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平凡ヒエラルキー 平凡が変人に好かれる受難
しおりを挟む平凡ヒエラルキー
この学園は無法地帯だ。いや、実際に無法地帯というわけじゃないけど、俺からしたらそのレベルに達している。
俺、白玉最中(しらたまもな)が通う学園は美形か、そうでないかで扱い方が決まる。顔こそがすべて。容姿が整っていればそいつが学園の全権力を握るといってもいいほどだ。さらにその美形が大企業の御曹子だったりすると、教師ですら逆らえなかったりするという歪みっぷり。そんな学園に入学して一年。今年二年となった俺は、平凡な容姿のためにあまり目立たないように過ごしてきた。
それがこの学園での賢い生き方だからだ。
平凡な奴に人権などないに等しい。美形の奴に逆らえば即学園での立場は危ういものとなってしまうのだ。
そんな腐れた学園に、時期はずれな転入生がやってきた。そいつは類い稀なる美貌を持ち、漆黒の髪に潤んだ黒耀石のような瞳の持ち主だった。
まず最初に接触したのは学園にて最も権力を持つ生徒会。彼等は転入生―――黒光あん(くろみつあん)に一目で惚れてしまったらしく、黒光にアプローチをその日から始めたのである。
黒光あんはその美貌ながら性格は気さくで、仕種一つ一つが優雅だ。まるで一枚の絵画のような光景に、黒光あんの人気は上がる一方で、その日に親衛隊が出来てしまう程だ。
そしてそれが恐怖の開幕である生徒会を含め風紀委員、一般生徒。腕に覚えのある奴らは力付くで黒光あんの隣を獲得しようと、殴り合いを始める。元凶は呑気にそれを眺めていたりするのだが、誰も咎めない。
俺のようなぱんぴーは巻き込まれないように必至に身を縮こまらせ、気配を殺すのみだ。
そんな、毎日に転機が訪れた。これが、俺にとって最悪なものへと転がる前兆であった。
「なぁ~んで、あんちゃん振り向いてくれないんだろ~」
はぁ~あとため息をつく人物はこの学園の帝王と言われている栗中柏(くりなかかしい)である。わざとらしくつかれた息は俺をびくつかせた。
ただ通りすがったのが運のつきか・・・・・・いや、通りすがっただけでやっかいにも悪魔に捕まるとは俺に天は死ねと言っているのか、甚だ悩む所であるが、委員会活動最中、俺は隣に座る人物、栗中先輩に拘束され鬱憤をぶちまけられていた。
美化活動で外のゴミ拾いなんてしていたら、帝王しか寄り付かない、一般人にはいわくつきの場所に近づいてしまったのである。帝王と言われても、栗中先輩はその狂気的な行動が有名で、気に要らない人間がいればそいつをとことん追い詰め殴りボロボロにする。教師や生徒関係ない。自分の意にそぐわない人間。それだけで彼は非情な行動を起こすので、生徒会や風紀委員も手を焼いているのだった。
そんな彼が皮肉にも風紀副委員長の座に収まっているのは、その美貌と家柄のなせる技だ。
「ちょっと君さぁ、聞いてんの~?」
「はい、聞いてます!」
うろんな眼差し―――獲物を狙う肉食獣のような瞳で話し掛けられ、俺はぴしりと姿勢を正した。
本当にぃと疑いをかけられたけど、誰がそんなもん真面目に聞けるか!だいたい仲良くもない人間の恋愛模様なんぞくそくらえ!!
なんて、言えたらいいんだけどね。言ったら、今だ無傷という奇跡が一瞬にして俺の血まみれショーと化してしまうかもしれない。
本当、世の中って厳しいな。弱肉強食の世界だよ。
「でさ~、あんちゃんって俺の事タイプじゃないんだってぇ。どうしたらいいと思うぅ?」
「え?え~っと」
そんなん知るかよ。タイプって、まず性別がタイプじゃないだろうよ。と俺は思いつつも必至に考えた。上手い逃げの言葉を。
というか、どうしたら解放されんだろ。
個人的に答えられない回答を隣の恐怖から求められながら、俺はぐるぐる思案していると、救世主が現れた。
「柏!こんな所で油を売ってないで風紀の仕事をしろ。あと一般の生徒に近づいて不用意に犠牲者を出すな」
「あれ~?花梨(かりん)どうしたの?俺、今日は仕事終わらせたはずでしょ~?それに犠牲者なんて出してないしぃ」
「今日のはな。だが、その前の分がたまっているから、終わらせたとは言わない。早く来い。それにいつ犠牲者を出すか信用ならん」
「えぇ~」
不服そうな顔する栗中先輩を無視して、風紀副委員長の葛湯花梨(くずゆかりん)先輩は俺の方へ近付いて、じろじろと眺めてからため息をついた。葛湯先輩はこの学園でも珍しく、美形でお金持ちであるにも関わらず、皆に平等で俺達人権を認められていない一般生徒にも評判がいい。少しだけたじろきつつも、俺は逃げるチャンスだと頭を下げてその場を後にしようとすると、栗中先輩がにこやかに手を振りながら恐ろしい宣告をしてきた。
「また明日ね~」
「ほら、行くぞ」
栗中先輩は葛湯先輩の後ろを歩いていった。
俺は、これから無事に卒業出来るかどうか不安になって夜眠れなかった。
□□□
他人事だと、周りを見なかったのがいけなかったのか。火の粉が俺に降り懸かるなんて思考回路は、まさか自分が・・・・・・なんて考えの俺には併せ持っていなかった。
あれから毎日放課後に俺はあの場所で栗中先輩―柏先輩の話に付き合わされている。無駄に毎日会話してる内に名前呼びになっている悲しさ。
話題は黒光あんと風紀委員。それから天敵らしい生徒副会長の羊 羹(ヨウ カン)様らしい。会長ではないんですか?とついつい聞いてしまうと会長―ブリュレ・ベリーは壇上立つ時は真面目だが、それ以外は究極のナルシストで、自分以外に興味がなく、生徒会を実質牛耳ってるのは洋様らしい。
そんなんでいいのかなぁとか思わないでも俺だが、賢い俺は貝のように黙っていた。
いつの間にか設置されたベンチに二人仲良く座り、柏先輩が持ってくるイチゴミルクを飲みながら俺はちらりと柏先輩の向こう側の人物を見た。
最近、黒光あんがちらほらとこの場所に姿を見せ始めたのだ。
意図は分からないが、もしかしたら彼は柏先輩に興味を抱いたのかも知れない。ならば早々に接触して頂いて俺に平穏な生活を齎して貰いたいものだ。
「あ~ぁ。最近あんちゃんって同室の蓬(よもぎ)とぉ一緒でさ~」
「そ、そうなんですか」
へぇ~、ふぅ~ん。話題の人物はひそりと俺達観察してるみたいなんですけど。
ああ、美人がひそりと気づかれないように見てる姿。麗しい、麗しいけど意味が分からない。
あ、そうだぁと柏先輩はいいことを思い付いたようににっこりとして俺に死刑宣告した。
「今日は~最中、一緒にご飯食べようかぁ。ど~せあんちゃん食堂来ないしぃ。一人だと味気ないしねぇ~。いいでしょ~?」
「は?え、い・・・・・・」
「いいよねぇ?」
「はいっ!」
小さな子供みたいな柏先輩は、ご機嫌で無理矢理俺を食堂まで連れていった。
最初、柏先輩の登場で色めき立つ食堂だったが、その横に連れ立っている平凡な俺を見てざわめきだした。
『なんで栗中さま、あんな下級な奴といるわけ?』
『身分不相応だって分からないの?あんな奴が栗中様といたら堕落してしまわれちゃう』
それなりにこの学園で人権を持つ『中級』の奴らがひそひそと話している。俺と同じ一般の『下級』奴は俯いてひたすら関わらないようにしていた。以前なら俺もあそこの仲間だったのに。
そう思いながら俺は促されるまま柏先輩の指定席に座らされた。
「なぁにが食べたい~?今日は俺が奢ってあげるねぇ」
「ありがとう、ございます」
「・・・・・・もしかしてぇ、周り気にしてる~?」
これから親衛隊から嫌がらせとかあるかもしれないと思うと元気がなくなってくる俺に、柏先輩は首を傾げた。その仕草が何だか可愛いと思ったのは疲れていたからだろう。
んも~仕方がないぁ★と言う柏先輩は、ニコニコ顔から表情を消して、獰猛な猛獣の顔で周囲に牙を向いた。
近くにいた生徒の胸倉を掴み、みせしめのように殴ると、声高だかに宣言した。
「よぅく聞け、愚図共。俺の所有物に手をだしたら、こいつみたいに顔面ボコボコにしてやるから」
最後はにやりと素敵な笑みつきで。
END
脇役主人公を意識して。
まだ書きたい部分書いてないのでもちっと続きます。
CPは見ての通りです。
20090927
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