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羽化期間 抱擁攻→健気受→他攻
しおりを挟む羽化期間
あの人は俺以外をいつも好きになる。いくら俺がアンタを好きだよって言っても、その想いが届くことはない。
どうして俺じゃ駄目なのかな。
こんなにもアンタのことが好きなのに、何が足りないのか、何が駄目なのか、俺にはまったく分からなかった。
「別に、宮(みや)が嫌いとかじゃないんだよ? でもね、俺には宮はそういう対象には見れないんだ。ごめんね」
優しく頭を撫でながら言ってくれても、言葉は残酷に俺の胸に突き刺さってくる。
一人ベッドにうずくまって、叶わぬ恋に涙を零しても誰も慰めてくれない。ただよけいに傷付くだけだった。落ち込むだけ落ち込んで、明日は学校に行かなくてはと憂鬱になった。
□□□
「宮、今日は一段と顔色が悪いぞ」
学校に行くとクラスメイトの真(しん)が話し掛けてきた。心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。心配させないように、大丈夫と呟くと、真は苦々しく顔を歪めた。
「また、あの人か……?」
真の言葉に図星だった俺は何も言えなかった。あの人のことをよく真には相談していたから、どんなに俺があの人を長い間想っているからこそ俺があの人に恋心を抱くことを真は心良く思っていないようだった。
「うん。でも、もういいんだ。そろそろ新しい恋に進むべきなんだよ俺は。幸い、こんな俺を好きだって言ってくれる奇特な奴がいるからね」
「宮……」
茶化して言う俺に、真は泣きそうな、それでいて嬉しそうなどっちなんだよと思わず突っ込みたくなる表情を浮かべた。
俺があの人を好きだと言っていたように、俺を好きだと言ってくれる真に俺はそろそろ真剣に答えないといけないと考えていた。ずっと俺の気持ちを知りながら気遣かって、それでも好きだと告げてくれた真を、俺も好きになろうと思う。
「少し時間がかかるかもしれないけど、俺を好きだっていってくれる人に対しては都合がいい事を言ってるかもしれないけど、待ってくれると思うんだ」
「ああ、待ってる。お前の好きが俺に向くまで、仕方がないからずっと傍で待っててやるよ」
くしゃりと俺の頭を撫でてくれる手は暖かくて、あの人の冷たい手とはまったく違っていた。
優しすぎて泣きそうだ。
「真に惚れちゃいそう」
俺が泣きそうになりながらも茶化すように言えば、真はそれに気がついたのか苦笑してから、にやりとした笑みを作った。
「これから思う存分俺に惚れていいんだぜ?」
「うん、馬鹿すぎて惚れるよ」
「酷いな」
俺もいつまでも叶わない恋に身を焦がしてばかりじゃ駄目だって分かっているから、あの人にもう一度好きだと告げて、一つの区切りをつけよう。
そんな心境にさせてくれた真に感謝しなくては。
「ありがとう、真」
照れくさいから聞こえないようにぽつりと呟いて、俺はこれから好きになるであろう人物に笑顔を向けた。
まだ踏ん切りはついてないはずなのに、一度決めた心は何処か晴々としていて、これからきっと俺は沢山のものを得るだろう。
ただ一人の人間を一途に思う俺はさながら蛹。
今か今かと成虫した綺麗な姿を夢見ていた。
でも羽化した瞬間はそれ程の焦がれた時とは違って呆気ないもので、どこかつまらなかったけど、羽根を動かした瞬間、世界は変わっていた事に気がついたんだ。
「それに気がついたのが、真のおかげなんだよね」
「何がだ?」
首を傾げる真に俺は内緒と口元に人差し指を当てて笑みを浮かべた。
END
イベントペーパーにて掲載し、少し加筆修正致しました。
20080501
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