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異世界転生したら竜族の姫になっていた。

アラクシエルの懸念。

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「面倒な事になりそうだな……」

 アラクシエルは呟く。

 イオと過ごした間に溜まった決裁待ち書類を淡々と捌いていく。
 先程マナメールを聖竜族の長に送った所だった。
 国として送るのは大事になりそうな為、個人的にマナメールとして送った。

 マナメールとは魔力が生物の形を取り送り主が伝えたい内容を声や手紙にして送る魔法である。
 個人によって魔力の質などが違う為、全く同じ形にはならない。
 一目で誰からのマナメールか特定しやすいが、送り主が指定した者以外に見れないようにする事も出来るので、使い勝手の良さからかなり普及している魔法だ。


 簡潔に“聖竜族の子竜を城で保護している。連絡を待つ”とだけ送った。

「返答次第ではこちらで保護する事も考えねばな」

 子は宝。
 親の身分が高い場合、両親共に役目があり常に側に居る事は叶わない。
 それ故、信頼できる養育係と護衛が何人も付けられた生活をする。
 元々竜族は他種族が呆れる程に過保護だが、聖竜族はその中でも特にその傾向が強かった筈。
 御つきの者すら居ないのは不可解。
 何らかのトラブルで引き離されたのだとしたら、今頃は聖竜一族総出で大捜索が行われている上に、竜王である私の方へも連絡が来てなければおかしい。
 静かすぎる今の現状は、違和感どころの話ではない。

「―――イオがとても気にかけてる様子だしな…迎えに来た長に押し付けて解決とはならないだろうな」

 イオは心優しく素直な愛らしい子だから。
 子竜が本当に幸せになると思わない限り手を離さない気がした。







「んん…くすぐったい」

 鼻の頭、頬、瞼、に次々と柔らかくてちょっとザラっとして温かい何かの感触。

「キュッ!」

「もう少し寝かせて…」
 眠たくて仕方ない璃音はシーツを引き上げ顔を隠す。

「キューッ!キュキュ!」

 シーツが引き剥がされ、責めるような鳴き声。

 重たい瞼を何とか少しだけ開けると、目の前には子竜が。
「あ……子竜ちゃん」

 そうだった!
 昨日、迷子の子竜ちゃんを保護して私の部屋で一緒に寝たんだった。

「キュゥゥン、キュー、キュキュ」

「えーっと、お腹が、ペコペコ?」

 子竜が璃音の顔の前でお腹をさすってジェスチャーをしている。
 何となくそんな感じに見えたジェスチャーのままに口にした璃音。

「キュッ!」
 それに同意するように鳴き、上下にこくこくと振る子竜。

 璃音は子竜のその愛くるしさに目がパッチリと冴えてしまう。
 お腹が空いてるなら可哀想だと寝るのをすぐに止めて上半身を起こす。
 そのまま子竜の脇に手を回してひょいっと抱っこした。

「子竜ちゃんが好きなのは何かなー? すぐに朝ご飯に行こうね」

 ベッド横テーブルに置いてある、花の形を模った魔道具を手に持ち、真ん中にあるボタンを押した。

 使用人を呼ぶ時に押して知らせる便利な魔道具である。

 それからしばらくしてノックの音がする。

「姫様、入室の許可を頂いてもいいですか?」
 と、外から声がした。

「どうぞー」と応える璃音。

 現れたのは昨日の庭で子竜を見たメイドだったので、璃音はホッとした。
 子竜を色んな人に見られるのはあまり良くないと思ったから。

「お腹が空いたから朝食を食べたいの。準備をお願いしてもいいかな?」
 子竜にチラチラと視線をやりつつ璃音がメイドにお願いする。

「子竜様の分もご用意いたしますね」
 璃音の視線の先を見たメイドがふふっと少し笑った。

「ありがとう!」
 璃音がパァっと花が咲くような笑顔でお礼をいった。

 王女だというのに気さくな態度の璃音は、まだそんなに接する時間が長い訳でもないが使用人達から好かれていた。
 本当はもっと王女然とした態度でなければならないのだが、竜王自身が今はまだ幼いイオの好きなようにさせるようにとのお達しがあり、教育係も注意する事はなかった。
 もう少し成長したらしっかり教育されるのかもしれないが、今は真綿に包むように大切にされつつ、のびのびと過ごさせて貰っていた。


「子竜様とご一緒にとられるだろうとのことで、陛下からは部屋にお食事をお運びするようにと言われていますので、お支度後、こちらにお持ちしますね」

「うん、わかった」
「キュッ!」

 子竜も言葉をしっかり理解しているようで、小気味よい返事をしている。

 そして、璃音に抱っこされた子竜は仲良く寝室を出ると支度部屋へと移動したのだった。
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