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14 アンドレ・ヘルグレーンという男。 7
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第二王子は自覚が足りないのか、カルロッテを誘うのをやめようとしない。
王女との婚約が白紙になってもいいのかと詰め寄られても、
「婚約前だ、何を気遣う必要がある。俺は隣国へ行くんだ。生贄なんだろう?謀反を企てさせない為と隣国との同盟強化。お前達にとって利にしかならぬ事をしてやるんだ。今くらい俺の好きにさせろ!」
と、踏ん反り返っている。
王家としての自覚と責任くらいないのか、あの馬鹿は。
公爵家が選んだのが第一王子であったのは、正解であった。
王城で忙しい合間を縫い出来た時間で、屋敷へ戻る。
まずは執務室に篭もり、領地の方の書類を捌くことに専念する。
イルヴァがカートに茶器を乗せて運んできた。
手ずからお茶をいれてくれるイルヴァは、昼だというのに夜の女神の様に穏やかで美しい。
お茶をテーブルへ置き、邪魔しないようにと配慮してくれたのか、退室しようとするイルヴァへせめてもと、「ありがとう」と一声かける。
イルヴァは照れた様に、はにかみながら微笑んでくれた。
久しぶりに見る笑顔だ。胸が高鳴る。
「無理をされていませんか?少し仮眠を・・・」
イルヴァが眉を寄せ心配する様に気遣ってくれた。
先程、呆けたように空中を見ていたのを見られていたのだろうか。
仮眠する時間の余裕はない・・・
イルヴァが添い寝してくれるなら仮眠もいいか?とも思ったが、やはりそんな時間は捻出出来そうもない。
「今日中に終わらせないといけない仕事がある。忙しさが落ち着いたら、まとまった休みをとって、今度はゆっくりするから」
と、決まりきった返し方しか出来なかった。
これでは、イルヴァがもっと心配してしまうな・・・と内心で苦笑した。
第二王子に自制が見られないので、一度カルロッテにメイド長から暇を出して貰い、王城から離すという事になった。
王城から離れても外で会われれば意味がない。
カルロッテと誰かが逢う約束を取り付け、連れて行った場所に数時間程滞在させる事で、第二王子が逢う事を叶わなくさせる。
夜に王城を抜け出して逢う程に馬鹿なら、第二王子は軟禁させた方がいい。
私の意見が通るならば、カルロッテは王家が用意した屋敷にでも監視付きで軟禁し、第二王子が無事に婚約するまで放置すればいいのではないか。
勿論、厳重な見張り付きで。
カルロッテが暴れない様に、見張りは見目麗しい男を数人用意すれば、第二王子が婚姻するその日まで文句のひとつも出ないに違いない。
正直、今のこんなやり方で時間が稼げるとは思えないが。
第二王子がカルロッテに会えなければ、その内熱くなった頭も冷えるだろう…という事なのか?
私を投入する意味があるのか分からない。
愚策もいいところだと思わざるを得なかった。
そう考え始め……そして、ふと思った。
――――恐らく、私を投入する別の意味があるのだろう。
そう。第二王子が遊びではなく本気であったなら…
昔の女と寄りを戻したと思わせる相手に、私程の適任は今の所は居ない。
本気では無いという話だが、馬鹿は信用されていないのだろうな。
私との噂を聞いてすぐ引くなら問題ない。乗り出して来るならカルロッテは軟禁だろう。
確実になるまで出さないのが一番だからだ。
そこの見極めも兼ねている。
それならば一見この愚策に見えるやり方も納得出来た。
我が主は本当に人が悪い…始めから教えて貰えれば…
いや、一緒だな。こんな不快な任務など、どちらにしろ私は嫌がっていた。
それより早くイルヴァに話す許可が欲しい。
不快の極みでしかないが、恋人達の逢瀬に使われる宿にカルロッテを私が呼び出す事になった。
宿の一階部分は個室カフェになっており、二階部分は恋人達の・・・そういう部屋だ。
当初、そちらを殿下に言われた時は、頭に血が上りそうになった。
父が慌てて取りなして一階のカフェの個室に決定したという経緯がある。
そこでなら人目もつかない。
下手な場所への誘導は警戒しかされないとなり、ここが選ばれたのだが、会話をしろと言われても、この女と話す会話などないので余計に困る。
場所が場所だけに大いなる勘違いをしているカルロッテは、益々大胆になり始め、さり気なく組まれた腕を離す回数が増えた。
いくらカルロッテを引きつけておけと言われても、触れたくも無ければ触られたくもない。
宿の二階に行きたい素振りをされるが、全て無視する。
「アンドレ様・・・奥様が居るのに、いいんですか?私達・・許されない関係なのに・・・」
許されない関係も何も、そもそも関係というものも存在していない。
「私、本当に後悔してるんです。あんなに私を愛してくれたアンドレ様を裏切った事・・・」
気安い態度が気楽だなと思った事はあるが、愛した事はない。
「私・・私、アンドレ様となら頑張れます!すぐには認めて貰えないかもしれないけど、最初は愛人だとしても我慢出来ます!だから・・・」
私が我慢出来ない。勘弁してくれ。
よくもこんな世迷い言を・・と何度も呆れながら、全て無言で通した。
この女に対する返事は全て心の中で答えた。
こんな毎日を、昼間何時間も無駄に使っているせいで、やはり帰宅は深夜を回る。
イルヴァの寝ている部屋へも、過去の婚約者候補に仕事とはいえ会ってる事もあり、罪悪感がこれでもかと酷い。
「遅く帰ってくる時に起こすと悪いから」と部屋も別々に寝る様になった。
深夜に帰宅しても、イルヴァの眠るベッドに身を横たえて、柔らかい体を抱き締めて眠れていた日々。
あの日々にはまだ戻れそうにない。
今は、深夜に帰宅しても己の私室で眠り、早朝の一番早い時間に王城へ向かわなければならなく、朝食すらも一緒にとれなくて寂しくて寂しくて死にそうだ。
時間の経過と共に、イルヴァとの距離がどんどん開いて行く気がして焦りだけが募った。
王女との婚約が白紙になってもいいのかと詰め寄られても、
「婚約前だ、何を気遣う必要がある。俺は隣国へ行くんだ。生贄なんだろう?謀反を企てさせない為と隣国との同盟強化。お前達にとって利にしかならぬ事をしてやるんだ。今くらい俺の好きにさせろ!」
と、踏ん反り返っている。
王家としての自覚と責任くらいないのか、あの馬鹿は。
公爵家が選んだのが第一王子であったのは、正解であった。
王城で忙しい合間を縫い出来た時間で、屋敷へ戻る。
まずは執務室に篭もり、領地の方の書類を捌くことに専念する。
イルヴァがカートに茶器を乗せて運んできた。
手ずからお茶をいれてくれるイルヴァは、昼だというのに夜の女神の様に穏やかで美しい。
お茶をテーブルへ置き、邪魔しないようにと配慮してくれたのか、退室しようとするイルヴァへせめてもと、「ありがとう」と一声かける。
イルヴァは照れた様に、はにかみながら微笑んでくれた。
久しぶりに見る笑顔だ。胸が高鳴る。
「無理をされていませんか?少し仮眠を・・・」
イルヴァが眉を寄せ心配する様に気遣ってくれた。
先程、呆けたように空中を見ていたのを見られていたのだろうか。
仮眠する時間の余裕はない・・・
イルヴァが添い寝してくれるなら仮眠もいいか?とも思ったが、やはりそんな時間は捻出出来そうもない。
「今日中に終わらせないといけない仕事がある。忙しさが落ち着いたら、まとまった休みをとって、今度はゆっくりするから」
と、決まりきった返し方しか出来なかった。
これでは、イルヴァがもっと心配してしまうな・・・と内心で苦笑した。
第二王子に自制が見られないので、一度カルロッテにメイド長から暇を出して貰い、王城から離すという事になった。
王城から離れても外で会われれば意味がない。
カルロッテと誰かが逢う約束を取り付け、連れて行った場所に数時間程滞在させる事で、第二王子が逢う事を叶わなくさせる。
夜に王城を抜け出して逢う程に馬鹿なら、第二王子は軟禁させた方がいい。
私の意見が通るならば、カルロッテは王家が用意した屋敷にでも監視付きで軟禁し、第二王子が無事に婚約するまで放置すればいいのではないか。
勿論、厳重な見張り付きで。
カルロッテが暴れない様に、見張りは見目麗しい男を数人用意すれば、第二王子が婚姻するその日まで文句のひとつも出ないに違いない。
正直、今のこんなやり方で時間が稼げるとは思えないが。
第二王子がカルロッテに会えなければ、その内熱くなった頭も冷えるだろう…という事なのか?
私を投入する意味があるのか分からない。
愚策もいいところだと思わざるを得なかった。
そう考え始め……そして、ふと思った。
――――恐らく、私を投入する別の意味があるのだろう。
そう。第二王子が遊びではなく本気であったなら…
昔の女と寄りを戻したと思わせる相手に、私程の適任は今の所は居ない。
本気では無いという話だが、馬鹿は信用されていないのだろうな。
私との噂を聞いてすぐ引くなら問題ない。乗り出して来るならカルロッテは軟禁だろう。
確実になるまで出さないのが一番だからだ。
そこの見極めも兼ねている。
それならば一見この愚策に見えるやり方も納得出来た。
我が主は本当に人が悪い…始めから教えて貰えれば…
いや、一緒だな。こんな不快な任務など、どちらにしろ私は嫌がっていた。
それより早くイルヴァに話す許可が欲しい。
不快の極みでしかないが、恋人達の逢瀬に使われる宿にカルロッテを私が呼び出す事になった。
宿の一階部分は個室カフェになっており、二階部分は恋人達の・・・そういう部屋だ。
当初、そちらを殿下に言われた時は、頭に血が上りそうになった。
父が慌てて取りなして一階のカフェの個室に決定したという経緯がある。
そこでなら人目もつかない。
下手な場所への誘導は警戒しかされないとなり、ここが選ばれたのだが、会話をしろと言われても、この女と話す会話などないので余計に困る。
場所が場所だけに大いなる勘違いをしているカルロッテは、益々大胆になり始め、さり気なく組まれた腕を離す回数が増えた。
いくらカルロッテを引きつけておけと言われても、触れたくも無ければ触られたくもない。
宿の二階に行きたい素振りをされるが、全て無視する。
「アンドレ様・・・奥様が居るのに、いいんですか?私達・・許されない関係なのに・・・」
許されない関係も何も、そもそも関係というものも存在していない。
「私、本当に後悔してるんです。あんなに私を愛してくれたアンドレ様を裏切った事・・・」
気安い態度が気楽だなと思った事はあるが、愛した事はない。
「私・・私、アンドレ様となら頑張れます!すぐには認めて貰えないかもしれないけど、最初は愛人だとしても我慢出来ます!だから・・・」
私が我慢出来ない。勘弁してくれ。
よくもこんな世迷い言を・・と何度も呆れながら、全て無言で通した。
この女に対する返事は全て心の中で答えた。
こんな毎日を、昼間何時間も無駄に使っているせいで、やはり帰宅は深夜を回る。
イルヴァの寝ている部屋へも、過去の婚約者候補に仕事とはいえ会ってる事もあり、罪悪感がこれでもかと酷い。
「遅く帰ってくる時に起こすと悪いから」と部屋も別々に寝る様になった。
深夜に帰宅しても、イルヴァの眠るベッドに身を横たえて、柔らかい体を抱き締めて眠れていた日々。
あの日々にはまだ戻れそうにない。
今は、深夜に帰宅しても己の私室で眠り、早朝の一番早い時間に王城へ向かわなければならなく、朝食すらも一緒にとれなくて寂しくて寂しくて死にそうだ。
時間の経過と共に、イルヴァとの距離がどんどん開いて行く気がして焦りだけが募った。
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