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10 アンドレ・ヘルグレーンという男。 3
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婚約期間三ヶ月での婚姻は異例のスピードであった。
元々アンドレは婚約直前までいった令嬢に「妊娠してる可能性があるから他に嫁ぎます」で、辞退された男だ。
似たような経緯で令嬢は妊娠しているのか?と勘繰られたが、婚姻相手がイルヴァだと知れると、
「イルヴァ・ハルネス侯爵令嬢なら、それはないな。あの方は頭脳明晰で淑女としても素晴らしい令嬢だ。間違いなどあるはずもない。」とすぐ打ち消された。
イルヴァの普段の振る舞いと、堅物なアンドレの組み合わせなら、それはないだろうとなったのだ。
噂に雑食の貴族達とはいえ、何でも食べる訳ではないということ。
婚姻式に参加した貴族達からは
「夢の様な素敵な二人だった」
「政略結婚と聞いていたが、恋愛結婚ではないのか?」
「イルヴァ様のドレスも装飾品もとっても素敵だったわ!ハルネス商会の物よね?」
「あんなに美しく愛らしい令嬢を娶ったアンドレのだらしいない顔が拝めただけでも参加した甲斐があるというものだ」
「イルヴァ様が羨ましいわ・・・アンドレ様のあの蕩けそうな笑顔見まして?愛されてるのね。」
「婚姻式で指輪交換をしていたわ。左手の薬指につけるのですって!私の婚姻式にも取り入れたいわ。ハルネス商会で取り扱ってるらしいのよ。殺到する前に予約しなきゃ。」
などと、二人の仲睦まじい様子やドレスと指輪の話など、概ね好意的な感想だったのである。
婚姻証明書に二人でサインをし、イルヴァの提案にハルネス侯爵が乗る形で特別な指輪が用意され、その指輪交換を済ませると誓いの口づけで誓いの式は滞りなく終わった。
イルヴァの前世の結婚式などで行われていた、指輪交換の慣習はこちらの世界ではされていなかった。
目新しい事に目がない商売狂の父親に提案して作らせた結婚指輪の交換を、自分達の婚姻式で行った。
用意された特別な指輪は、アンドレとイルヴァの瞳の宝石を連ねて嵌めこんで作られていた。それは、婚姻式に参加した令嬢の女心をいたく擽ることになった。
“常に傍にいる”をキャッチコピーにしたハルネス商会限定の指輪は、予約が大量殺到する。
既に結婚している奥方達の心も擽り、そちらでの需要もとても高い事がわかった。
イルヴァには父親の商売を助けるつもりは毛頭ないのだが、それでも今回アンドレと巡り合わせてくれたのは父である。
そんなお礼とばかりに、イルヴァが追加で出した提案によって、指輪はさらに爆発的に売れ、婚姻式に指輪交換しないのは恥ずかしいとまで言われる程、貴族達の中での婚姻式のスタンダードにまでなったのだ。
イルヴァが追加でだした提案は、
“婚姻式で使うのは初々しく二人の瞳を連ねたもの。それは、新婚の二人が常に傍に居たいという互いへのメッセージ”
“結婚後の夫婦には、中央に相手の瞳の石を嵌め、その石の周囲を伴侶の瞳の石で中央の石を囲うように嵌めて指輪を作り、これからも守り続けるよのイメージ”
などなど、石を使って相手のメッセージを送る指輪を提案した。
こういう作り方なら、イメージ次第でたくさんのパターンが作れる。
今まで一辺倒に宝石を中央におくだけの指輪のデザイン構想が一新されたのだ。
勿論、ハルネス商会は特許を申請し、この手法を独占している。
イルヴァの前世では普通だったことが、こちらの世界では大きなビジネスチャンスに早変わりするのだ。
転生者が重宝され、大切に囲われるのは当たり前だった。
――――余談だが、二人が交換した指輪の石の色は、グレーダイヤモンドとイエローダイヤモンドである。
厳かな婚姻式も滞りなく済ませ、その後、披露宴が盛大に開かれた。
公爵家と侯爵家という上位貴族の披露宴だ。
家の権威を示す為にも華やかで豪華に行われる。
艷やかな光沢を帯びたシルバーグレーに輝くオフショルダーのエンパイアラインドレスに、優美な首を飾るのは、代々公爵家夫人がに受け継がれて来た天文学的な金額の豪華なブルーサファイアのネックレス。
まるで夜の女神の化身の様なイルヴァに会場中で羨望の溜息がでた。
隣でイルヴァの腰に手を回したアンドレに、仲睦まじく寄り添うイルヴァは、絵画の一枚の様に絵になった。
アンドレも漆黒の髪を後ろに流して精悍な雰囲気に金糸の華やかな刺繍が映える黒のジュストコールは人目を引く美貌のアンドレに良く似合う。
そのアンドレ、今宵は幾度も蕩けるような笑みをイルヴァに向けている。
二人でファーストダンスを踊る姿に、会場の皆はうっとりと見惚れた。
欠けたものがぴったりと合わさる様に身体を寄せて見つめ合う二人は、そこだけ別世界の住人の様だった。
周りがそう思うくらいである。
当人達も(足りない物が全て埋まって満たされた気持ち・・・)と、同じ思いを感じていた。
初夜を迎える二人は夜が深くなる前に宴の場を離れた。
一度、湯浴みなどや初夜の準備の為に離れる二人。
またあとで」とアンドレが早口で言えば、
「はい・・」とイルヴァが頬を染めながら返事をした。
イルヴァがこれから使用する事になる私室に入ると、数人のメイド達が待っていた。
手早くドレスを脱がされ、湯浴みを手伝ってくれる。
その後、香りのいい香油を全身に擦り込み揉み込まれて、イルヴァの肌はしっとりと柔らかくなる。
美しくある為の一通りを終えると、今度は一日ずっと緊張が解けなかったイルヴァの疲れを癒やす様に、軽めのマッサージまでしてくれた。
――――ここのメイド達もとても気遣いが細やかで優しいわ。
「疲れが取れました。お気遣い有難う。」
礼を述べるイルヴァに、イルヴァと年の近そうなメイドは恐れ多いと言わんばかりに、激しく首と手を横に振る。
「いえ!当然の事でございます!奥様に仕える事が出来る事をメイド一同この上ない名誉と思っておりますので!」
目をキラキラさせ興奮しているようだ。
「本日から公爵家に嫁いできましたが、アンドレ様の妻としても、夫人となった事も、今は右も左も分からないことばかりなの。もし、私がヘマをしそうだと気付いたら、教えてくれると嬉しいわ。」
アンドレ様に似た気さくな性格に、メイド達の好感度は上がるばかりだ。
命令する事に慣れきってる貴族令嬢として、使用人に弱みを吐くのを良しとしない者もいる。
己の家に使用人として働きに来るのだ、それは平民か貴族であっても自分より爵位が低い人間だ。
身分が全て物を言うと教育されて来た、爵位が低い者は高い者に自分から話しかける事も不敬にあたる。
そういう令嬢は、気位が高く傲慢な方が多い。
使用人は頼る者ではなく、察して動けと言わんばかりに叱責を受けるのだ。
うちの奥様にはそんな傲慢さは欠片もなく、むしろ使用人との距離が近い。
アンドレ様とお茶を召し上がる時も、紅茶やお菓子をお持ちする度にしっかりと見つめてお礼を言ってくれる。
真っ直ぐに見つめられて大輪の華の様に微笑まれれば、誰もかれも心を撃ち抜かれる。
この純粋で可憐な奥様の幸せの為に、誠心誠意お仕えしようと決意するメイド達なのである。
婚姻式に盛大な披露宴、午前中から夜遅くまでのハードスケジュールでクタクタだったイルヴァ。
前世の様な恋人関係を何年も経てからの結婚ではない。
未だ胸の動悸と緊張を感じるアンドレとの初夜を控え、不安でいっぱいだった。
青褪めていた頬も唇も血色が良くなり、強張っていた表情が柔らかくなる。
イルヴァの頬も唇も薔薇色に戻ったのを見て、仕事をやり遂げたメイド達は笑顔になった。
その後、可憐なイルヴァのイメージに良く似合う、薄い夜着を着させられた。
(すっけすけだわ・・・如何にもといった感じが余計に恥ずかしい!)
胸が壊れそうな程に鼓動を打つ、アンドレ様との初夜への緊張がどんどんと募っていく。
真っ赤なガウンを夜着の上に羽織り、準備が整ったイルヴァは、夫婦の寝室へと案内された。
夫婦の寝室は藍色とクリーム色で統一された部屋だった。
調度品も落ち着いた色味の物が配置されている。
寝室の中央で所在投げに立ち尽くしていたが、ハッとしてベッドの上に座り、アンドレ様を待つ事にした。
これからの初夜を考え、心中は強風の大嵐だけれど。
――――カチャリ
と、扉が開く。そっとそちらを見れば、少し濡れた髪のアンドレが立っていた。
元々アンドレは婚約直前までいった令嬢に「妊娠してる可能性があるから他に嫁ぎます」で、辞退された男だ。
似たような経緯で令嬢は妊娠しているのか?と勘繰られたが、婚姻相手がイルヴァだと知れると、
「イルヴァ・ハルネス侯爵令嬢なら、それはないな。あの方は頭脳明晰で淑女としても素晴らしい令嬢だ。間違いなどあるはずもない。」とすぐ打ち消された。
イルヴァの普段の振る舞いと、堅物なアンドレの組み合わせなら、それはないだろうとなったのだ。
噂に雑食の貴族達とはいえ、何でも食べる訳ではないということ。
婚姻式に参加した貴族達からは
「夢の様な素敵な二人だった」
「政略結婚と聞いていたが、恋愛結婚ではないのか?」
「イルヴァ様のドレスも装飾品もとっても素敵だったわ!ハルネス商会の物よね?」
「あんなに美しく愛らしい令嬢を娶ったアンドレのだらしいない顔が拝めただけでも参加した甲斐があるというものだ」
「イルヴァ様が羨ましいわ・・・アンドレ様のあの蕩けそうな笑顔見まして?愛されてるのね。」
「婚姻式で指輪交換をしていたわ。左手の薬指につけるのですって!私の婚姻式にも取り入れたいわ。ハルネス商会で取り扱ってるらしいのよ。殺到する前に予約しなきゃ。」
などと、二人の仲睦まじい様子やドレスと指輪の話など、概ね好意的な感想だったのである。
婚姻証明書に二人でサインをし、イルヴァの提案にハルネス侯爵が乗る形で特別な指輪が用意され、その指輪交換を済ませると誓いの口づけで誓いの式は滞りなく終わった。
イルヴァの前世の結婚式などで行われていた、指輪交換の慣習はこちらの世界ではされていなかった。
目新しい事に目がない商売狂の父親に提案して作らせた結婚指輪の交換を、自分達の婚姻式で行った。
用意された特別な指輪は、アンドレとイルヴァの瞳の宝石を連ねて嵌めこんで作られていた。それは、婚姻式に参加した令嬢の女心をいたく擽ることになった。
“常に傍にいる”をキャッチコピーにしたハルネス商会限定の指輪は、予約が大量殺到する。
既に結婚している奥方達の心も擽り、そちらでの需要もとても高い事がわかった。
イルヴァには父親の商売を助けるつもりは毛頭ないのだが、それでも今回アンドレと巡り合わせてくれたのは父である。
そんなお礼とばかりに、イルヴァが追加で出した提案によって、指輪はさらに爆発的に売れ、婚姻式に指輪交換しないのは恥ずかしいとまで言われる程、貴族達の中での婚姻式のスタンダードにまでなったのだ。
イルヴァが追加でだした提案は、
“婚姻式で使うのは初々しく二人の瞳を連ねたもの。それは、新婚の二人が常に傍に居たいという互いへのメッセージ”
“結婚後の夫婦には、中央に相手の瞳の石を嵌め、その石の周囲を伴侶の瞳の石で中央の石を囲うように嵌めて指輪を作り、これからも守り続けるよのイメージ”
などなど、石を使って相手のメッセージを送る指輪を提案した。
こういう作り方なら、イメージ次第でたくさんのパターンが作れる。
今まで一辺倒に宝石を中央におくだけの指輪のデザイン構想が一新されたのだ。
勿論、ハルネス商会は特許を申請し、この手法を独占している。
イルヴァの前世では普通だったことが、こちらの世界では大きなビジネスチャンスに早変わりするのだ。
転生者が重宝され、大切に囲われるのは当たり前だった。
――――余談だが、二人が交換した指輪の石の色は、グレーダイヤモンドとイエローダイヤモンドである。
厳かな婚姻式も滞りなく済ませ、その後、披露宴が盛大に開かれた。
公爵家と侯爵家という上位貴族の披露宴だ。
家の権威を示す為にも華やかで豪華に行われる。
艷やかな光沢を帯びたシルバーグレーに輝くオフショルダーのエンパイアラインドレスに、優美な首を飾るのは、代々公爵家夫人がに受け継がれて来た天文学的な金額の豪華なブルーサファイアのネックレス。
まるで夜の女神の化身の様なイルヴァに会場中で羨望の溜息がでた。
隣でイルヴァの腰に手を回したアンドレに、仲睦まじく寄り添うイルヴァは、絵画の一枚の様に絵になった。
アンドレも漆黒の髪を後ろに流して精悍な雰囲気に金糸の華やかな刺繍が映える黒のジュストコールは人目を引く美貌のアンドレに良く似合う。
そのアンドレ、今宵は幾度も蕩けるような笑みをイルヴァに向けている。
二人でファーストダンスを踊る姿に、会場の皆はうっとりと見惚れた。
欠けたものがぴったりと合わさる様に身体を寄せて見つめ合う二人は、そこだけ別世界の住人の様だった。
周りがそう思うくらいである。
当人達も(足りない物が全て埋まって満たされた気持ち・・・)と、同じ思いを感じていた。
初夜を迎える二人は夜が深くなる前に宴の場を離れた。
一度、湯浴みなどや初夜の準備の為に離れる二人。
またあとで」とアンドレが早口で言えば、
「はい・・」とイルヴァが頬を染めながら返事をした。
イルヴァがこれから使用する事になる私室に入ると、数人のメイド達が待っていた。
手早くドレスを脱がされ、湯浴みを手伝ってくれる。
その後、香りのいい香油を全身に擦り込み揉み込まれて、イルヴァの肌はしっとりと柔らかくなる。
美しくある為の一通りを終えると、今度は一日ずっと緊張が解けなかったイルヴァの疲れを癒やす様に、軽めのマッサージまでしてくれた。
――――ここのメイド達もとても気遣いが細やかで優しいわ。
「疲れが取れました。お気遣い有難う。」
礼を述べるイルヴァに、イルヴァと年の近そうなメイドは恐れ多いと言わんばかりに、激しく首と手を横に振る。
「いえ!当然の事でございます!奥様に仕える事が出来る事をメイド一同この上ない名誉と思っておりますので!」
目をキラキラさせ興奮しているようだ。
「本日から公爵家に嫁いできましたが、アンドレ様の妻としても、夫人となった事も、今は右も左も分からないことばかりなの。もし、私がヘマをしそうだと気付いたら、教えてくれると嬉しいわ。」
アンドレ様に似た気さくな性格に、メイド達の好感度は上がるばかりだ。
命令する事に慣れきってる貴族令嬢として、使用人に弱みを吐くのを良しとしない者もいる。
己の家に使用人として働きに来るのだ、それは平民か貴族であっても自分より爵位が低い人間だ。
身分が全て物を言うと教育されて来た、爵位が低い者は高い者に自分から話しかける事も不敬にあたる。
そういう令嬢は、気位が高く傲慢な方が多い。
使用人は頼る者ではなく、察して動けと言わんばかりに叱責を受けるのだ。
うちの奥様にはそんな傲慢さは欠片もなく、むしろ使用人との距離が近い。
アンドレ様とお茶を召し上がる時も、紅茶やお菓子をお持ちする度にしっかりと見つめてお礼を言ってくれる。
真っ直ぐに見つめられて大輪の華の様に微笑まれれば、誰もかれも心を撃ち抜かれる。
この純粋で可憐な奥様の幸せの為に、誠心誠意お仕えしようと決意するメイド達なのである。
婚姻式に盛大な披露宴、午前中から夜遅くまでのハードスケジュールでクタクタだったイルヴァ。
前世の様な恋人関係を何年も経てからの結婚ではない。
未だ胸の動悸と緊張を感じるアンドレとの初夜を控え、不安でいっぱいだった。
青褪めていた頬も唇も血色が良くなり、強張っていた表情が柔らかくなる。
イルヴァの頬も唇も薔薇色に戻ったのを見て、仕事をやり遂げたメイド達は笑顔になった。
その後、可憐なイルヴァのイメージに良く似合う、薄い夜着を着させられた。
(すっけすけだわ・・・如何にもといった感じが余計に恥ずかしい!)
胸が壊れそうな程に鼓動を打つ、アンドレ様との初夜への緊張がどんどんと募っていく。
真っ赤なガウンを夜着の上に羽織り、準備が整ったイルヴァは、夫婦の寝室へと案内された。
夫婦の寝室は藍色とクリーム色で統一された部屋だった。
調度品も落ち着いた色味の物が配置されている。
寝室の中央で所在投げに立ち尽くしていたが、ハッとしてベッドの上に座り、アンドレ様を待つ事にした。
これからの初夜を考え、心中は強風の大嵐だけれど。
――――カチャリ
と、扉が開く。そっとそちらを見れば、少し濡れた髪のアンドレが立っていた。
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