胸きゅん風雲記

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きゅーぅ

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俺はどこかそわそわしながら成さんに連れられて集会場に向かった。
ああ、抵抗なくいく自分は成長したなぁと涙がにじむ。
未だに怖いと感じる場所ではあるけれど、大好きな胸きゅんアイスがタダで食べられるので勇気を振り絞る日々だ。
怖いものは怖いけど、背に腹はかえられない!
そして、アイスで浮いたお金をコツコツと貯めて、俺はあるものを購入した。
気に入ってくれるといいなーと思いながら、気まぐれなネコさんが来てくれる事を俺は楽しみにしていた。

カランと店に入ると、カウンターには蓮さんがいて、泰ちゃーんとすぐさま抱き着いてくる。それを甘受しながら、俺はくるりと店内を見渡した。

「今日はネコさん来てないんだ・・・・・・」
「泰ちゃぁーん。あんな奴別にいいじゃん!俺がいるんだしー?」
「はぁ?泰には俺がいるから、狐なんて御呼び立てしてねぇーんだよ」
「・・・・・・成、なんか最近チョーシのってんじゃね?」
「あ゛ぁ?調子こいてんのはお前だろう?」

蓮さんと成さんの雲行きが怪しくなっていく中、俺は険悪な雰囲気を察していつものようにイツキさんの所にいき、今日の胸きゅんアイスを貰いにいった。
もう慣れたもので、イツキさんは俺を見るとカウンターに近付いて、胸きゅんアイスを取り出してくれた。今日の胸きゅんアイスは俺の好きなイチゴ味だ。
ありがとうございますと受け取って、俺はそのままカウンターで食べ始めた。

「そういえばユーイ君達は?」
「え?知らないよー」
「今日は見てないかな」
「あ、でもあれかもねぇ」
「あぁ、そうかも」

戒名さんとロクさんは肩を竦めたが、心辺りがあるらしく、あんな事やんなくていいのにねと言い合っていた。何をやっているんだろう。
まぁいいかと気にならないでもなかったけど、俺はそのまま胸きゅんアイスに集中した。
戒名さんは俺の右隣に、ロクさんは俺の左隣に腰掛けた。
俺に飲み物や、食べ物を与えてくれるのは主にこの二人だ。
他に食べたいものがないかとか聞かれて首を横にふっていると、店に誰かが入ってきた。
入り口を見るとそこにはユーイ君達がいて、ネコさんの腕を引いていた。

「ちょっと離してくんない?毎度毎度。俺ここのチームじゃないしさぁ」
「うるせぇ。総長がお前気に入ってっから連れてくると喜ぶんだよ」
「僕達だって不本意です。てめぇを総長の前になんか出さずにタコ殴りしてぇの我慢してやってんだからよ」
「ネコさんだー」

俺はネコさんに気付くと食べかけのアイスをそのままに入り口へ駆け出した。
嬉しくてついつい抱き着いてしまった。いつもならしない行為だが、会うのが久しぶりだからいいよなと完結させて、すぐに離れた。

「あー!!泰ちゃんに抱き着いてる!・・・・・・コロス」
「泰、何でそんな奴に抱き着くんだ。俺にだってした事ねぇじゃねぇか」
「・・・・・・始末」
「ワン、任せたぞ」

煩い外野は無視して、俺はネコさんに笑みを浮かべた。
ネコさんは灰色のウルフヘアに細いカチューシャをしている。身長はそんなに高くはないけど、それでも文句なしにカッコイイ。
戸惑うネコさんをよそに俺はもじもじしながら、彼にあるものを渡そうとポケットから取り出した。

「あ、あの、これ付けてください。に似合うと思って買ったんです」
「・・・・・・・・・・・・阿保かああぁぁぁ!これ首輪じゃん!!んなもんいらねぇーし!」
「え、でも・・・・・・」
「俺の事馬鹿にすんのもいい加減にしてくれない?!」
「・・・・・・これ、お小遣い貯めて買ったのに・・・・・・っく」
「え、ちょっ?」
「ふ・・・・・・ひっく」
「泣かせやがった」
「抹殺」
「生きて帰れると思うなよ」
「えええぇぇぇ!?首輪だよ?普通要らないでしょ」
「ネコなんだから問題ないじゃん」
「そうだよね。色々話が根本的に擦れ違ってたよね!」

似合うと思って買ったネコさんの首輪は、その当人に拒否されてしまった。
つけた姿を想像して楽しみにしていた俺は悲しくて不覚にも涙を零してしまった。
母が動物アレルギーで、一切ペットを飼った事がなかった俺は浮かれていたのだろう。
焦げ茶色の革製の首輪をきゅっと握りしめた。

「総長、落ち込まないで下さい。僕がその首輪をして貴方の一生の犬になりますから」
「サヤさん・・・・・・うん。ありがとう」
「止めろ泰。そいつは犬じゃなくて主人に噛み付く狼だ」
「ふっ、僕が総長に噛み付くわけがないでしょう。ただちょっとしゃぶりつくだけですよ」
「ちょっとじゃねーだろ。変態が。ねー、泰ちゃーん。俺がその首輪してあげよっか」
「いいです。蓮さんに買ったわけじゃないですから」

しょんぼりしながら、俺はネコさんをじっと見ると気まずい表情で縛らく逡巡するようにしてから、はぁと長い溜息をついて俺の傍にきた。

「それ、貰うよ」
「・・・・・・!」
「最初からそうしてりゃ良かったんだよ。糞が」
「・・・・・・俺に人権てないよね」
「あるって希望を持ったらお前の人生終わりだな」
「泣きそう・・・・・・」

渋々ながら首輪を受け取って、ネコさんはそれを付けてくれた。首ではなく腕ではあったけど、似合っていたから満足だ。
蓮さんに後ろから抱きしめられながら、俺はご機嫌で早速ある本を取り出した。

「まずは第一段階クリアー」
「泰ちゃん?それって」
「うん!買って来たんだ。これにまずは首輪を付けましょうって書いてあったから!」
「猫の飼い方・・・・・・」
「あれ?ネコさん、何で泣いてるの?どうやったら泣き止むんだろう?あ、これかなぁ」
「泰、その本には書いてないと思うぞ。むしろ、その泣き止み方は無駄にやたらに鳴き声をあげる場合だからな」
「え、でも猫の飼い方の本だよ?」
「俺、こいつに同情するわ」







END



ユーイ達はネコ狩りを最近始めました。
そして愛玩ペットのネコは別チームに所属。






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