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11話
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「アルベルティーナ姫、貴方の宮まで送る栄誉を私に戴けませんか?」
心臓が鳴る音が耳を打つ。
恋をすると、こんなに騒がしいものなのね。
知らなかった。
ただ目が合って笑顔を向けられるだけで、こんなに満たされるものなのね。
ルシアノ様も数多の令嬢にこんな気持ちを抱き、抑えられなかったのだろうか。
―――愚かだと思わずにはいられなかったけれど、こんな思いなら彼に止める選択肢は難しかったかもね。
共感すると同情も出来る。
いやでも…婚約者以外だったな。
運が悪いというには、自分から恋情に飲まれて行ったようにも思う。
―――うん。やはり愚かだったかも。
今日の朝と昼逢えなかった。
たったそれだけの時間でも寂しく感じていたアルベルティーナ。
両親も含めた晩餐の席でライネリオの姿を見た時、トクトクと胸が音をたてた。
立ちすくむアルベルティーナに気付いたライネリオが、エスコートをする為に傍に近づく。
目が、耳が、頬が、熱い。
アルベルティーナを見つめて微笑むライネリオの視線に、背筋がぞくぞくとする。
それが何故か心地よい。
ハッキリと自覚してしまった。
私は、ライネリオに恋をし始めているのだと。
ちょろくても、構わない。
駆け引きなんて思いつかないし、経験値高そうなライネリオ相手に無駄だろう。
剣技に長け、剣を手に戦う男には思えない程にライネリオの手はすべすべとして優美だ。
ライネリオは美しい長い指で、そっとアルベルティーナの手を引き寄せると、指先にそっと触れるだけのキスを落とした。
「アルベルティーナ姫、今宵の貴方も素晴らしい。」
「…ライネリオ様も、素敵です…」
漆黒のピッタリとしたコートを羽織る姿は、皇子というより王の威厳を放っている。
金釦が連なるデザインは軍服にも見え、ライネリオの細く引き締まった体躯によく映えた。
立襟の刺繍と袖口の刺繍の色がアルベルティーナの瞳の色だという事に気付くと、そわそわと落ち着かなくなった。
「貴方の瞳の色を少しでも取り入れたくて。
姫も同じ気持ちだったと今知りました。
とても、とても嬉しい。私の色が姫にはよく似合う。」
ほんのりと頬を染めたライネリオは、甘さを含んだ低い声で、さらに囁くように告げる。
幸せですと―――
薄い紫のシフォンを幾重にも重ねたドレスは、胸元と袖口にたっぷりと金糸の刺繍がしてある。
今宵の晩餐に自分で選んだけれど…
あからさまだったかしら?との気恥しさより、ライネリオが頬を染めて喜ぶ姿に嬉しさの方が勝つ。
火照った頬の熱を隠すように俯き、私もですと囁き返した。
晩餐の時間は有意義だった。
ライネリオはやはり特別だ。
有能過ぎて、王配には勿体ないと思わずにはいられないが、それは第三者目線だと気付く。
本人が「アルベルティーナ様以外と縁を繋ぎたくはなく、此度のチャンスは絶望の中の光でした。私を選んだことを後悔させません。」と言い切る姿を見て、両親がとても嬉しそうだった。
勿論、私も。
晩餐を終え、退室する際にライネリオに懇願される。
「アルベルティーナ姫、貴方の宮まで送る栄誉を、私に戴けませんか?」
黄金色の熱がアルベルティーナに向けて放たれている。
熱が伝染ったように、アルベルティーナの頬が染まった。
「はい。喜んで。」
差し出された手に、熱を持った指をそっと預けた。
心臓が鳴る音が耳を打つ。
恋をすると、こんなに騒がしいものなのね。
知らなかった。
ただ目が合って笑顔を向けられるだけで、こんなに満たされるものなのね。
ルシアノ様も数多の令嬢にこんな気持ちを抱き、抑えられなかったのだろうか。
―――愚かだと思わずにはいられなかったけれど、こんな思いなら彼に止める選択肢は難しかったかもね。
共感すると同情も出来る。
いやでも…婚約者以外だったな。
運が悪いというには、自分から恋情に飲まれて行ったようにも思う。
―――うん。やはり愚かだったかも。
今日の朝と昼逢えなかった。
たったそれだけの時間でも寂しく感じていたアルベルティーナ。
両親も含めた晩餐の席でライネリオの姿を見た時、トクトクと胸が音をたてた。
立ちすくむアルベルティーナに気付いたライネリオが、エスコートをする為に傍に近づく。
目が、耳が、頬が、熱い。
アルベルティーナを見つめて微笑むライネリオの視線に、背筋がぞくぞくとする。
それが何故か心地よい。
ハッキリと自覚してしまった。
私は、ライネリオに恋をし始めているのだと。
ちょろくても、構わない。
駆け引きなんて思いつかないし、経験値高そうなライネリオ相手に無駄だろう。
剣技に長け、剣を手に戦う男には思えない程にライネリオの手はすべすべとして優美だ。
ライネリオは美しい長い指で、そっとアルベルティーナの手を引き寄せると、指先にそっと触れるだけのキスを落とした。
「アルベルティーナ姫、今宵の貴方も素晴らしい。」
「…ライネリオ様も、素敵です…」
漆黒のピッタリとしたコートを羽織る姿は、皇子というより王の威厳を放っている。
金釦が連なるデザインは軍服にも見え、ライネリオの細く引き締まった体躯によく映えた。
立襟の刺繍と袖口の刺繍の色がアルベルティーナの瞳の色だという事に気付くと、そわそわと落ち着かなくなった。
「貴方の瞳の色を少しでも取り入れたくて。
姫も同じ気持ちだったと今知りました。
とても、とても嬉しい。私の色が姫にはよく似合う。」
ほんのりと頬を染めたライネリオは、甘さを含んだ低い声で、さらに囁くように告げる。
幸せですと―――
薄い紫のシフォンを幾重にも重ねたドレスは、胸元と袖口にたっぷりと金糸の刺繍がしてある。
今宵の晩餐に自分で選んだけれど…
あからさまだったかしら?との気恥しさより、ライネリオが頬を染めて喜ぶ姿に嬉しさの方が勝つ。
火照った頬の熱を隠すように俯き、私もですと囁き返した。
晩餐の時間は有意義だった。
ライネリオはやはり特別だ。
有能過ぎて、王配には勿体ないと思わずにはいられないが、それは第三者目線だと気付く。
本人が「アルベルティーナ様以外と縁を繋ぎたくはなく、此度のチャンスは絶望の中の光でした。私を選んだことを後悔させません。」と言い切る姿を見て、両親がとても嬉しそうだった。
勿論、私も。
晩餐を終え、退室する際にライネリオに懇願される。
「アルベルティーナ姫、貴方の宮まで送る栄誉を、私に戴けませんか?」
黄金色の熱がアルベルティーナに向けて放たれている。
熱が伝染ったように、アルベルティーナの頬が染まった。
「はい。喜んで。」
差し出された手に、熱を持った指をそっと預けた。
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