19 / 32
狐々堂シリーズ 望まない住人
しおりを挟む望まない住人
「兄さん、兄さんお客さんだよ」
弟の恵太に呼ばれ、咲はふと自分がまどろんどいたことに気がついた。
袖を引かれ、目を開くと目の前に顔なじみが立っていた。この狐々堂(こんこんどう)は小さな小物を扱っている。しかしそれは表の姿で、実際は故あって妖等のお困り相談所だ。
だがそれを弟の恵太は知らない。
意図的に隠しているのも第一にあるが、恵太は普通の子であるはずだから、妖などと聞くと怖がってしまうだろう。
「よぉ、久しぶりだな咲。見ない内に腑抜けになりやがったな」
「何だ、翡翠か。何かようか」
古い付き合いである翡翠は、実はあまり咲は好きではない。すきあらば自分の命を狙い、さらには大切な恵太にまで手を出そうとしている不埒な輩である。だいたいに恵太は己の者であるというに、それを知りながらちょっかいかけるのが許せない。
「何だとはなんだ。せっかく俺様が直々に可愛い恵太を謀った奴を捕まえて来たというに」
「何?それを早く言え。それで、そいつはどこにいるんだい?」
「そこ」
指さした先にぐったりとした黒猫がいた。咲はどうしてやろうかと私案している最中に、何を思ったか、恵太がその黒猫に近寄った。くたりとして動く気配はなく、愛しげに抱き上げて撫でやる恵太に、咲は嫉妬を覚えた。
もはやあの黒猫はぎたぎたに切り裂くのは決定したも同然だった。
「兄さん。この黒猫飼おうよ。ねぇ、いいでしょう?」
とてとてと可愛いらしい音を立てながら黒猫を抱いたまま、近づいてくる恵太に、咲は顔を引き攣らせた。しかし、可愛い可愛い恵太のお願いを断れるわけがない。
甘い甘い咲は弟の我が儘を聞いたことがなかった。
だから思わず頷いた途端はっと気がついた時には遅かった。
喜ぶ恵太を尻目に、苦々しい表情を浮かべた。その隣でくつくつと笑いを堪える翡翠を八つ当たりとばかりに睨み付けた。
「何故人型で連れてこなかった。そうすれば……」
「八つ当たりは寄せよ。それより、恋敵がまた増えちまうかもなぁ。まあ、俺も恵太を諦めるつもりはないけどな。……それじゃ俺はもう行くぜ」
じゃあなと翡翠はそのまま店を出ていった。
かくして狐々堂に新しい住人ができた。黒猫が目を覚ましたとき、調度恵太が店番をしていて、こってりその家主に絞られたのは言うまでもない。
終幕。
後書き
狐々堂シリーズ第二段
2008.2.10
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?
こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。
自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。
ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
身の程なら死ぬ程弁えてますのでどうぞご心配なく
かかし
BL
イジメが原因で卑屈になり過ぎて逆に失礼な平凡顔男子が、そんな平凡顔男子を好き過ぎて溺愛している美形とイチャイチャしたり、幼馴染の執着美形にストーカー(見守り)されたりしながら前向きになっていく話
※イジメや暴力の描写があります
※主人公の性格が、人によっては不快に思われるかもしれません
※少しでも嫌だなと思われましたら直ぐに画面をもどり見なかったことにしてください
pixivにて連載し完結した作品です
2022/08/20よりBOOTHにて加筆修正したものをDL販売行います。
お気に入りや感想、本当にありがとうございます!
感謝してもし尽くせません………!
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる