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第一章 王女に婚約者が出来るまで。

第一話 王女のご乱心。

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 緑豊かなプルースト王国には、王子が二人と王女が一人居ました。
 王位を継ぐ第一王子、何かあった時の為のスペアである第二王子。
 国としてはこの二人が居れば安泰です。
 王位継承権は形ばかりにあれど、男児が継ぐ事が国法で定められている為、上の二人に不幸な何かがあったとしても、王女が即位する事はありません。

 そのことから、皇女としての利用価値…すなわち役割とは、他国との交易や軍事の協力関係を強固にする為の外交カードとしてか、臣下への報償としての下賜、もしくは有力貴族と王家との太いパイプを繋ぐ為の政略の駒、になることです。

 そこに、王女の意思など関係なく、頷く意外の選択肢などない。

 そして、貴族籍に入っている令嬢の誰もがそんなものなのである。
 その頂点に立つ王族ならば尚の事。
 国の為の道具に喜んでなるよう幼き頃から教育されてきました。

 それでも娘は可愛いもので、王や王妃は溺愛しました。
 ただこの国の王も王妃も愚か者ではないので、王女としての教育に関しては泣こうが喚こうが一切手心は加えませんでした。
 厳しい王女教育を徹底された王女は、当然の事ではありますが、王族として完璧な姫として育ちました。
 教育は厳しくともその時間から解放されれば、温かい励ましと優しい手が待っていた為、姫は捻くれる事なく育ちました。

 即位する可能性が全くない王女であっても、自分の意思での縁など結べずとも、王女は王である父に絶大な信頼をおいていたので、酷い縁は結ばないであろうと安心してその日を待つ事が出来たのでした。

 けれど、王女にとっての優しい世界は、裏側を覗けば思惑に濡れた貴族達の醜い権力争いが勃発していたのです――――






 私を愛してくれている父ならきっと大丈夫。

 と、信じてはいたものの。
 自分の理想通りの相手であったり、相思相愛を夢見るような事は早くにやめていた。道具として嫁ぐ以上は下手な期待を持たない方が嫁ぐ心構えもしっかりと出来るというもの。そう、王女教育の賜物である。

 だから、ティアローザ・プルースト王女は理想を高く持つのは幼い頃を除き、キッパリスッパリ止めた。

 父が選ぶにしても独断で選べはしない。
 きっと臣下が持って来た釣書の中からであろう。
 どうしたって政略絡みの強さは免れない。

 しかしながら、ティアローザは王女である。

 幼い頃から婚約者候補は用意されている。

 候補という事もあり、王女との婚約を結ぶ可能性の高い令息達が何人かリストアップされている。
 その中で筆頭婚約者候補が短い期間で入れ替わっているだけで、人数は上下しないが顔ぶれはコロコロ変わった。

 婚約者候補達の中の誰か一人と、毎週お茶をする。
 筆頭婚約者候補とは毎週必ず。
 皆、王女であるティアローザに腹の中はどうか分からなくとも優しい。

 年上年下同い年、綺麗な子・可愛い子・精悍な子まで色んなタイプが揃った婚約者候補達。
 その中の誰かに心惹かれ仲良くなる度に、何故かその子息がリストから消える。
 それが何度か続くうち、候補の相手に特別な感情を持つ事を周囲に悟られてはいけない事に気付く。

 王女だって高貴な身分を一皮剥けば、普通の女の子である。
 単純に見目のいい美しい令息にときめいて、候補であったとしても夢を見たい。
 いずれ婚約者となった令息と小さな好意を囁きあったり、薔薇園への散策を誘われる際に、手の甲にキスをされたり…何て夢を見たいではないか。
 胸の動悸が病気かしら…と思うほどに高鳴ったりしたりして?
 そんな思いは味わえないらしい。
 やはり、理想や夢や期待など持たないに限ると、王女は決意を新たにした。

 一度、好意を持っていた令息がリストから消えた時、たまらなくなって父王を問い詰めに執務室へと直談判しに向かった事がある。

 父王は涙目の王女に困ったような顔をして「政略的なものでな…」と口にした。
 その瞬間、胸の柔らかい所がグリッと抉られてた気がした。

 何故リストから外れたのか、私が気に入る度に居なくなるのは何故なのか、誰に好意を向ければ最適解なのか、それとも試験的な政略としてリスト入りしているのか、父王は話してはくれないが、私の何かに幻滅されてしまったのか?

 初めて感情的に問い詰めてしまった。

 父王が「政略的な関係でな…」と繰り返し濁すだけ。
 それが優しさからなのか、何もいう材料を持たないのか、全てが曖昧になってしまう。

 もっと突っ込んで訊く事も出来たかもしれないが、それが秘匿されているものだったらと思うと、途端に何も言えなくなってしまった。
 そのまま口を開く事も出来ず、舌さえ上あごに貼りついたように動かなくなった。

 
 外面を取り繕い、完璧な王女として振る舞いつつ、内面は酷いものだった。

 そんなある日。
 父王を信じていない訳ではないが――――
 王女に限界が訪れた。


 好意を持つ事がダメならば、好意を持てないような相手を選べばいいのではないか。
 そして、無事に婚約を結び婚姻出来れば、思いっきり愛を分かち合いたい。

 その為には、傍目には私が好まなそうだと勝手に推測してしまうような相手がいい。

 浮気すらも出来ないモテなさそうな令息を選ぶのだ。
 酷い傷を顔に負ってしまった醜男か、怠惰を極めた太り過ぎた男か、叩いたら折れそうな程に痩せた女性より細そうな男。

 とにかく、浮気したくても誰も靡かない容姿の男を望んだのだ。

 そして、一番譲れない条件は「愛されないと分かっていたとしても、王女をずっと愛し続けることが出来る男。」だ。

 正直、条件を決めた己でさえ最低な条件だと分かっている。
 けれど、好意を持つと気付かれる度にリストから消える事が何度も続く事に対抗するには、こんなおかしな条件しかないような気がするのだ。

 厳しい王女教育に励み、王や王妃や兄達から溺愛され、歪まず真っ直ぐに育ったように思えた王女。
 好意を持てば居なくなる事が分からない事で、歪みを内に抱えたのかもしれない。

 そんな王女の願いに慌てたのは周囲である。
「令嬢から生理的に無理と言われるような令息を望んでいる」と王女から告げられた周囲は、当然の事だが大パニックになった。
 一番重要視して欲しいと告げられた「愛されないと分かっていたとしても、王女をずっと愛し続けることが出来る男。」など、令嬢から生理的に無理と言われるような令息に大変麗しいこの国の至宝を嫁がせるのだから、重要だと言われても些末なことである。

 あれだけ見目の麗しい令息達が婚約者候補として揃っている中、それら全員とを解消し、今度のリストにはモテとは無縁そうな男に嫁ぎたいだ等と、王女が乱心したとしか考えられない。

 落ち着けば、おかしな事を言いました。と、王女の小さな戯れだったと片付けられるであろう。

 ならば、もっと王女の意に添えるような、見目麗しいが故に令嬢に群がられ浮ついた令息達ではなく、今度は見目は普通でも地に足が付いた優秀な令息がいいと、今回の事は、リスト候補を見直すいい機会だと、令息の身辺調査に力を入れた。




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