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プリティダーリン 可愛い攻め 鈍感モテ受

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いつも背の高い事を気にして俺は猫背になって、人を上から見下ろすのが恥ずかしくて前髪を長くしていた。
下から上へと見られると、何だか必要以上に見られているような気がして仕方がなかった。
大きな俺は、仕種が遅いとすぐに目立つ。マイペースな性格をしているから、とろいと言われるのは常だった。
根暗だから友達も少ない。
しかし、こんな俺を好きだといってくれる奴が何人かいて、俺はいつもそいつらと一緒にいた。

「柚木(ゆずき)、大丈夫?」

「……海宝(かいほう)……うん。大丈夫だよ」

廊下を歩いていて人にぶつかり、よろけた俺を海宝は、その勝ち気な瞳を心配そうにして見つめてきた。
高確率で俺は一日に一回は誰かとぶつかってしまう。
きっと俺みたいなのが彼ら三人とつるむのが気に食わなくて、わざとぶつかってくるのだろう。

「立てるか?柚」

「ありがとう、伊高(いだか)」

「あ、ずりー。ユズの手なんか握りやがってよ」

「うざいよ」

海宝が騒ぐ大西(おおにし)に冷たい視線をなげかけた。
この三人が俺の友人だ。
海宝水月(みつき)は中学一年の時に知り合って、その時には海宝はすでに、うちの学校では有名だった。
私立の男子校で、幼・小・中とエスカレーター式で、俺は中学受験してこの学校に来たのだが、どうも女子との交流が少ないためか、同性もその……恋愛対象に見るのだそうだ。
幼等部から海宝のその中性的な美貌は輝いており、華奢な作りの身体がはかなげに見えるのか守ってやりたいと人気だった。
そして海宝とは幼なじみだという伊高薔矢(しょうや)と大西千鶴(ちづる)も海宝に負けず劣らずの美貌の持ち主だ。
伊高はまるでフランス人形のような顔立ちで、クォーターのために薄い色素で強い眼差しで相手をいぬくようなキツイ印象だが、身長が三人の中で1番低いためか、まるで子犬が威嚇しているように感じて男どもの庇護欲をそそるのであった。
そして大西は女の子顔負けの可愛いらしさと明るさを持つスポーツ少年だ。バスケットをしているのだが、身長が低いために不利だとぼやいていた。
ころころと変わる喜怒哀楽がとても可憐で良い!と人気をはくしていた。
そんな人気者三人と、何の取りえもなくできのぼうな俺がつるんでいたら、周りはやっかみを持って、俺を睨んでくる。
今のもその妬みからくるちょっとした嫌がらせだった。

まぁ、幸いなのは海宝達が、この学校でいうネコと認識されているから、もっとも過激な嫉妬を受けなくて済んでいるという点だ。
タチが嫉妬してもそう酷い嫌がらせは受けない。
問題はネコが嫉妬した場合だ。そりゃあ、俺は中等部に入ってからその凄惨な光景を目の当たりにしてきているので、人気者のタチには近づかないよう常日頃気をつけいるのだ。
話はずれてしまったが、しかし、周りが三人を可愛いと騒いでいるのだから、言わずと彼等を狙う輩は出てくるわけで、もちろんその中には人気者のタチも入っているのが問題だった。

「あいっかわらず鈍臭いな、お前」

「ホント、顔も鈍臭いのに、いいところね~」

「おい、本当の事を言ったら失礼だろう」

にやにやしながら今、俺の前に現れたのは可愛い男達に大人気の三人だった。
海宝達が俺を庇うようにして立ちはだかった。

「白草(しらくさ)、お前僕の柚木に近づかないでくれる?」

「そうだね。柚が汚れる。だいたい、何の用もないなら俺と柚の時間を邪魔しないで欲しいんだけどね、露理(つゆり)」

「いっつもユズにいちゃもんつけてさ、ウザイんだよ、葛(かずら)達」

そう冷たい言葉をかけられた三人は、特に傷付いた様子も見せずに笑みを浮かべた。
白草は茶髪に紅いメッシュが入って、ワイルドな性格をしているため一見不良に見えるが成績もよく生徒会会計をしている。
露理は来る者拒まず、さる者追わずと、遊び人として有名だ。ダークブルーをしたしたふんわりした髪型はひそかに犬のようで可愛いと思う。学校一の頭脳明晰者らしい。
最後に葛はあまり喋らない男で、バスケットのエースを一年ながら勤めているらしく、背も190近い大きな男だった。
俺も179とあるけど、葛は少し見上げる形となってしまうのだ。

「水月、相変わらず可愛いな。勝ち気な態度もそそるぜ」

「もうツレナイね~、薔矢」

「別にいちゃもんつけているわけじゃない。ただ、千鶴に会いに来てるだけだ」

毎日足しげく通うこの白草達はどうも、白草が海宝に、露理が伊高に、葛が大西に気があるようなのだ。

「悪いけど、君は僕のタイプじゃないんでね」

「好きでもない奴に愛想ふりまいても無意味だ」

「もーしつこいよ。行こうぜ。授業に送れる」

白草達からさっさと離れようと歩き出した海宝達を俺も後から追い掛けた。
どうも海宝達は誰か共通の想い人がいるらしく、たまに言い争ったりしている。しかも聞いていると、彼らはその想い人を抱きたいそうなのだ。
可愛くて抱きたいと周りから言われている海宝達が抱きたいと豪語するその子は相当可愛い子なのだろう。いつもその子の話をして幸せそうに微笑む海宝達を羨ましく思う半面、胸にしこりが残る。
特に海宝が他の誰かと話していてもずきりと胸が痛んだ。
中等部に入りたての頃この学校に馴染めなくて、ふさぎ込みがちだった俺に手を差し延べてくれたのが海宝だった。

周りに打ち解けさせてくれて、分からない俺に色々教えてくれたのも海宝だったんだ。
そんな綺麗で優しい海宝に恋心を抱くのに、そう時間はかからなかった。

「まったく、毎日こうじゃ嫌になる。足止めくらうし……ごめんね、柚木」

「ううん、別に気にしてない」

「あ、そういえばユズ、今日ラブレター貰ってたろ」

「何?!本当なの?柚」

「柚木にラブレターなんて許せないね。身の程知らずも良いところだよ」

「ま、ユズはモテるからね」

次が移動授業だったために理科室につき、班になって席につくと大西が思い出したとばかりに聞いてきた。過剰に眉間にシワをよせた伊高が手紙を出すように手を出してきて、海宝も険しい顔をしている。
三人は俺が誰かの呼び出しや手紙を貰うと酷く騒ぎ立てる。
多分嫉妬から来る嫌がらせのためのエサだと思うのだが、そんな事を言っても彼らはがんとして信用してはくれなかった。
しかも何を血迷ったのかと考える程俺がモテると言い放つのだ。
しかし、俺はモテた事等一度もなく、首を傾げるばかりだった。

「……授業始まるよ」

俺は手紙を渡さないまま、先生が来た事を告げた。不満そうな三人をよそに、俺は何事もないように真面目に授業を受け始めたのだった。





□□□





俺達が通う学校は、自宅から通う奴と、寮に住む奴の二つに別れていて、俺と海宝は寮住まいだ。
そして去年から同じ部屋になっていた。
一緒になれたのが嬉しくて、俺は暫くご機嫌だったのは言うまでもない。
しかしそれから問題が一つだけ生じてしまった。
それは一緒にいて物凄くドキドキするのだ。日中は伊高や大西がいるけれど、部屋では二人きりだ。
上手く海宝と喋れなくて、ずっと見つめる事しか出来なかった。
そんな俺を海宝はくすりと笑うのだった。

「ね、今日貰った手紙の返事はしたの?」

「え……」

理科の授業が終わった後慌ただしくお昼になって、また白草達が現れたからうやむやになっていたから、済んだ事になっていたものなんだと思っていたから、部屋に帰りソファーに座った途端に問い詰められた俺はぽかんと海宝を見つめた。

「そんな可愛い顔をしても駄目。で、どうなの?」

「返事所か中身も見てないよ。きっと嫌がらせだろうから」

「そう……」

俺の言葉を聞いて、海宝はほっと息をついた。
それから良かったと笑みを浮かべたので、俺の頬に熱が集中する。
「本当良かった。もしラブレターで、それで柚木に恋人が出来たらどうしようかと思ったよ……」

「……でも、俺好きな人いるよ……?」

勇気を振り絞って言った言葉にしんと一瞬静まり返った気がした。
笑顔のまま微動だにしない海宝に、俺はどうしたのかと恐る恐る近づいていって、手を顔の前に翳して上下に動かした。
数秒停止したままだった海宝はいきなり俺の手を掴んだ。
そしてもう片方の腕を掴まれて、どうしたのかと言う暇もなくソファーに寝かされていた。
上から無表情な海宝がこちらを見下ろしていて、何だか怖い。

「好きな人って誰?」

冷たい声は今まで聞いた事もなく、拘束する手の力もどこから出てくるのか分からない程強かった。俺はただ戸惑いながら海宝を見つめた。

「言って?柚木の好きな人って誰なわけ?」

俺が好きな人は海宝なのだが、こんな怖い状態の海宝に正直に言うのは躊躇われた。しかも海宝は自分は抱きたいと言っていたのだから、明らかに俺が好きだと言えば不愉快に思うだろう。
ただでさえ友達というポジションにいるのに、俺が目を反らすとぎりっと力が強まった。

「言ってくれるまで離さないから……千鶴が好きなの?それとも薔矢?……まさか、白草達の中にいるんじゃないよね?」

「違うよ!……俺が好きなのは海宝だ」

的外れな人物ばかり聞いてくる海宝に、思わず俺は叫んでいた。
何だか悔しくて、涙が滲んでくるがそれから自分が告白してしまった事に気が付いた。
驚きに見開かれた海宝に俺はじっとなにを言われるのか、待っていた。
詰られても仕方がないと覚悟をしていると、そっかと小さい声が聞こえてきた。

「嬉しいな」

頬を染めて、満面の笑顔を浮かべる海宝の可愛さに、俺はしばし見取れた。

「僕も、柚木の事大好きだよ。両想いだったんだね」

「え、え?!あ、嘘……」

「本当だよ。好き、好きだよ、柚木」

ぎゅうううと抱きしめてくる海宝に俺は驚きを隠せず、拘束を解かれた手をどうしようかと考えあぐねていた。
そんな事をしている間に海宝の顔が近づいて来て、俺の唇と海宝の唇が重なった。
急で驚いたが、それでも漸く頭がついてきて、俺は海宝と両想いだった事が分かり頬が赤くなりながら受け入れたのだった。

「両想いなんだから、このまま最後までいっていいよね?じゃないと信じられない」

海宝が何やらぶつぶつ呟いて、それから自分で納得させたようで、にこりと微笑んだ。
わくが分からない俺は、そのまま海宝に恋人としての交わりを最後までされてしまったのだった。






「柚木、腰大丈夫?」

朝、首を傾げて心配してくる姿はとてもかわいらしいが、まさか、昨夜この可愛い水月に抱かれてしまうなんて誰が考えていただろうか。
俺は大丈夫だと頷いてから二人で教室に登校した。

「おはよーユズ」

「……柚、何だか顔色が優れないみたいだけど大丈夫か?」

出迎えてくれる伊高と大西に挨拶しながら席につくと、伊高が心配そうに顔を覗き込んできた。
しかしすぐに水月が間に入って来た。

「僕と柚木は付き合う事になったから、身も心も僕のものになったんだよ。だから二人とも、柚木にはちよっかい出さないでね」

「な、本当なの?柚」

「嘘だよねユズぅ」

「あ、うん……俺、水月と付き合う事になったんだ」

改めて言われて、俺は恥ずかしくなって俯いてしまった。

「そ、そんな……僕は諦めないからな」

「お、俺だって……!」

うるうると瞳を潤ませる伊高と大西が可愛くて、つい頭を撫でていると、水月が俺を後ろから抱きしめてきて、頬に唇を押し付けてきた。

「ああ、ユズが……しかもいつの間にか名前呼びだし!」

「水月、柚を離せ!」

「柚木、大好きだよ」

「うん……」

何やら悔しがっている伊高と大西をよそに、俺は囁いてくる可愛い恋人に夢中になっていたのだった。




END


あとがき
受けっぽい攻めと攻めっぽい受けを書こうとしてただでかい受けになった気がする……。
と、とりあえず水月視点も書こうと思います。







おまけ

中等部になって、僕は天使にあった。そう、今までに見た事がないくらいに可愛い男のこ。
それまで僕は周りと違って、いたって男同士でとか考えた事もなかった。
可愛いと言ってちやほやしてくる奴らがうざかったし、同じ可愛い容姿をした幼なじみである千鶴も薔矢ともつるむなんて事もなかったのに柚木が現れてから僕の世界はがらりと変わった。
その頃、柚木は身長が低くて、潤む瞳や柔らかそうな唇。ふわりとした黒髪がまるで奇跡のように美しく、すぐに人気者になった。
こんな可愛いくてはかなげで、清純な柚木を不貞な輩に近付けてはいけないと、僕はありとあらゆる不純な感情を抱く奴らを遠ざけた。
そして守るうちに僕は柚木を好きになっていてたんだ。
僕が一人の人間に執着している事をからかいに来た千鶴と薔矢もいつの間にか柚木に惚れていた。

それから柚木は中等部二年から成長期に入ったのか、ぐんぐん背が伸びて、高等部になった頃は180くらいにも伸びてしまっていた。
かたや僕はまだ成長期が来ていないために160と低い。
それでも幼なじみを牽制しながら、毎日を悶々と過ごしていた。

だいたい、中等部三年から家の権限をふる活用して一緒になったのは良かったものの、お風呂上がり姿や、誰も邪魔しない空間に二人きり等、手が出せないなんて拷問に近い。
欲情と理性の攻めぎ合いの日々だった。

しかし、ここでまた問題が発生した背が高くなり、コンプレックスなのか猫背になって、前髪をのばしても、その前髪をどかせば綺麗な顔が見え、優しい性格で周りに接するために、以前は抱きたいという人間にモテていたのが、今度は抱かれたいと思う人間にモテ始めたのだ。

それこそ白草達も柚木にぞっこんだったくらいなのに……まぁ今は僕達に狙いをつけたようだ。それは、これからも柚木に再び狙いをかけないならばそれでいい。

本人に自覚はないようだけど、柚木はモテていて、僕は気が休まる事はない。

早く成長期が来て守れるようになりたい。
そう思う気持ちがぐんぐん強くなる。
幸い僕は上の兄や父がそうだったように高等部から成長期のようで、身長がぐんと伸びた暁には、沢山柚木を可愛がってあげるつもりだ。

それまではまだ、柚木のそばで恋敵を蹴散らす日々だ。







END




付き合う前って事で!






081112






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