの色気駄々洩れだったシュヴァリエを思い出したら、自然と顔に熱が上がってくるけれど。
 それは、シュヴァリエが色気駄々洩れてたから仕方ない。
 あのシュヴァリエは最終兵器の戦意喪失歩くフェロモンだもん、仕方ない。

 そんなことを内心でうんうんと言い聞かせながら、シュヴァリエを横目でチラと確認してみる。

(――――!?)

 確認するだけに向けた視線が、ぴたりと視線が交じり合って驚いた。
 シュヴァリエがこちらをジッと頭ごと向けて見ていた。

 その表情は慈愛に溢れた優しい表情をしていて、大天使そのままである。
 合った視線を「私はたまたま見ていただけです」風にスッと逸らす。
 クラウディアの心臓は祭りで打ち鳴らされる太鼓の様に大きく激しく鳴った。

(なんで見てるのぉぉおお!? 何てタイミングでこっち見てるのよぉぉぉおお!)
 クラウディアは心の中で転げ回っている。

 目線をジッと前方に固定して、まだ見てるか確認はしない。
 また見ていて目が合ったらみっともなく共同不審となり狼狽してしまいそうだから。

(今日の休憩地点の街ではもう海産物はいいかな……そろそろ違うものを食べたいし)

 自分の思考を別に興味がある方へと誘導しながら、片頬に突き刺さっている気がする視線を無視する。

 食べたい物を色々思い出し、あれがあるかなこれがあるかなと思考を飛ばす。
 けれど、流石にネタも尽きてきた。

 相変わらず視線も感じる。

「お兄様、見すぎです。」
「もう考える内容が尽きたか?」

 ふてくされていうクラウディアに、シュヴァリエは笑みの含んだ声で突っ込む。

(何かバレてる)

「視察先はどのような所ですか。」
「そうか、無理矢理にでも話を変えたいか。いいだろう。可愛いお前に免じて付き合ってやる。」

「……お兄様」
 頬だけ染めた朱はもう顔全体にまで広がっている。
「ははっ、そう拗ねるな。余計に虐めたくなる」

「……っ。視察先はどのような所ですか。」

 何なんだ、何なんだ。
 私がおかしくなったのはシュヴァリエのせいではないのかと思ってくる。
 態度が何だか妙に変だから私がおかしくなったのではないだろうか!

 子供っぽい仕草だがふくれっ面になってしまう。

 そんなクラウディアの態度を見つめて、シュヴァリエはフッと破顔すると、クラウディアの耳元に唇を寄せ――――
「どんな所だと思う?」
 と、吐息交じりに囁いた。

「!?」

 サッと耳を抑え身体が無意識に座席の隅へと逃げてシュヴァリエから距離を取った。

「な、な、なにしてくれちゃってるんですか!?
 い、いくら、シスコンだっ、から、って!
 お兄様、そ、その行動は、妹に、する兄の態度ではありませんよ!」

 全身を沸騰しそうな程に染め上げて大声でシュヴァリエに抗議する。

 ギャンギャンと吠えるクラウディアを、甘やかすような表情で見つめるシュヴァリエ。

「そうだな。兄がする行動ではないな。
 これは意識させる為にやってる事だから、嫌がられても止めることはないな。」

「もう知りませんっ」
 もう何を言われても知らないで通すようにプイっと顔を逸らした。

 馬車の窓にべたりと身体を張りつかせ、限界まで距離を取るクラウディア。

 ふう、と吐息を零すシュヴァリエ。
 ちょっと急ぎ過ぎたか……? と思案する。
 まだ全てを知らないクラウディアには兄がするスキンシップにしては近すぎると思っているのかもしれない。

 シュヴァリエは、壁と同化しそうな程に張り付く様子を見て、少し落ち着く時間を与える事にした。
 内心では、どんどん俺を意識しろ、執着してくれ、と思いながら。
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