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モブキャラ男子にきっかけを

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 「その……なんだ。実は俺さ、ずっとお前のことが好き……だったんだ。付き合ってくれないか」

 「……嬉しい! 私もようやく好きって言える」


 伝説の樹の下で、僕らは愛を確かめ合う。
 これまでに多くの試練があった。
 しかし、それらを乗り越え、永遠とも言える愛を確かめ合うことができた。



 ……ようやく終わったか。
 僕は画面に表示されるエンディングを、ぼんやりと眺める。

 積みゲーの消化っていう作業だ。
 モブキャラである僕にも、多少の欲求はある。

 それは例え、無くそうと決めても完全には消えない。
 それを補うため、以前買い込んでしまったギャルゲーを片っ端から始めていた。

 こうしてみると、主人公って恵まれているよなぁ。
 もともと近所に美人が住んでたり、高校初日に美少女とハプニングにあったり。
 もっと凄いのだと、空から突然女の子が降ってきたり。

 ゲームの場合、そんなに恵まれているのに他の子を好きになったり。
 この手のゲームって、プレイ中はいいんだけど、終わってからの現実がつらい。

 僕のようなモブキャラにも夢を与え、ことごとく打ち砕く。
 人の夢は儚いってか。



 「……朝からどした? いつにもまして暗い顔をして」

 「大地か。実は昨日ギャルゲーの掃除をだな」

 「なるほど」


 これだけで、大体の内容を理解してくれる友人。
 似た者同士だからこその、意思疎通というものだろう。


 「でもさ、お前の隣には美少女がいるからいいじゃん。ゲームの主人公っぽい」

 「側から見ればね? でもさ、現実はこんなもんだよ」


 そう、実際に体験すればゲームのようにはいかない。
 空から女の子が降ってきたら、パニックになりすぎて失神しそうだし。


 「人の夢と書いて、儚いと読む。まさにだな」


 本当、彼と知り合えて良かったと思う。



 それからしばらくし、昼休み前最後の授業。
 数は減ったが、相変わらずの視線を感じる。

 でも、最初に比べると慣れてきたかも。
 半分は諦めの効果もあるだろうが。

 その時ふと、ギャルゲーについて思い出す。
 そうか、主人公たちもこういう見えないものと戦っていたのか。
 慣れればなんてことないのかも。


 するとその時、右隣から何かが落ちる音が聞こえた。
 そう、本田さんの席の方から。

 音がした場所をチラッと見る。
 そこには僕のものではない消しゴムが。
 と言うか、高確率で本田さんのものだろう。

 視線をゆっくりと本田さんの方へ向けと、消しゴムを探しているのか、キョロキョロしているのがわかる。

 僕は近くに落ちたその消しゴムを拾い、何も言わずに渡す。
 それを見た本田さんは、こちらを笑顔で見ながら小声で。


 「ありがとう、佐藤君」


 そう言った。
 なんだろう、たった一言なのに、凄く嬉しい。
 これがヒロイン力とでも言うのか。

 さり気なく名前まで呼ばれたし。
 こんな地味な僕の名前を?
 いかん、感動して泣きそうだ。



 そんなこともあって、昼休み。
 当然授業内容は全く覚えていない。
 頭の中では、先ほどの出来事が無限リピートされている。


 「おい博、昼休みになったぞ~。そろそろ意識を取り戻してくれ」

 「あ、ああ大地か。もう帰る時間か?」

 「何馬鹿なこと言ってる? まだ昼休みだぞ。ずっと心ここに在らずって感じだけど、どうかしたのか」


 さっきの事を大地に説明するか否か。
 他の男子には死んでも言えないが。


 「……大地、今日は教室以外で食べよう。話があるんだ」

 「別にいいけどどうした? そんな真剣な顔で」



 怪訝そうに見る大地を連れ、人の少ない校舎裏にやって来る。


 「おい博? お前まさか頭がおかしくなって、俺に何か伝えようとしてるんじゃ」

 「ん? 大地よくわかったな。僕は今から、とても大切な事を言おうとしてる」


 すると、大地の顔に焦りの色が見える。


 「お、おい!? 俺は別にそう言うのはアレだぞ!? 心の準備も」


 心の準備?
 何か勘違いしてるのだろうか。


 「僕が大地に言いたいのは、モブキャラからの卒業だ」
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