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幸(ゆき)が舞うように  転生もの。  2017年作成

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容姿もそんなに悪くはない、頭の出来も良い方だと思うし、交流関係も広くはないが狭くもなく、先輩には可愛がられ後輩にも慕われていると思う。
とても幸せな人生を歩んでいると思う。
所謂勝ち組だの人生ではないだろうか。
でも、ずっと満たされない気持ちが確かにあった。
過去の亡霊と言ってしまっていいだろう。
小さい頃に俺はずっと不思議な感覚を持ちながら生きてきた。
自分じゃない誰かもう一人がいるような、まるで見てきたかのように思い出される光景、記憶。
そう、前世の記憶が俺にはあり、それが今の俺を悩ませていた。

「お姫様は最後ハッピーエンドで終わるのよ」
母の言葉をずっと信じていたのは前世の俺だ。
由緒ある貴族の一人娘として生まれた俺は順調に行けば婿を貰い、そのまま跡継ぎを産み、暮らして死んでいっただろう。
所詮決められたレールが存在していた。

なのに、数奇な運命が俺の、彼女のすべてを狂わせた。
それは突然の有無も言わせぬ王命だった。
王家の血筋を絶やすわけはいかないと、王家の親戚筋であった彼女を当時、まだ王子であった二つ上の彼の妃にするようにと命が下ったのは、彼女が12歳の誕生日を迎えた時だった。
冬の、寒い日の夜に急遽夜会という形で、貴族達が集まる中で顔合わせ兼お披露目が行われて、見事彼女は王子に心奪われたのであった。
綺麗で艶やかな鷲色の髪に、夜のような青い瞳が印象的でしばし見とれたのを鮮明に今でも俺は思い出せる。

「初めまして、****様。わたくしはミシェル・シェラン・ルードと申します。今夜は寒いですけれど雪がとても綺麗ですわね」

緊張し過ぎて自分が何を話しているのかも分かってなかった。
返事を返してはくれなかった彼がこちらをみてくれただけで満足だった。
普段なら気が付くのにこの時、気が付かなかった彼の気持ちに、後々自分が苦しい人生を歩むなんてこの時のミシェルには考えようもなかったのだ。



それから五年後。
王が退位し、王子が王になっと同時にミシェルは彼の妃になった。
ろくな会話も逢瀬もないまま夫婦になった俺たちには当然急に距離が縮まることもなく、ミシェルは妃としての責務をこなしながらも、一年後に世継ぎをそれでも身籠っていた。
その頃には彼女も気がついていた。
先代の王が命じた政略婚。そこには義務以外しか生じず、夜に褥に現れた王は義務でミシェルを抱いていった。
俺はやるせない気持ちだった。今現実に起こったかのように思い出せる前世の記憶に。
彼女の気持ちに。
今の俺とミシェルは違う。
だけど、彼女の気持ちが理解できてしまう。政略とはいえ惚れた相手。形ばかりではあるが夫婦なのだ。
そこは覆せないし誰も邪魔されることはないだろう。
お腹には王の御子もいるのだからと。
しかし、彼女の考えはすぐに翻された。
王が側室を迎え入れたのだ。
ミシェルが身籠ったせいか、夜は王はそれからずっと側室の元に通っていた。
別に裏切られたとは思わなかったが、それでも衝撃であった。しかし、妃である自分は不動のものだと暗い気持ちを押し隠した。
無事に世継ぎを産んだときに、これで少しは王も自分達に目を向けてくれる。お産を終えたミシェルはそう思っていた。
しかし、気がついた時にはミシェルの元には何も残っていなかった。
お産が終わり暫く体調を崩しやすくなっていたミシェルは城から少し離れた塔に居住を移され、そこで療養するように言われた。
子供は乳母が預かるとの事ではあったが、そんなのは嘘であった。

子供が出来ないと判断された側室のために、ミシェルの産んだ子供は与えられ、王のそばで今は療養している自分の代わりを務めているという。
くちさがないメイド達の話はミシェルの耳にまでおよぶ。
その側室が王の幼馴染み的存在で、メイドを母に持つ庶民なのだが王の求愛により側室として入ったのだと。
まるでお伽噺のようですわねと塔に入る前にメイド達が噂していたのを聞かなかったふりをしていたミシェルは自分との違いに悲しくなった。
大切な、大切な方なのだろう。
子供が産めないならば本来ならば側室という地位はありえない。なのに彼女はミシェルと違って王の側にいる事を許され、あまつ自分の子供のお世話までしているという。
子供の名前も"ルシオ"と名付けたのは彼女らしい。
全てを奪われた。 
それは、そうしたのは側室の彼女ではなく、紛れもなく王なのだと、残酷なまでの仕打ちにミシェルの心はそれでも壊れてはくれなかった。
壊れてしまいたかったが、妃という称号が未だに自分にある以上はその事実が理性として働きかけ、実家にも迷惑がかかるかも知れないとひっそりと現状を受け止めて生きていくしかなかった。
夫婦として、家族として、ミシェルが望んだ形が、たまに覗く窓の外から見えてくる。
数年が経っても変わらぬ現実はミシェルの心に確実に闇を生み出し、歪みを生ませた。

楽しそうに笑っている我が子の成長を、声も温もりもまったく知らぬ我が子を遠くで眺めながらミシェルは唇を噛み締めた。
一度、一度だけ彼らがいる庭に数人のメイドと共に赴いた時があった。
もしかしたらと期待して。
その期待に応えるかのように庭に我が子と側室がやってきた絶望を俺は忘れられないだろう。
ミシェルに気がついた側室たちのメイドや護衛達は、ミシェルから彼女達を隠すように、守るように立ちはだかり、産みの親である自分を怯えた目で見る我が子とそれを守るように抱き込む側室の姿。
言葉が出なかった。
なにも考えられなかった。
実の我が子に何故おびえらるのだろうか?
何故彼女は我が子のように抱き締めているのだろうか?
無意識に我が子に手を伸ばそうとしたが、その手をいつの間に来たのか王により遮られた。

「ここで何をしている」

久しぶりの声は冷たく、塔の上からいつも見ていた温かさなどいっさいなかった。

「…………わたくしが気分転換に散歩をしてはならないのでしょうか?長らく療養の身ではありますが、定期的に日の光を浴びなければ身体も腐ってしまいましょう」

「ならばもう充分であろう。それ以上は体の毒だ。もう部屋に帰ると良い」

「なれど、久方ぶりに腹を痛めた我が王子とお会いすることも出来たのです。親子の再会はさせて頂けないのでしょうか」

「ならん。これ以上はそなたの身体に触ろう。お前たちも何をしている。早く妃を連れていけ」

ミシェルを労っている言葉を使いながらも塔に押しやろうとする王に、俺は失望した。
そのままミシェルは抵抗もせず、塔にある自分の部屋に戻っていった。






* * *



「最期まで好きっていう気持ちは消えなかったのが不思議なんだよな」

あのあとに流行り病にかかり、そんなに身体が強くなかったミシェルはあっという間にその人生に幕を閉じた。
裏切られて、絶望して、失望したのに恋は盲目なのかミシェルはそれでも王を慕っていたし、側室を恨みはしなかった。なんとも偽善的な彼女に笑いしか浮かばない。

そして今も似たような境遇な俺にやるせない気持ちだった。
ただ、違うのは決定的に俺は彼と関わる事が出来ない事だろう。
今もかつて愛した王がいた。
初等部から大学部まである学園に現在通っている。
広い敷地には寮も完備されているが、希望者のみで、俺は自宅から専用のスクールバスに乗って通学している。
同じ学園の生徒ではあるが、距離は前よりも遥かに遠い。
あの人は名門の家に生まれ、そしてこの学園の副会長をしている。

「おい聞いたか彰人~?副会長、婚約発表今度するらしいな」
「らしいな。俺のとこにも招待状届いたよ」
「俺のとこも来た。兄貴があんな美人が婚約者で羨ましいって呟いてたぜ」

「そうだな」

今の俺の名前は神楽彰人、そして今絡んできた相手はかつて俺の幼馴染みでもあった人物で、敷島雪。
雪の季節に生まれたはずの雪は儚げな名前とは縁遠い活発で、容姿も整っているため目立つ奴だ。時期会長とまで囁かれている。
雪は俺の肩に腕を絡ませて顔を寄せてささやいた。

「ま、俺的には彰人が一番美人だけどな」

ニコッと笑う姿は俺にはなんだか眩しすぎて、なんだか気はずしくもあって顔を背けた。
「何言ってんだよ。男に美人なんて変だろ」
「そうか?でも皆言ってるじゃねーか。彰人様御美しいです~」
「きも」
「ひでぇ!!」

くねくねと誰かのモノマねをしながら、作り声で話す雪が気持ち悪くてつい吹き出した。
こうやってたわいもなく過ごせる日々がくるとは思わなかった。

「……なぁ、彰人。副会長のやつ俺と一緒に行ってくれないか?その、パートナーとして」
「は?冗談……?」
「冗談なんかじゃない。ずっと、彰人を見てきた。ずっと俺には彰人だけだった。だから、一生のお願いだから……」
「てか!場所を考えて言えよ!ばか!!自分の有名度合いを考えろ!」

時期会長と言われている敷島がいて、注目を集めないわけがない。
そこかしこで悲鳴みたいなものが聞こえてくる。
人気が高い敷島にこんな告白まがいな事を言われて、もしかしたら嫌がらせをさせられるかもしれない。

「彰人が誰かに思ったり、他の人のもになるのはもう嫌なんだ。ずっと俺が彰人の隣にいれると思ってた。お前の側にずっといると信じて疑わなかったんだ」

俺の手を握り真剣な瞳を向けてくる。普段ならおちゃけてくるのに、いきなり卑怯だと感じた。
雪から眼が離せない。

「大切なお前を妻にするのは俺だって、一番幸せにするんだって昔から決めてた……なのに……王命が下って、あの夜会で全部そんなもの夢物語になった」
「雪……何言って…」
「今度は何のしがらみもない。またお前の隣に立てた奇跡を逃したくないんだ。俺を、選んで欲しい。お前が惚れたあの人とは違うけど、俺を見てくれ」

俺だけが、記憶を持っていたのだと思っていた。
俺だけが、王に片想いして苦しんでいたのだと思っていた。
ずっと俺を思ってくれていた雪。

俺は、まだあの人を目で追ってしまっている。

「俺は、まだ雪をそんな目では見れない。」
あの王命がなければ、きっと雪が言うように、雪の妻として幸せな家庭を築いていただろう。ミシェルもそれを当たり前のように受け入れていた。
しかし、それが覆されるとはきっと誰も思っていなかった。

「でも、俺を思ってくれてる雪の気持ちを大切にしたい」

今度こそ俺も誰かに想い想われて、幸せになりたい。

「雪の気持ちに応えたいから、ずっと俺の側にいてください」
「彰人!!」
「おめでとうございます雪様」
「良かったですね、敷島さまぁ~」

周りから祝福の声が聞こえてきてはっと我に帰る。
場所をわきまえろと言ったのに忘れていた。
満面の笑みを浮かべて雪が抱きついてくのを受け止めながら、この祝福ムードが何故なのか考えていると照れ臭そうに雪が答えてくれた。

「俺の気持ち丸分かりみたいでさ。ばれてたみたい」

知らなかったのは俺とごく一部の人間だけだったらしい。

「彰人、幸せになろうな」
「色々と気が早すぎる」

眩しすぎる笑顔を直視できなくて顔を背けた俺だったが、少し、ほんの少しだけミシェルの時の気持ちが薄れた気がした。
呪縛にも近いこの気持ちがそう易々と晴れることは無さそうだが、雪が側にいてくれるなら、近い将来必ず俺は彼の気持ちにけりをつけられる。
そう確信しつつ、俺は思いきってしまりのない顔をした雪をきちんと見つめ、小憎たらしい顔にデコピンをお見舞いしてやったのだった。






end





リハビリとして書いたあるある設定詰め込みました。
詰め込み過ぎて最後中々すすまなかった。




2017823
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